学位論文要旨



No 111831
著者(漢字) レバノン,アミカン
著者(英字) Levanon Amikam
著者(カナ) レバノン,アミカン
標題(和) 光ソリトンの反射測定への利用とその非線形センサへの応用
標題(洋) Solitons for Optical Fiber Reflectometry and Nonlinear Sensing
報告番号 111831
報告番号 甲11831
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3629号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤井,陽一
 東京大学 教授 多田,邦雄
 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 荒川,泰彦
内容要旨

 現在、光ファイバ・リフレクトメトリ(OTDR)および非線形ファイバ・センシングのために、ソリトンを応用することが提案されている。現在はソリトン技術、ソリトニクス・テクノロジーは成熟の段階に達し、光ファイバソリトンは将来の長距離・超高速通信方式における重要な構成要素と位置づけられている。こういった状況の中、「ソリトンは、ソリトン通信路の故障診断あるいはソリトン論理デバイスに利用する事はできないか、あるいは、この方が有用なのではないか」という可能性が考えられる。本論文においては、OTDRにおけるソリトンパルスの伝搬およびパルス幅の広がりについて考察した。特に3つの重要な性質、すなわちリターンパルスのパルス幅・入射パルスエネルギー・スペクトルの振る舞いについて考察をおこなった。これらの性質において、ソリトンに特有な特質がOTDRシステムの性能向上または新しいファイバ故障診断ツールとして活用できる事を示した。

 ソリトンが伝搬する場合、伝搬するパルスから散乱されて戻ってくるパルス幅はソリトンでないパルスを用いた場合とは大きく異なる事が分かった。すなわち、一般のパルスの場合パルス幅は常に広がっていくが、高次ソリトンを用いた場合狭くする事が可能であることを示した。

 反射パルス輻は伝搬距離に応じて変化する。そこで距離分解能を一定にしたシステムにおいてソリトンパルス、および、通常の非ソリトンパルスのエネルギーを調べた。入射エネルギーに対する解析解を導き、計算機シミュレーションにより確認を行った。その結果、線形及び非線形広がりの相互作用のため、ソリトンの場合、少なくとも2.6倍のエネルギーを入射できることが分かった。パルスの分散長近くでは、ソリトンパルスを用いた場合入射パワーを10dB以上増加できることが分かった。これはソリトンの場合、一定分解能を仮定すると、測定可能距離を伸ばせる、あるいは一定距離においては分解能を上げることが出来ることを意味する。

 高操り返しのモード同期レーザは、入射ソリトンのパケットを発生させるのに最適である。多数のソリトンパルスからなるソリトンパケットは、一般のパルスを用いる場合より多くのエネルギーを送れることが分かっている。レーザによりパルス幅が固定である多くの実際のシステムの場合、必要なエネルギーを得るにはパケットにするのがより適切である。さらに、パケットに含まれる短ソリトンパルスは、高いピークパワーが得られるので、一般的に高強度が必要とされる非線形ファイバセンシングにも利用可能であろう。

 スペクトル領域では、反射信号は散乱が起こった場所におけるスペクトルを反映している。この原理を用いた、新しいOTSDR(Optical Time-resolved Spectral Domain Reflectometry)を実験的に検証し、世界で初めて5kmファイバ中を伝搬する高次ソリトン、および、非ソリトンパルスの連続的な変化を直接観測することに成功した。この実験において、高次ソリトンの連続的な周期変化およびソリトン距離におけるソリトンのスペクトルの回復を鮮明に観測した。実験結果はシミュレーション結果と正確に一致した。OTSDRの利用法としては、ソリトンパラメータ(ソリトン距離)、あるいは、ファイバシステムのパラメータ(分散・非線形・強度依存の性質)のその場観察、パルス伝搬理論の実験検証、光センシングが挙げられる。このOTSDRの、いくつかの応用における実験法について、提案を行った。

 以上、これを要するに、本論文は、ファイバソリトンの物理とファイバ・リフレクロメトリおよびファイバセンシングを結合させよう、とするものである。本論文では、光ファイバソリトンの伝搬に関して、特に光センシングへの応用を目的として多くの新しい性質の発見、新しい測定法の提案をおこない、その可能性を示したものであって、光電子工学の進展に寄与することが大きい。

審査要旨

 本論文は、"Solitons for Optical Fiber Reflectometry and Nonlinear Sensing";(邦訳:光ソリトンの反射測定への利用とその非線形センサへの応用)と題し、光ソリトンの新しい応用について述べたものであって、以下の5章からなる。

 第1章は、"Introduction"と題し、本研究の背景、動機について述べる。

 現在、光ファイバ・リフレクトメトリ(OTDR)および非線形ファイバ・センシングのために、ソリトンを応用することが提案されている。

 現在はソリトン技術、ソリトニクス・テクノロジーは成熟の段階に達し、光ファイバソリトンは将来の長距離・超高速通信方式における重要な構成要素と位置づけられている。

 ソリトンは、ソリトン通信路の故障診断あるいはソリトン論理デバイスへの利用の可能性が考えられる。

 本論文においては、OTDRにおけるソリトンパルスの伝搬およびパルス幅の広がりについて考察した。なかでも、特に3つの重要な性質、すなわちリターンパルスのパルス幅・入射パルスエネルギー・スペクトルの振る舞いについて考察をおこなった。これらの性質において、ソリトンに特有な特質がOTDRシステムの性能向上または新しいファイバ故障診断ツールとして活用できる事を示した。

 第2章は、"Soliton and OTDR:Background and Performance Limits"と題し、ソリトン技術とOTDRの問題点について述べる。

 ソリトン伝搬の解析、実験については、多くの研究が成されているが、これらは、主に光通信を目的とするものである。ソリトンを光応用測定、とくに、OTDRに利用すると、その光パルス幅が一定であること、ピーク出力が大きいこと、という利点がある。

 ソリトンが伝搬する場合、伝搬するパルスから散乱されて戻ってくるパルス幅はソリトンでないパルスを用いた場合とは大きく異なる。これが、ソリトンOTDRを実用化するための大きな問題点である。

 この章では、OTDRに応用することを目的とするソリトン伝搬の問題点の指摘をおこない、以下での解決を示唆している。

 第3章は、"Mathematical Analysis:Solitons Propagation in OTDR Geometry"と題し、本論文の主眼であるOTDRソリトンの伝搬解析について述べる。

 ソリトンは、理想的な場合、パルス波形が変化しないで伝搬するが、OTDRに現れる後方散乱波は、振幅が小さいので、ソリトンではない一般の光パルスになる。その場合、一般の散乱パルスの場合パルス幅は常に広がっていく。しかし、この論文では、高次ソリトンを用いた場合狭くする事が可能であることを示した。

 後方散乱パルス幅は伝搬距離に応じて変化する。距離分解能を一定にしたシステムにおいて、ソリトンパルス、および、通常の非ソリトンパルスのエネルギーを、解析的に調べた。入射エネルギーに対する解析解を導き、計算機シミュレーションにより確認を行った。その結果、線形及び非線形広がりの相互作用の結果、ソリトンを用いて、少なくとも2.6倍のエネルギーを入射できることが分かった。更に、伝搬距離がパルスの分散長に近づく距離では、ソリトンパルスを用いると、入射パワーを10dB以上増加できることが分かった。これはソリトンの場合、一定分解能を仮定すると、測定可能距離を伸ばせる、あるいは一定距離においては分解能を上げることが出来ることを意味する。

 高繰り返しのモード同期レーザは、入射ソリトンのパケットを発生させるのに最適である。多数のソリトンパルスからなるソリトンパケットは、一般のパルスを用いる場合より多くのエネルギーを送れることが分かっている。レーザによりパルス幅が固定である多くの実際のシステムの場合、必要なエネルギーを得るにはパケットにするのがより適切である。さらに、パケットに含まれる短ソリトンパルスは、高いピークパワーが得られるので、一般的に高強度が必要とされる非線形ファイバセンシングにも利用可能であると考えられる。

 第4章は、"Experimental Account"と題し、時間分解スペクトル領域OTDR法(OTSDR)について述べる。

 スペクトル領域では、反射信号は散乱が起こった場所におけるスペクトルを反映している。この原理を用いて、新しいOTSDR(Optical Time-resolved Spectral Domain Reflectometry)を提案した。

 このOTSDR法を、解析的、実験的に検証し、世界で初めて5kmファイバ中を伝搬する高次ソリトン、および、非ソリトンパルスの連続的な変化を直接観測することに成功した。この実験において、高次ソリトンの連続的な周期変化およびソリトン距離におけるソリトンのスペクトルの回復を鮮明に観測した。実験結果は計算機によるBPM法を用いたシミュレーションの結果と十分正確に一致した。

 OTSDRの利用法としては、ソリトンのパラメータ(ソリトン距離)、あるいは、ファイバシステムのパラメータ(分散・非線形・強度に依存の性質等)のその場観察、パルス伝搬理論の実験検証、光センシングが挙げられる。このような、OTSDRの、いくつかの応用における実験法について、提案を行った。

 第5章は、"Conclusion"と題し、結論であって、以上の論文をまとめたものである。

 以上、これを要するに、本論文は、ファイバソリトンの物理とファイバ・リフレクトメトリおよびファイバセンシング技術を結合させよう、とするものであって、光ファイバソリトンの伝搬に関して、特に光センシングへの応用を目的として多くの新しい性質の発見、新しい測定法の提案をおこない、その可能性を実験的に示したものであって、電子工学の進展に寄与することが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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