Co/Pdなどの強磁性遷移金属/貴金属系多層膜は、耐食性が高く、短波長で磁気光学カー効果が大きいことから次世代の光磁気材料として注目されている。本研究はCo/Pd多層膜を基本構造とし、第3層を導入したり、個々の層を合金化した多元系及び合金系多層膜を作製し、磁性と光磁気的性質を系統的に調べることによって多元化の効果を明らかにすると共に、光磁気ディスク媒体としての性能向上を目的とした。従来、合金系及び多元系の多層膜に関する研究例がほとんどなく、これらの新しい多層膜構造の物性及び光磁気ディスクの応用可能性について検討したことが本研究の特徴である。 本研究ではまずCo/Pd二元系多層膜を基本構造とし、個々の層を合金化した(Co-Ni)/Pd多層膜とCo/(Pd-Au)多層膜の合金系多層膜を作製し、積層構造を有していることを確認した。 光磁気ディスクの記録感度等の記録特性はキュリー温度が下がると共に向上すると知られている。そこでキュリー温度を制御するために、Co層にNiを添加した(Co-Ni)/Pd多層膜について磁気異方性と共に磁気光学カー効果などの磁気光学的性質を調べた。(Co-Ni)/Pd多層膜はNiの添加により垂直磁気異方性を維持したままキュリー温度などを制御することができることが分かった。したがって、Co層にNiを添加した(Co-Ni)/Pd多層膜は光磁気ディスクの応用面からみると、有効であることを示している。 光磁気記録材料として利用されるためには垂直磁気異方性を持つことが基本条件である。しかし、まだ垂直磁気異方性の起源についても十分解明されてない。界面における結晶の対称性の低下から生じる結晶磁気異方性と、界面での格子不整合から生じるひずみによって誘導されるひずみ誘導異方性の二つが主要な垂直磁気異方性の原因と考えられている。しかし、磁気ひずみ効果に関しては、片山、鈴木等の電総研グループにより求められた応力が垂直磁化を示すほど大きくなかったため、解明が不十分であった。そこで本研究ではひずみ効果が大きいと予想されるCo/(Pd-Au)多層膜について垂直磁気異方性を調べ、磁気ひずみ効果が垂直磁気異方性の重要な原因であることを明らかにした。 特にAu組成が30at%の場合は、垂直磁化膜になるCo層の膜厚範囲が33Aまで大幅に広くなった。これまでCo/Pd多層膜の場合が約8Aまでであったことと比較すると、磁気ひずみ効果により巨大な垂直磁気異方性が生じた。この結果は本系においては磁気ひずみ効果が垂直磁気異方性の主要な原因であることを示す。 磁気光学カー効果の増強の起源は、(1)片山らによると、Au,Cu,Agなどの貴金属のプラズマ共鳴により低い光子エネルギーでは、Coと多層膜を作ると、実効的に誘電率の実数部が0にすることができ、カー回転角が増大するものと、(2)Pd,Ptの偏極によるものが知られている。しかし、第3層を添加した効果に関してはほとんど研究されてない。そこで本研究では第3層を入れたCo/Pd/Co/Au,Pd/Co/Pd/Niなどの多元系多層膜について磁気光学カー効果のスペクトルを測定し,第3層の添加による磁気光学カー効果の影響を調べた。 Co/Pd多層膜のカー回転角は短波長でPdの分極のためにカー回転角が増大する。一方Co/Au多層膜では、Auのプラズマ共鳴によるカー回転角の増大が発生する。そこでCo/Pdの界面とCo/Auの界面を持つCo/Pd/Co/Au多層膜はカー回転角がPdの分極とAuのプラズマ共鳴による影響のためにCo/Pdより大きくなる可能性があると考えられる。実験の結果、Co/Pd/Co/Au多層膜はカー回転角がCo/PdとCo/Au多層膜の中間値を取っているが、予想したAuの吸収端でカー回転角の増強は起こらなかった。これはPdによる磁気光学効果がAuによる効果より優先するためであると考えられる。。 Co/Pd多層膜を基本として、界面にNi層を挿入し界面構造を意識的に変化させ、界面構造がカー回転角に及ぼす効果を調べた。界面が異なる多層膜の磁気光学効果のスペクトルによると、Co/Pd界面を持つPd/Co/Pd/Ni多層膜はCo/Ni界面を持つPd/Ni/Co/Niよりも垂直磁気異方性エネルギーも大きく、カー回転角も全波長にわたって大きい。カー回転角はCo/PdよりCo/Niが大きいが、Pd/Co/Pd/Ni多層膜のカー回転角がPd/Ni/Co/Niより大きくなったのは急峻な界面構造を持つためであると考えられる。Niを第3層として添加するのが磁気光学カー回転角を向上させるためには有効的であると示したが、スパッタ法で作製した場合はNi層の構造が乱れて垂直磁気異方性には負の影響を及ぼすことが分かった。 |