セラミックスは耐久性に優れるためこれを用いたガスセンサーは工場現場を始め一般家庭に至るまで広い用途を持っている。しかし、従来のセンサーは還元性ガスに対して類似した応答しか示さないことが問題となっていた。本論文では還元性ガスのうち、特に人体に有害な一酸化炭素(CO)を選択に検知しうるガスセンサーとして、p型半導体とn型半導体により構成されるp-nヘテロ接触系を採りあげ、この接触状態、半導体への添加物種およびその量を変化させ、検知感度および選択性を調べた。これらの結果およびセンサーのキャラクタリゼーションに基づきガス検知メカニズムを提案したもので、計7章で構成されている。 第1章では、緒論として、研究を進める上で必要な基礎理論を述べた。 第2章では、ヘテロ接触の界面状態を制御したときのガス感度特性の変化について述べた。p-nヘテロ接触系は接触状態の変化によるガス検知特性の再現性が問題であることから、半導体表面の微細構造を制御することで接触状態を様々変化させ、ガス検知特性を調べた結果、比抵抗が高いものを用い、測定温度が高いほど、高いガス感度を示すことがわかった。しかし、何れもCOガスに選択性は示さないことから、COガス選択性はp-n接触状態に依存しないことがわかった。 第3章では、高純度酸化銅に添加する添加物による影響を調べた結果を述べた。高純度CuO中に添加物としてNaを添加した場合、COやH2に対する応答速度が非常に速くなり、COガス選択性が発現する温度領域が200℃から350℃以上までと広がることがわかった。さらNa2CO3の添加量を変化させたCuO焼結体を用いた接触系に対するガス感度の測定を行った結果、添加量1mol%でガス感度、COガス選択性とも最大値を示すことを見いだした。またこの時の格子定数測定でのb軸の伸びからCuOへのNaが固溶を確認し、CuO内に存在するNa+を含んだ第2相がヘテロ接触系のCOガス選択性に密接に関連していると結論づけた。 第4章では、COガスに選択性をもつCuO/ZnOヘテロ接触式ガスセンサーの電子構造をXPSにより解析した結果について述べている。高純度CuOとNa添加CuO焼結体の試料表面の電子構造は、純粋なCuOではO1sのメインピークのほかに約2eV高エネルギ側にピークの分裂が認められ、吸着酸素に由来するものとして帰属された。Naを添加するに従い、O1sの高エネルギ側のピーク強度が減少することやNa添加量に依存してCu2p3/2/O1sのピークの面積比が変化することから高純度CuOへのNaの添加はCuOの結晶構造及び表面状態を変化させ、ZnOと接触系でのガスセンシング特性に影響を及ぼすと結論づけた。 第5章では、CuO/ZnOヘテロ接触系で選択的なCOガス検知のため必要な表面構造をXPSおよびTPD、FT-IRにより高純度CuOとNa添加CuO焼結体の性質を調べ、GC-MSで室温から500℃までのCO及びCO2の脱着を調べた結果を述べている。無添加CuOでは吸着したCOが約250℃以下まで殆どがCOまたはCO2の形で脱離するのに対し、Na2CO3を1mol%添加したCuOでは低温側でのCOの脱離以外に、約400℃近傍の高温側でCO2のが脱離することがわかった。IRの測定からは、無添加CuOの表面で2170cm-1のCOピークは完全に消え、あらたに2340cm-1近辺でCO2に帰属されるピークであること、Na2CO3を1mol%添加したCuO試料ではCOのピークのみが認められることが分かった。IR測定前後の試料に対しXPSを用いCuの価数を評価したが、無添加のCuOはCu+1またはCu0であるのに対し、Na2CO3を1mol%添加したCuOではほとんどがCu+2であることを明らかにし、COガスに選択性を表すためにはCOがCuO表面に強く吸着し安定に存在することが有効であると考察した。 第6章では、COガスに選択性を現すヘテロ接触系のガスセンシングメカニズムについて考察を行った。Na2CO3を1mol%添加したCuO/ZnOヘテロ接触系がCOガスに選択性を示すのは、純粋なCuOにNaを添加するに従ってNaがCuサイトに置換固溶し、ホールを形成する。導入されたCOガスはCuOのバルクからホールを奪い表面に正電荷吸着する一方、ZnO側には空気中の酸素がバルクから電子を奪い負電荷吸着する。正電荷吸着したCOと負電荷吸着した酸素が接触界面で反応しCO2になって脱離することにより接触界面を通過する電流値が増加するとのガスセンシングメカニズムを提案した。 第7章では第2章から第6章までの結論をまとめると同時に本研究の位置付けを行い、p-nヘテロ接触系の今後の展望について述べた。 以上要するに本論文は、p-nヘテロ接触系ガスセンサに対し、半導体への添加物効果、接触状態依存性を調べ、接触界面・表面での現象を追跡した結果を基にCOガス選択性検知機構を解明しており、ヘテロ接触系のみならずセラミックスセンサの今後の展開に対して大きな知見を与えるものであり、工学上貢献するところが大きい。よって、本論文は工学博士の学位請求論文として合格と認められる。 |