本論文は、六章より構成されており、無電解めっき反応を利用して新たに開発された金属・セラミックス複合材料作製のための金属薄膜形成法が述べられている。第一章では問題の設定と研究の方向づけとがなされ、それに続く四つの章で具体的な研究成果が示されている。最後の章は全体の総括と研究に関する将来展望とが述べられている。 第一章は序論であり、セラミックス上への金属薄膜作製法および無電解めっき反応を用いた絶縁性基板上への金属パターン形成法について、それぞれこれまで行われてきた研究例が整理されている。前者では、貴金属とセラミックスとの間の接合の難しさが述べられており、特に従来型の無電解めっき法では貴金属膜の密着性を向上させるための手法が今だに確立されていないことが指摘されている。後者では、パターン化無電解めっき法が四種類に大別され、高解像度・高密着性の金属パターンを作製する際のそれぞれの問題点が述べられている。 第二章では、新たに開発された無電解めっき法の反応プロセスが従来の無電解めっき法のプロセスと比較することで説明され、その特徴が、セラミックス上に成膜された酸化亜鉛薄膜をめっき膜とセラミックスの中間層として用いる点にあると述べられている。この酸化亜鉛薄膜は一種の接着層として機能することが明らかにされ、その結果、従来の無電解めっき法では成膜が困難とされたガラス基板等の鏡面を有するセラミックスに対しても、スパッタリング等の乾式成膜法で成膜されたものと同様に非常に強い接合強度を持つ銅めっき膜が作製できることが示されている。 第三章では、反応過程の解析および界面の構造解析から酸化亜鉛薄膜上に見られた特異的な現象の機構解明が行われている。まず、酸化亜鉛薄膜上で選択的に無電解めっき反応が進行する現象に対しては、触媒化処理過程で起こるパラジウムイオンの酸化亜鉛上への特異吸着およびこのパラジウムイオンの無電解めっき液中での還元により起こることが明らかにされている。次に、銅・酸化亜鉛および酸化亜鉛・セラミックスの二つの界面での構造を観察・分析することで強い密着力の発現機構が解明されている。前者の界面では、触媒化処理で酸化亜鉛薄膜表面に形成された均一で微細な凹凸により発現した強いファンデルワールス力のために、また後者の界面では、酸化亜鉛薄膜成膜時に形成された化学的な結合のために非常に強い密着強度を持つ銅めっき膜が作製されたと結論づけられている。 第四章では、酸化亜鉛薄膜上で起こる特異現象を利用して新たに開発された、二種類のフルアディティブ無電解めっき法が述べられている。第一の手法は、酸化亜鉛薄膜がパラジウムイオンを特異的に吸着する性質を利用するものであり、従来のフォトリソグラフィーでパターン化された酸化亜鉛薄膜上へ選択的にめっきを行う方法であると説明がなされている。この手法はガラス基板に適用され、高密着性・低抵抗率を有するミクロンオーダーの銅のパターンが作製できることが示されている。第二の手法は、従来のフォトリソグラフィープロセスの代わりに酸化亜鉛薄膜の光触媒反応を利用して光照射部のみに直接金属を析出させる光誘起無電解めっきの方法であると記述されている。この手法では光触媒反応の過程を詳細に解析することにより、アルミナ基板上にも前者同様に高解像度・高密着性の銅の微細パターンが作製できることが示されている。 第五章では、セラミックスとの接合が最も難しいとされる金皮膜の作製のために新無電解めっき法の適用が試みられている。その結果、無電解金めっき膜の成膜に対しては接着層として酸化亜鉛薄膜を直接用いることができず、酸化亜鉛薄膜に酸化チタンを添加し複合化させることにより初めて高い密着性の金めっき膜の作製が可能となることが明らかにされている。 第六章は全体の総括と本研究に関する将来展望とが述べられている。本研究で開発された金属薄膜形成法が、セラミックスの金属化を必要とする電子材料・光学材料作製,触媒合成等に広く貢献できると記述されている。 本研究の結果は、金属・セラミックスの接合および金属薄膜の微細加工に新たな知見を与えるものであり、基礎・応用いずれの見地からも高く評価できると同時に、この分野における今後の発展に寄与するものと認められる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |