学位論文要旨



No 111860
著者(漢字) 松田,弘文
著者(英字)
著者(カナ) マツダ,ヒロフミ
標題(和) 正20面体ボロンクラスター半導体の金属ドーピングと電子物性
標題(洋)
報告番号 111860
報告番号 甲11860
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3658号
研究科 工学系研究科
専攻 材料学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 木村,薫
 東京大学 教授 井野,博満
 東京大学 教授 山本,良一
 東京大学 教授 七尾,進
 東京大学 教授 吉田,豊信
内容要旨 緒言

 半導体研究は,固体物理学の中で最も華やかな分野ともいえるものだが,従来その研究の対象となった固体は,IV族のSi結晶やGe結晶,III-V族のGaAs,II-VI族のInPなどの化合物半導体が中心であり,これらの物質は共通して構成原子がネットワークを形成し,ダイヤモンド型の結晶構造を有する.一方近年クラスター固体の研究が盛り上がりを見せており,特にサッカーボール形状のクラスターC60分子を充填したC60固体が代表的な研究対象となっているC60固体は1991年に大量合成と超伝導転移の発見がなされ,それをきっかけとして,固体の生成機構や電子構造,電子物性などへの関心が急速に高まり,それとともにクラスター固体への関心も大いに高まった.この固体は,基本構造のC60分子(クラスター)が互いにvan der Waals結合していることから,クラスター単体の電子構造が直接固体の電子構造に反映される,理想的なクラスター半導体である.従って,クラスター固体研究において最も基礎的な物質であり従来のネットワーク状の半導体とは対極的である.

 正20面体ボロンクラスター半導体は,III族元素から構成される唯一の元素半導体であり,その構造は正20面体ボロンクラスターB12(図1)が,互いに共有結合して結晶を形作っており,従来半導体の研究の対象であった上記のダイヤモンド構造とは全く異なっている.この半導体は,B12クラスターによる充填や,クラスター間の結合角などが僅かずつ異なった,数種類の構造を持つ多形の結晶である.このため,固体の性質にB12クラスターの性質が反映されていることはもちろんであるが,さらにB12クラスター間の連結様式にも固体の性質が依存している.従って正20面体ボロンクラスター半導体は,上述のネットワーク半導体とC60固体に代表されるクラスター半導体との融合領域に位置し,同じく正20面体対称性を持つSi20正12面体クラスターが,互いに共有結合して結晶を構成するSiクラスレート固体とともに,半導体の統一的理解において重要な位置を占める.このことから,ネットワーク半導体とクラスター半導体の性質が,正20面体ボロンクラスター半導体を中心にして融合しているか見極めるのは意義深いと考えられる.

 次にこの固体自身の性質に注目すると,複雑な結晶構造を反映した特異な電子構造を持つことが期待される.実際,結晶であるにも関わらずアモルファス半導体に特徴的な,可変領域ホッピング伝導や,不純物添加に対して電子物性が鈍感であるなどの性質を示すが,その起源は未だ明確にはなっていない,またB12クラスター間の結合角などをわずかに変化させることで,様々な安定構造を形作り,構造ごとに異なった性質を示すことから,僅かな構造等の変化で物性の制御が可能な系として期待できる.

 以上から本研究は正20面体ボロンクラスターB12が構造の基本となった,多形の正20面体ボロンクラスター半導体の性質を,図2に示した代表的な構造である-菱面体晶ボロン(-rh.B)に格子間金属ドーピングを行い,金属転移を目標として電子物性を調べることで,ボロン固体に特徴的な性質を抽出し,ボロン固体の電子構造についての知見を得ること,およびクラスターが結合して結晶半導体を形成するクラスター半導体の一員として,その特徴的な性質を抽出することを目的とした.

 ドープする金属元素の選定に当たっては,C60固体との対応,バンド計算の報告されているLiをドープした-菱面体晶ボロンとの対応,および結晶Si中では侵入型不純物として浅い不純物準位を形成すること,以上の3点を主に考慮してLiを選定した.さらに,C60固体の結果では,アルカリ金属は単純な電荷移動を生じるのに対し,d対称軌道を持つSr,Baは固体の伝導帯と混成を生じていることから,d対称軌道を持つ鉄族遷移金属に注目し,周期律表で遷移金属の両端に近く,3d電子または3dホールが少なく,比較的単純なCu,NiおよびVを選定した.

 最後に-rh.Bに対して,様々な実験およびB12クラスターに対する分子軌道計算から,図3に示すようなギャップ付近のバンド構造が提唱されているので,ここに解説する.-rh.B中のB12クラスターは,正20面体の分子軌道を考えると12個のクラスター間の結合に関与する電子と,26個のクラスター内の結合に関与する電子合計で38の結合に関与する価電子で閉殻となるが,12個のB原子から供給される価電子は36個と2個不足する.このため,クラスター内結合軌道のうち4重に縮重した最高被占有軌道(HOMO)であるGu対称軌道にはホールが2個できるが,この軌道がJahn-Teller効果により分裂し,A1u対称軌道とA2u対称軌道の間にギャップが生じ-rh.Bは金属とならず,またA2u結合軌道を起源とした,内因性アクセプタ準位をギャップ中に形成していると考えられている.

図表図1正20面体ボロンクラスターB12 / 図2-rh.Bの結晶構造とサイト分布 / 図3-rh.Bのギャップ中状態(内因性アクセプタ準位)とその起源.価電子の不足したB12のJahn-Teller歪み
試料の作成と評価

 -rh.BへのLiドープは,C60へのアルカリ金属ドープと同様,Liの蒸気に結晶を晒して格子間に行った.鉄族遷移金属元素は,原料のボロンと金属粉末をアーク溶解して固溶体を作り,その後熱処理により均質化し,エッチングを行って物性測定可能な単相試料作成を目指した.以上の試料に対し,X線回折図形を測定して単相であることを確認し,格子定数の変化を用いてドープ濃度の推定を行った.

 Liをドープした-rh.BのRietveld解析の結果は,Li7.9B105の組成でD-holeおよびE-holeでLiの占有率が100%となり,一方A1-holeは占有されないことを示した.またこれ以上の濃度にLiドーピングが成功しなかったことから,Li8B105の定比化合物となっていることが明らかとなった

電気伝導度,Hall効果,Seebeck係数の結果

 室温から10K程度の温度範囲で電気伝導度,Hall効果,Seebeck係数を測定した.図4に示した,Liをドープした-rh.Bの電気伝導度の温度依存性は,(T)=0exp[-(T0/T)1/4]で表されるMottの可変領域ホッピング(VRH)伝導のそれを示した.またCu,Ni,Vをドープした場合も,同様な温度依存性を示した.この温度依存性は,アモルファス半導体や高濃度の不純物ドーピングを行った結晶半導体に多く観察され、空間的に局在した,エネルギーに分布を持つ,離散的な準位間を伝導キャリアーが飛び移る伝導機構である.ところで,ダイヤモンド構造のSi結晶等では,ドープ濃度が増すに従いT0は単調に減少し,ppmオーダーの不純物添加で半径が数10Aの不純物準位が互いに重なり合って,不純物起源のバンドを形成することで金属転移を起こし,T0=0となる.ところが-rh.Bでは,Liで約8at.%,Cuで約4at.%,NiやVで1〜2at.%までドープ濃度を増しても金属転移せず,不純物に鈍感なアモルファス半導体に似た性質を示した.Fermi準位での状態密度N(EF)に比例する,のドープ濃度依存性を図5に示した.この図によると,ドープ濃度の増大とともに,ほとんど状態のない状況から一旦N(EF)が増大したことが見て取れる.ところが,ドープ濃度をさらに増大させると,金属転移を示さないままは再び減少し,半導体的な性質が再び出現した.

 Hall係数の測定結果から,Hall移動度はH<0.4cm2/Vsという小さな値を持つことが明らかとなったが,温度依存性を測定することはできなかった.またSeebeck係数の測定結果は,ドープ濃度が高くなると-rh.Bのホール伝導を特徴づけるp型から電子伝導を特徴づけるn型伝導へ変化し,電子が供給されたと考えられる.またドープ濃度を増すことで,半導体的な1/Tから金属的なTに比例する温度依存性を示すようになり,Fermi準位に有限の状態を生じた.

 以上の結果は,緒言で紹介した内因性アクセプタ準位に,ドープされた金属から電子が供給され,Fermi準位が移動する様を示しており,∝N(EF)-3のドープ濃度にピークを示した.Seebeck係数に見られたFermi準位での有限の状態の出現も,高密度の内因性アクセプタ準位に対応している.さらに小さなHall移動度は,クラスター内結合軌道が起源の内因性アクセプタ準位間の飛び移り積分tが小さく,単位胞の大きな結晶であることを反映していると考えられる.さて結晶中でVRH伝導が観測された理由として,以下の3点が主として挙げられる.1)-rh.B単位胞中にはB12のサイトとして2種類が存在する.2)内因性アクセプタ準位を分離させたJahn-Teller歪みに多様性が存在し,比較的エネルギーの近接した準安定状態が複数存在する.3)結晶に含まれる欠陥.次に注目すべきこととしての極大値(図5)がドーパントの種類により異なり,A1-holeの占有率が高くなるCu,Ni,Vの順にが高くなっている.ほとんどA1-holeのみを占有するVでは,金属的な電気伝導度の温度依存性こそ見られなかったもののに極大を示さず,金属転移に著しく接近していると考えられる.反対にA1-holeを占有しないLiは,の極大値が最も小さく,またもちろんd対称軌道は持っていない.従って,アルカリ金属をドープしたC60固体のようなrigid band描像は成立しておらず,A1-holeを占有する原子のd対称軌道と-rh.Bの内因性アクセプタ準位との混成が,金属転移に重要な寄与をすると考えられる.

図表図4Liをドープした-rh.Bの電気伝導度の温度依存性.Mottの可変領域ホッピング(VRH)伝導の温度依存性を示す. / 図5VRH伝導の温度勾配T0-1N(EF)のドープ濃度依存性.値が大きくなるほど伝導キャリアーの局在が弱まる.
磁化率の結果

 室温から2Kまでの温度範囲でSQUIDによる磁化率の測定を行った.磁化率の温度依存性は,温度依存のない項0と,低温で増大するCurie-Weiss常磁性項CWとに分解された(図6).図7(a)に0およびCWのCurie定数Cから算出した,B単位での-rh.B単位胞(B105)あたりの有効Bohr磁子peffのLi濃度依存性を示す.これによると,0にはPauli常磁性成分によると考えられるピークがあり,電気伝導度と同様N(EF)のLi濃度依存性にピークを示す結果となった.0のドーブ濃度依存性は,Cu,Ni,Vをドープした-rh.Bでものそれと同様の結果となり,N(EF)の変化を示している.一方peffは,原料に含まれる磁性不純物からの寄与を除くと,ほとんどLi濃度依存性がないことから,局在磁気モーメントを生じる同一サイトCoulomb反発Uは小さいことが分かった.ところが,電気伝導度の結果伝導キャリアーの局在長さ-1〜1A程度であり,-rh.Bの誘電率〜10からUe2/-1〜16eVと見積もられ,磁化率の結果を大きく上回る,非現実的な値である.これは,まず1)クラスター内結合軌道が起源の内因性アクセプタ準位を占める電子が,クラスターの直径4A程度の距離を離れることで,U〜4eV程度に減少し,次に2)さらにJahn-Teller効果を示す電子-格子相互作用の強い系であることから電子間に引力が働き(バイポーラロン形成),結局実効的なUを相殺した結果と考えられる.Cu,Ni,Vをドープした-rh.Bでは,不対の3d電子によるCWが出現しpeffの値を各サイトに局在した常磁性イオンで計算した値で再現してみた.それによると,実験値は計算値を下回る結果(図7(b))となり,磁気モーメントが小さくなっていることが分かった.これは3d電子が,常磁性モーメントとしてだけでなく,混成の結果伝導にも寄与していることから,遍歴性を帯びUの効果を減少させたと考えられる.

7Liおよび11B核のNMRの結果

 Liをドープした-rh.Bについて,7Liおよび11Bをプローブとして室温でのNMR測定を行った.図8に共鳴周波数シフトのLi濃度依存性を示す.7Li核のKnightシフト(LiCl基準)がほとんどなく,完全にイオン化して-rh.Bに電荷移動が生じていることが確認された.一方11B核のKnightシフト(ドープ前の-rh.B基準)は,2ppm程度と値は小さいもののPauli常磁性の変化に対応し,ここでもN(EF)の濃度依存性にピークを示す結果が得られた.また,11B核のKnightシフトが微小であることから,内因性アクセプタ準位は主に2p軌道起源である.これは,-rh.Bと短距離秩序の類似したアモルファスボロンの光電子,逆光電子分光の結果価電子帯が2p起源,伝導帯が2s起源であること,およびB12H12クラスターの分子軌道計算の結果と対応する.

図表図6LiおよびCuをドープした-rh.Bの磁化率の温度依存性.温度依存性のない0およびCurie-Weiss常磁性磁化率CWとに分解される. / 図7(a)Liをドープした-rh.Bの磁化率の成分0およびpeffのLi濃度依存性.0にはPauli常磁性(N(EF))のピークが見られる一方,peffはほとんど変化しない. / 図7(b)Cuをドープした-rh.Bの磁化率の成分0およびpeffのCu濃度依存性.0にはPauli常磁性(N(EF))のピークが見られる.peffの値はA1-holeを占有するCu2+イオンに良く対応する. / 図8Liをドープした-rh.Bの,7Liおよび11B核のNMR.LiClおよび-rh.B(純度99.9%)の値が基準.
結論

 -rh.Bに金属をドープすることで,-rh.Bのバンド構造の概略(図9)が明らかとなった.最も特徴的な結果は,-rh.Bではギャップ中にB12クラスター内結合軌道が起源となった,高密度の離散的な内因性アクセプタバンドが存在し,金属ドープを行うことによってこの内因性アクセプタバンド中でFermi準位が移動し,VRH伝導を行う電子キャリアーを電荷移動によって形成することができた.次に,高濃度の金属ドーピングを行っても-rh.Bに金属転移が見られなかった.これは,電子を供与された-rh.BのFermi準位での状態がクラスター内結合軌道を起源としていることから空間的に広がりにくくなっていることに加えて,3d軌道と混成してより結晶全体に広がった状態になり金属転移近傍となったものの,3d電子の強い同一サイトCoulomb反発Uが,金属転移を阻害する要因に挙げられる.従って混成する軌道を,Uの小さな4dや5dとする事ができれば,-rh.Bの金属ドーピングによる金属転移に大きく寄与すると考えられる.以上から明かとなった,ボロンクラスター半導体の特徴について,表1に他のSi46固体,C60固体と比較してまとめた.

図9金属をドープした-rh.Bのバンド構造の概略.表1:正20面体対称性を持つクラスターが構造の基本となった,元素半導体の電子物性の特徴とその主要な起源.ボロン固体,fcc C60固体,Si46固体.
審査要旨

 従来、半導体材料として研究されてきた主な物質は、元素半導体であるシリコンと、そこから派生したsp3結合を持つ化合物半導体である。このようなネットワーク半導体に対して、近年、カーボン60固体やシリコン・クラスレート化合物のような、クラスター半導体が研究されつつある。ボロンは、正20面体クラスターを持つクラスター半導体の一つであるが、3中心共有結合を持つ特異な存在である。本研究は、正20面体ボロンクラスター半導体に金属をドープし、電子物性の変化からその電子構造を調べ、クラスター半導体群を統一的に理解し、新しい半導体材料や超伝導材料の可能性を探ることを目的としている。電子物性としては、電気伝導率、熱電能、ホール効果、磁化率、NMRの測定を行っている。論文は、6章より構成されている。

 第1章は序論で、本研究の目的、論文の構成について述べ、研究の背景となる従来の研究について概観している。

 第2章では、本研究で用いた試料の作製方法と評価について述べている。菱面体晶ボロンへのLiドーピングは初めての試みで、Ta管と2つの石英管を用いた3重管の中で、ポロンをLiの蒸気に晒すことで成功している。鉄族遷移金属(Cu,Ni,V)のドーピングでは、アーク溶解後、アニールによる均質化処理、エッチングによる第2相の除去を行っている。評価は、X線回折による単相度のチェックと、格子定数測定によるドープ金属量の算出を行っている。Liをドープしたものに関しては、リートベルト法により、3つのドーピング・サイト(A1,E,D)のうち2つ(E,D)しか占めないこと、その2つを100%占めたところでLi濃度が飽和することを明らかにした。これは、Li8B105という定比化合物の存在を示唆している。

 第3章では、金属をドープした菱面体晶ボロンの電気伝導率の温度依存性を測定し、正20面体クラスターの電子構造から示唆されるバンド・モデルを用いて議論している。Liドープの場合に、電気伝導率の温度依存性が可変領域ホッピング伝導型になること、フェルミ準位での状態密度のドーピング濃度依存性に極大を持つこと、を明らかにした。ドープされた電子が、正20面体クラスターに起因する、局在した内因性アクセプター・バンドで伝導するモデルで上記挙動を説明した。さらに、鉄族遷移金属ドープの場合を併せると、A1サイトの占有率が高い元素をドープした場合ほど極大の大きさが大きいことを示した。このことから、正4面体対称性を持つA1サイトに入った遷移金属のd軌道と、ボロンのクラスター軌道である内因性アクセプター軌道が混成すること、を示唆した。また、熱電能の温度依存性、ホール係数を測定し、ドーピングによりp型からn型になること、および、キャリアの易動度が非常に小さいこと、を示した。

 第4章では、金属をドープした菱面体晶ボロンの磁化率の温度依存性を測定し、前述のバンド・モデルによる議論を発展させている。Liドープの場合、温度に依存しないパウリ常磁性成分が、前述のフェルミ準位での状態密度と同じドーピング濃度依存性を持ち、キュリー・ワイス的成分は、ほとんど変化しないことが分かった。この事実から、フェルミ準位付近の電子状態が局在しているにも関わらず、強い電子-格子相互作用がクーロン相互作用を打ち消し、有効な電子間相互作用がほとんど無いことを指摘した。一方、鉄族遷移金属ドープの場合は、パウリ常磁性成分が増加すると共にキュリー・ワイス的成分も増加し、フェルミ準位付近に遷移金属のd軌道が混成したという、前章の結論を支持する結果を得ている。

 第5章では、Liをドープした菱面体晶ボロンのNMRを測定し、共鳴周波数シフトから、電荷移動について議論している。Li核のシフトが、イオン結晶中と比べて、ほとんど無いことから、ボロン中の7Liが完全にイオン化し、電子がボロンの格子に移動していることを確認した。また、11B核のLiドーピングによるシフトも小さいことから、電子が移動したボロンの準位が主にp軌道から構成されていることを指摘し、前述の内因性アクセプター準位の起源と考えられるクラスター軌道の構成と一致することを確かめた。

 第6章は、結論と展望である。

 以上要するに、この研究は、クラスター半導体である正20面体ポロンへの金属ドーピングを行い、ドーピングによる電子物性の変化を、正20面体クラスターの電子構造に起因するバンド・モデルで説明することに成功した。この特異なグラスター半導体の電子物性を、その構造単位と関係づけて理解し、他のクラスター半導体との類似点と相違点を明らかにし、クラスター半導体のドーピング特性を統一的に理解することに成功しており、材料学の発展に寄与するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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