学位論文要旨



No 111854
著者(漢字) 吉岡,理文
著者(英字)
著者(カナ) ヨシオカ,ミチフミ
標題(和) プロセス連関モデルを用いたLife Cycle Assessment手法の研究 : プロセス連関モデルを用いた生涯環境影響評価手法の研究
標題(洋)
報告番号 111854
報告番号 甲11854
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3652号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石谷,久
 東京大学 教授 山地,憲治
 東京大学 助教授 岡野,靖彦
 東京大学 助教授 茂木,源人
 東京大学 助教授 松橋,隆治
内容要旨

 地球環境問題等を背景として、様々な製品に対してその原料採取から廃棄物処理、リサイクルまで一貫した環境負荷を評価するライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment、以下LCA)が提案されている。LCAは三段階よりなり、それらはそれぞれ、着目する製品に対して原料採取から廃棄物処理までの一連の過程における各種エネルギー・資源の投入、環境への排出物を列挙し、インベントリと呼ばれるデータベースを作成する段階(インベントリ作成)、このデータベースに基づいて環境への影響評価を行う段階(影響評価)、影響評価の結果に応じて環境影響を改善する方策の検討・評価を行う段階(改善評価)である。しかし、現在までのところこれら各段階の手法は完全には確立されておらず、主としてインベントリの作成について様々な製品に関する検討がなされている段階である。

 本研究では、このインベントリ作成について従来の手法における問題点であった、各産業間の連関やリサイクルを考慮した算定をシステム的に行う手法として、線形計画法を用いた体系的な評価手法であるプロセス連関モデルの構築を行った。また、リサイクルや結合生産によって発生する複数製品間における資源消費・環境負荷の配分問題はインベントリ作成における最大の問題点の一つであるが、本研究では地球環境問題等への方策としてLCAを用いるためには、常にシステム全体の最適化を促進する配分手法が採用されるべきであるとする観点から、線形計画法の最適基底逆行列を用いた指標に基づく配分手法(以下BI配分)の提案を行った。さらに、実際のLCA算定における様々な作業を効率的に行うため、各種ツールの整備を行った。

 上記の手法・ツールを用いて現実の自動車を対象としてLCAを行った結果、各種産業と複雑に連関し、膨大な部品点数を持つ自動車産業に対しても体系的な算定が容易に行えるようになり、また、上記配分問題に対する実例として、自動車から建設用鋼材、再生アルミ材が再利用され、相互に資源消費・環境負荷が配分される状況下での従来型自動車とアルミ化自動車の選択モデルを構築し、システム全体の環境負荷を逓減させることを目的として各製品に配分された環境負荷に応じた課税を行った結果、BI配分では常に環境負荷に制約を課した場合に発生するシャドウプライスと同額の課税によって環境負荷がより少ない状態へと移行するが、従来一般的に用いられてきた各製品の重量に基づく配分手法では、必ずしもシステム全体の環境負荷を逓減させる方向には移行しないことが示された。これによって、システム全体の需給バランスがシステム全体での環境負荷変化に大きく寄与する様なシステムにおいて環境負荷が逓減される方向にシステムを移行させるためには、システム内の需給バランスを鋭敏に反映する配分手法を用いることが重要であることが示された。

審査要旨

 本論文では、地球環境問題等を背景として、様々な製品に対してその原材料採取から加工・組み立て、運用、廃棄物処理、リサイクルに至るまでの一貫した資源消費・環境負荷の評価を行うライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment、以下LCA)について、主として手法的な側面から検討を行っている。

 まず、第一章においては、LCAの枠組み、歴史、従来の主要なLCA手法、その問題点について記述されており、LCAの枠組みとして、LCAが三段階よりなり、それらはそれぞれ、着目する製品に対して原料採取から廃棄物処理までの一連の過程における各種エネルギー・資源の投入、環境への排出物を列挙し、インベントリと呼ばれるデータベースを作成する段階(インベントリ作成)、このデータベースに基づいて環境への影響を評価を行う段階(影響評価)、影響評価の結果に応じて環境影響を改善する方策を検討・評価を行う段階(改善評価)であること、現在までのところこれら各段階の手法は完全には確立されておらず、主としてインベントリの作成について、様々な製品に関する検討がなされている段階であること等が述べられ、従来の主要なLCA手法として、着目した製品に関連する一連のプロセスについてその資源消費・環境負荷を積み上げて評価を行う積み上げ法と、産業連関分析手法を応用した手法について述べている。さらに、これらの手法の問題点として、体系的な積み上げ算定の問題や、リサイクルや結合生産によって発生する複数製品間における資源消費・環境負荷の配分問題について述べている。

 第二章では、前章で述べた従来のLCA手法における問題点に対して、各産業間の連関やリサイクルを考慮した算定をシステム的に行う手法として、線形計画法を用いた体系的な評価手法であるプロセス連関モデルの提案を行い、また、インベントリ作成における最大の問題点の一つである資源消費・環境負荷の配分問題に対して、本論文では地球環境問題等への方策としてLCAを用いるためには、常にシステム全体の最適化を促進する配分手法が採用されるべきであるとする観点から、線形計画法の最適基底逆行列を用いた指標に基づく配分手法(以下BI配分)の提案を行っている。

 第三章では、実際のLCA算定における様々な作業を効率的に行うための各種ツールの構成、構築、整備について記述されており、加工・組み立でプロセスにおける間接投入分を産業連関表を用いて推定する手法や、LCA算定において発生する膨大なデータベースの保守・運用に対して、ユーザーインターフェイス、データベース、LCA算定用の各種ツール群を個別のプロセスとして実装し、プロセス間通信機構を用いることによって統合的に運用することにより、柔軟かつ効率的な作業環境の提供を行うシステムの構造並びにその実現方法について述べられている。

 第四章では、前章までの手法・ツールを用いて現実の自動車を対象とした詳細なLCAを行った結果について記述されており、各種産業と複雑に連関し、膨大な部品点数を持つ自動車産業に対しても体系的な算定が行えることが示される。特に、上記配分問題に対する実例として、自動車から建設用鋼材、再生アルミ材が再利用され、相互に資源消費・環境負荷が配分される状況下での従来型自動車とアルミ化自動車の選択モデルを構築している。このモデルに対してシステム全体の環境負荷を逓減させることを目的として各製品に配分された環境負荷に応じた課税を行った結果、BI配分では常に環境負荷に制約を課した場合に発生するシャドウプライスと同額の課税によって環境負荷がより少ない状態へと移行するが、従来一般的に用いられてきた各製品の重量に基づく配分手法では、必ずしもシステム全体の環境負荷を逓減させる方向には移行しないことが示されている。これによって、システム全体の需給バランスがシステム全体での環境負荷変化に大きく寄与する様なシステムにおいて環境負荷が逓減される方向にシステムを移行させるためには、システム内の需給バランスを鋭敏に反映する配分手法を用いることが重要であることが示されている。

 第五章では、全体のまとめとして、第一章で述べたLCA手法の各種問題点とそれに対する第二、三、四章での検討結果について述べ、本論文の成果と今後の課題について述べている。

 以上の論旨より、本論文では現在、地球環境間題等を背景として着目されているLCAに関する様々な問題点に対して、各産業間の連関やリサイクルを考慮した算定を体系的に行うプロセス連関モデルや、インベントリ作成における配分問題に対するBI配分の提案を行う等、一定の成果を上げており、地球システム工学の発展に寄与するものと認められる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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