本論文は、ディーゼルエンジン等の小規模・移動発生源からのNOxの除去技術として期待される炭化水素による還元反応について、新触媒の探索、反応機構の解明を行い、基本的な反応スキームを解明するとともに、触媒の二元機能性を明らかにし高機能触媒設計に新しい有効なコンセプトを導入したものである。 本論文は全6章からなる 第1章は序論であり、本研究の背景となる窒素酸化物の大気中濃度、排出源の現況を概観するとともに、触媒を用いる対策技術とくに炭化水素を還元剤とする希薄NOx除去技術について現状と課題を明らかにし、本研究の意義、目的を述べている。 第2章は、NO選択還元反応に対してCeゼオライト触媒が有効であることを見出し、その基本特性を検討した結果を述べている。Ce-ZSM-5を触媒としたNO+C3H6+O2反応およびNO+C3H6反応を比較して、この反応は酸素の共存によりはじめて促進されること(式1)を確認した。このとき、低温では、式1が十分に進行するが、高温では式2が支配的となる。さらに、式2に対する式1の割合を「選択率」と定義し、これが触媒機能を特徴づける重要な尺度であることを示した。すなわち、Ceゼオライトは中程度の酸化能を有して選択率が高いが故に高活性を示すことを明らかにした。 第3章は、反応機構に関するもので、酸素とCeの役割を述べている。NO酸化力の高いCe-ZSM-5では、NO+C3H6+O2反応の活性も同時に高いが、Na-ZSM-5では両反応とも極めて遅い。しかし、NO2は、Na-ZSM-5上でさえプロペンと非常に速く反応することから、NO+C3H6+O2反応ではNOのNO2への酸化が初期過程として不可欠であると推定している。またニトロメタン酸化反応を行い、生成するN2とN2Oの生成比の触媒による違いが、NO選択還元反応の場合と類似していることから、有機ニトロ化合物が中間体の一つであることを示した。以上の実験結果に基づいて、以下の反応機構を推定している。すなわち、第一ステップはNOのNO2への酸化、第二ステップはNO2がすみやかにプロペンと反応し有機ニトロ化合物を生成、さらに第三ステップは有機ニトロ化合物の酸化的分解によるN2生成である。ここで、Ceイオンは第一と第三ステップに機能していると結論した。 第4章は、金属酸化物とCe-ZSM-5を機械混合した触媒を用いて2元機能機構を明らかにした研究について述べたものである。まず、NOのNO2への酸化を促進するため、Ceゼオライトに各種金属酸化物を機械混合し、その効果について検討し、Mn2O3およびCeO2を混合すると、低温域で特に活性が向上することを見出した。さらに、Mn2O3単独の場合は、NO+C3H6+O2反応およびNO2+C3H6+O2反応でも、N2は全く生成せず、N2生成にはCeゼオライトが不可欠であること、また、NOのNO2への酸化反応はMn2O3の方がCeゼオライトよりかなり速いことから、Mn2O3上でNOはNO2へ酸化し、CeゼオライトはC3H6とNO2からN2が生成する過程で機能すると推論している。 第5章では、反応機構について担体の役割を中心に検討している。Ce担持触媒によるNO+C3H6+O2反応は担体の種類により大きな影響を受ける。NOのN2への転化率の序列、Ce-ZSM-5>Ce-Mordenite>Ce-Y>Ce/SiO2は、NO酸化反応の速度の序列と一致しないが、担体のみを触媒とするNO2+C3H6+O2反応におけるNO2のN2への転化率の序列(Na-ZSM-5>Na-Mordenite>Na-Y>SiO2)と一致することを見出した。従って、各種担体におけるCeイオンとNaイオンの反応場は類似しており、NO2とC3H6の反応は、その反応場が重要な役割を果たしているものと推定した。次に、担体のC3H6およびNO2吸着量を測定し、NO2+C3H6+O2反応の速度とC3H6吸着量とには直線関係があるが、NO2吸着量とは相関がないことから、NaゼオライトによるNO2+C3H6+O2反応での活性サイトはC3H6の吸着できる一部のNaイオンであり、ゼオライトの特殊な微細孔内にあるNaイオンサイトがこの反応に有効であると結論した。また、このことからCeゼオライトの活性点はこの一部のNaと交換したCeイオンと推定している。 第6章は総括であり、本研究で明らかになった主要な結論をまとめている。 以上述べたように、本研究は環境触媒の中でも特に重要な酸素過剰下での希薄NOxの炭化水素による還元反応について、反応機構、触媒活性サイトの基本的な特徴を明らかにし新規触媒設計の貴重な指針を与えたものであり、触媒化学、環境保全技術に貢献するところきわめて大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |