本論文は、ゾル-ゲル法によって、超高密度光メモリー材料として期待されている、PHB効果を示すポルフィリン系有機分子を、シリカ非晶質体中に導入する方法と、その光学的特性をまとめたものである。まず、通常のゾル-ゲル法から得られるシリカゲル中に有機分子を導入した系に付いて調べ、さらに、PHB特性の向上させるために固体ミセル中に有機分子を導入する方法に付いて検討した。 本論文は、4章からなる。 第1章は緒言であり、生命体に匹敵する高機能材料の開発の必要性を唱え、特にシリカは無機の材料の中でも、有機、あるいは、生命体と非常に密接な関係があるということを示している。 第2章はシリカゲル中にポルフィリン系有機分子を導入した系に付いて、ゲルの細孔構造の制御の方法と、ゲル中の有機分子の状態、および、そのPHB特性に付いて詳述している。 ポルフィリン系有機分子は、pHによってPHB活性のフリーベースから、PHB不活性のジカチオンとなるが、出発溶液に塩基を添加すると細孔の大きい不透明なゲルが得られることが知られている。そこで、有機分子をPHB活性の状態で、緻密なゲル中に導入する方法を検討し、水酸化ナトリウムの添加時間を遅らせる、二段階の合成を行うことによって、アルカリ触媒中でも透明なゲルを得ることに成功した。 ゲル中でポルフィリン系有機分子をほとんどがフリーベースの状態で導入するためには、シリコンアルコキシド1molに対して、NaOHを10-3mol以上添加する必要があることを明らかにした。 また、ゾルーゲル法では、溶液中の化学反応によって粒子を形成し、溶媒を蒸発させることによって固体が得られる。従って、溶液中に形成される粒子の構造によっては、溶媒に分散させた有機分子が、非常に高濃度に濃縮されることも考えられる。そのような状況では、有機分子の凝集が起こる可能性があると考えられる。そこで、有機分子の濃度を変化させて、有機分子の凝集について調べた。その結果、有機分子の濃度が、シリコンアルコキシドに対して10-3mol以上では、凝集対が形成されることによる励起状態の寿命の減少が観測された。 これらの試料についてPHB測定を行ったところ、ゲルの構造の変化に対応する特性の違いは見いだせなかったが、モノマーのフリーベースの状態で安定に導入できた試料では、PHB特性は向上することが分かった。 第3章では、固体ミセル系にポルフィリン系有機分子であるオクタエチルポルフィリン(OEP)を導入する方法に付いて検討している。その結果、直鎖状の炭化水素基が一つだけついたアルコキシドを用いミセルを形成することによってOEPをゲル中に導入することが可能となった。ミセルは通常液相状態であるが、シロキサン結合を形成することによって固化しその外側にシリカをコーティングするのである。このような方法で合成することにより、ミセルのような状態で固化し、外側にアモルファスシリカがコーティングされた、数nm程度の固体粒子の常温での合成が可能であることが分かった。 第4章は総括である。 以上を要するに、この研究は、有機分子と無機マトリックスの複合させた、高機能性材料を低温合成法によって得ることを指向し、低温からでも、高い秩序を持つ構造が得られるということを示した、という点ですぐれており、材料学の発展に寄与するところ大である。 よって、本論文は、博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 |