高温超電導体は、臨界温度、臨界磁場が共に高く、しかもバルク状で利用できることなどの特徴を有しているので、工学の多くの分野で応用され始めようとしている。電力貯蔵用に高温超電導フライホイールなどが検討されているがこれは電磁力応用の代表的な例である。高温超電導体を工業の各分野で電磁力の生成や磁場の整形などに応用しようとすると、品質向上と診断技術の確立が必要である。特に高温超電導バルク材は、結晶粒界や構造異方性などを有しており、等価的な臨界電流の低下につながったり精度の高い電磁力評価を困難にしたりするので、これらの特異性を評価する手法を開発することが望まれている。そこで本論文では、第II種超電導体の特異性が電磁現象に及ぼす影響に着目して、理論と実験によりそれらを明らかにしようとするものである。ここで扱う特異性とは、結晶粒界に起因する臨界電流密度の非一様性と高温超電導体の結晶構造などに起因する臨界電流密度の異方性の二点である。 第1章は序論であり、本研究の背景と目的及び概要について述べている。 第2章では超電導現象の中で本研究に関係する基礎的事項の説明を行っている。 第3章では、高温超電導体と常電導マグネットの間に働く電磁力に注目して、その動的効果を調べている。結晶粒によって遮蔽電流路が拘束されるために、得られる電磁力はサンプル値の臨界電流値から予想される値より低下するが、その等価臨界電流を決定するために動的実験に先立って静的実験を実施している。このことによって結晶粒や材料異方性が超電導体の磁化や電磁力等に及ぼす影響を考慮できる。 本章では、高温超電導バルク材と常電導マグネットの間に働く動的電磁力の磁気減衰と磁気剛性の特性を調べており広い範囲の振動に関して計算と実験が一致した結果を得ている。 第4章では、高温超電導バルク材の結晶粒界の形状決定問題を取り扱っている。遮蔽電流は通常結晶粒界を横切って流れることはできないので、結晶粒の形状によって流路が左右されることになる。流路による影響は先に述べた等価臨界電流密度を用いることによって考慮できるが、電磁力のヒステリシス曲線の形状等がを必要とする場合には、結晶粒の形状を利用に先立って知っておくことが重要となる。この形状は原理的には、遮蔽電流が作る磁場分布を測定することによって決定することができる。ここでは磁場と電流ベクトルポテンシャル(T法)の簡単な関係を使って、逆問題として問題を定義して数値解を得ている。具体的な数値解法としては、GA(遺伝的アルゴリズム)を使用している。GAの変数としては、結晶粒の位置、大きさ、Tc(電流ベクトル値)を選び、測定磁場と予測される計算磁場との比較を繰り返し行うことによって結晶粒界を決定している。さらに、超電導試料を用いて磁場を測定し、結晶粒界の位置及び各結晶粒内における臨界電流密度を逆問題解析によって推定し、その情報を遮蔽電流分布の数値計算に用いて解析精度を向上させる試みも行っている。 第5章ではこれまで明確にされていなかった超電導遮蔽電流問題の汎関数を明らかにし、これに関連して解を唯一に得るための条件として新しい電流-電場構成方程式を提案している。超電導遮蔽電流問題と同値な汎関数最小化問題は、渦電流問題の場合と異なり、制約条件つき最小化問題となる。すなわち、超電導遮蔽電流問題は電流密度が磁界電流密度以下となる制約条件の下での磁気エネルギー最小化問題と同値であることが明らかにされている。 さらに、新しく提案された電流-電場構成方程式に基づいて、臨界電流密度が異方性を有する時の数値計算手法を新たに開発している。この手法の有効性は二次元問題における解析解と比較することによって検証されている。 第6章では渦電流計算手法の一つであるNetwork Mesh法(以下NM法)に基づいて超電導遮蔽電流を計算するコードを作成している。T法に基づいた遮蔽電流分布計算コードでは等価導電率という概念が導入され、その値を反復計算の課程で調整することによって臨界状態モデルを満たす解を求めていた。NM法はT法と類似した手法であるといえるが、この類似性に着目し、NM法に対しても等価導電率と同様の概念を抵抗に関して導入することによって遮蔽電流分布の計算を可能としている。 第7章は結論であり、本研究で得られた知見についてまとめられており、これらの知見が超電導磁気浮上特性の数値計算の精度向上に著しく寄与することが述べられている。 以上の成果は、高温超電導体を電磁力応用に供する時、品質評価や等価遮蔽電流の評価に際して有用であり、かつ超電導体が有する非線形性の本質をとらえそれを非線形構成方程式として実現し解の唯一性を保証している点で高く評価されよう。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |