学位論文要旨



No 111815
著者(漢字) 年吉,洋
著者(英字)
著者(カナ) トシヨシ,ヒロシ
標題(和) マイクロアクチュエータによる光制御とその応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 111815
報告番号 甲11815
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3613号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 教授 原島,文雄
 東京大学 教授 鳳,紘一郎
 東京大学 教授 岡部,洋一
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 菊池,和朗
内容要旨

 本論文は,メカニカル光スイッチや機械的な光制御デバイス等の小型化・集積化・量産性等を実現するための方法として,マイクロマシニング技術を用いたデバイス設計・製作法を提案する.

 一般にメカニカル光スイッチは,波長無依存性,偏波面無依存性,高消光比,低クロストーク等の優れた光学特性を持っているが,従来のデバイスには小型化・集積化・量産性等の問題があった.そこで本研究では,微小なミラー等の光学部品を機械的に駆動してスイッチングを行うマイクロメカニカル自由空間光スイッチを,マイクロマシニング技術を用いて製作し,これらの問題を解決することを検討した.第1章では,本研究の必要性と特徴,応用について議論する.また,マイクロメカニカル自由空間光スイッチを実現するための検討課題として,(1)光学部品とアクチュエータの一体化,(2)光制御に十分な変位を発生するアクチュエー夕の開発,(3)自由空間光スイッチの伝搬損失の低減,(4)歩留まり良く光スイッチを製作するプロセスの開発,の4点を検討した.

 課題(1)を解決するために,第2章では水晶基板を用いた圧電アクチュエータを光制御デバイスに応用する方法を提案し(チョッパ,光ファイバスイッチ),課題(2)を実現するためのデバイス設計方針を検討した.その結果,水晶アクチュエータの共振の振幅を光チョッパ等の単体メカニカル光制御デバイスに応用可能であることを示した.また,共振の振幅から効率よく直流的な大変位を取り出す駆動方法を新規に開発し(疑似スタティック変位メカニズム),その変位をメカニカル光スイッチに応用した.また,集積化に適したデバイスとして,第3章ではシリコン基板上の静電駆動型トーションミラーによる光ファイバマトリクススイッチを提案し,自由空間における2x2,3x3光インタコネクトを小面積(3mmx5mm)で実現した.その結果,メカニカルなインタコネクタとしては高速のスイッチング速度0.3sを得た.また,課題(3)に関して,収束光ファイバを用いて入出力光の結合を行い,スイッチ全体の挿入損失を10dB以下に抑制することができた.さらに,課題(4)に関して,歩留まりを向上するために,水晶圧電駆動サスペンションの自己整合プロセスや,トーションミラー構造のダイヤフラムリリース法など,プロセス上の多くの改良を検討した.

 第4章では,本研究で製作したデバイス特性の総合評価を行い,各デバイスに適した応用形態を検討した.また,他の方式による光スイッチとの光学特性の比較を行った.これらの結果として,本研究では,マイクロマシニング技術を用いて自由空間マイクロ光スイッチを製作することにより,メカニカル光スイッチの特性(低損失10dB,高消光比60dB,低クロストークー60dB)に加えて,デバイスサイズの小型化,チャネルの集積化,一括加工による大量生産性が実現できることを示した.

審査要旨

 本論文は、「マイクロアクチュエータによる光制御とその応用に関する研究」と題し、光情報機器の小型化のため、半導体微細加工技術で作るマイクロマシンを応用することを提案し、幾つかのデバイスを設計・製作することでこの提案の有用性を実証的に示したもので5章よりなる。

 第1章は「序論」であり、光技術の情報通信処理への応用を進める上でのマイクロメカニカル光スイッチの重要性と、その小型化・集積化・量産性向上のための課題について論じている。

 第2章は「水晶マイクロマシニングによるマイクロ光制御アクチュエータ」であり、水晶を半導体技術を援用したマイクロマシニングで加工した光ビームのチョッパーやスイッチの設計、製作、性能評価について述べている。水晶は、圧電性があるためアクチュエータとして用いる場合の構造が簡単になること、また結晶方位面に依存する異方性エッチングを利用したマイクロマシーニングで微細構造を作れること、などの特長がある。独自に考案した圧電アクチュエータを計算機解析に基づいて設計し、水晶基板をマイクロマシニング加工して、振動形のマイクロ光チョッパーを製作した。さらに位相同期回路による自励振動駆動を行い、極めて実用的なデバイスを得ることに成功した。このデバイスは従来のものに比べ大きさが2桁程度小さく、性能も遜色のないものであることを確認している。

 次いで、オン・オフ式の光スイッチを、同じく水晶から製作した。一端を固定した特殊な形状の振動子を設計し、高次の共振状態において、自由端が静的でかつ大きな変位を生ずるアクチュエータを作ることに成功した。自由端にあるシャッターを移動して、スリットを通る光をオン・オフする。また、理論解析と数値計算から、この現象の原因が構造の非線形ばね特性にあることを示した。この解析に基づき、小型で大きな変位のとれるデバイスの設計指針を与えている。

 第3章は「シリコンマイクロマシニングによるマイクロ光制御アクチュエータ」であり、静電気で動くマイクロミラーにより、光ビームの方向を自由に制御するデバイスについて述べている。細いトーションバーで支えたミラーをシリコン基板上に作り、これに静電力を加えて、0から90度の間に傾ける。ミラーの傾きに応じて、コリメートビーム光ファイバーからの光ビームの反射する方向が制御される。この可動ミラーをn×nのアレイに並べた自由空間光制御デバイスにより、光通信網の接続の変更に用いられるn×nの光マトリクススイッチが実現できることが実験的に示されている。スイッチの挿入損失や動特性などの性能評価、設計の最適化、および製作プロセスの改良による量産性の向上を論じている。

 第4章は「総合評価と従来の光スイッチとの特性比較」であり、上記の各アクチュエータに適合した応用形態の検討を行うとともに、従来の光スイッチと特性を比較した。従来のものと同等の性能を維持しつつ、小型化・集積化・量産性向上を実現できる利点があると結論している。

 第5章は「結論」であり、得られた成果が纏められている。

 以上これを要するに、本論文は光情報機器の小型化・集積化・量産性向上のため、半導体微細加工技術で作るマイクロマシンを応用することを提案し、各種のマイクロメカニカル光スイッチを設計・製作することでこの提案の有用性を実証的に示したもので、電気工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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