内容要旨 | | ポリイミドは高耐熱性、低誘電率などの優れた物性を持っているため、エレクトロニクスの分野を中心に広く応用されているが、その加工プロセスを簡略化するため、現在多くの感光性ポリイミドについての研究が行われている。 一般のポリイミドは溶解性がよくないため、その前の段階のポリアミド酸の形で加工され、熱を加えイミドにする場合が多い。 しかし、その高温によるイミド化の段階に大きな収縮(〜50%)などの問題があって、ポリイミド自体が可溶の可溶性ポリイミドが要求される。 また、現在までの感光性ポリイミドは感度が低いという欠点ももっていてこれを改善するため、最近化学増幅型の反応について活発に研究が行われている。 我々は、ポリマーの側鎖にカチオン重合可能なエポキシ基を含む、可溶性ポリイミドを合成し、その光照射に伴う側鎖エポキシ基の化学増幅型の架橋反応及び酸触媒重合反応挙動について研究を行っている。 ポリイミド(PI(6FDA/AHHFP))はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中、室温で12時間反応させて、ポリアミド酸を得、さらにm-キシレンを入れ、熱イミド化して合成した。エポキシ基を含むポリイミドは上で得たPI(6FDA/AHHFP)をエピクロロヒドリンに溶かして、ペンジルトリメチルアムモニウムクロリド(BTMA)を相間移動触媒として110-120℃で合成した。 合成したポリマーの構造はIRとNMRより確認した。 IR(film):1780、1510、905、725cm-1。 NMR(CDCl3):7.0-8.0(12H、Ar)、4.0-4.5(4H、-O-CH2-)、3.2-3.3(2H、-CH2-CH-)、2.5-3.0(4H、エキポシ環内の-CH2)ppm。 合成したポリイミド、PI(6FDA/ep-AHHFP)は、一般の溶媒のNMP、DMAc、DMSO、THF、CH2Cl2等の溶媒に可溶の可溶性ポリイミドである。 光反応は、このPI(6FDA/ep-AHHFP)と光酸発生剤のジフェニルヨードニウム六フッ化ヒ素(DPI-AsF6)をジクロロエタンに溶解させてレジスト溶液を調製し、ガラス板にコートあるいはスピンコートし、450-W高圧水銀燈を用いてUVD36A/UV33のfilterを通して行った。 初期の光の強度は膜厚変化とIR測定に対しては9.15×10-9、GPCによる分子量の測定に対しては2.0×10-9 einstein cm-2sec-1である。 化学増幅型の架橋反応は、IRによるエポキシ基(905cm-1)の変化によって調べた。 架橋反応によるゲル化は、膜厚の変化及びGPCによる分子量の変化によって調べた。 光照射時間、post-cure温度及び時間の架橋反応への影響を調べた。 また、BTDA-型ポリイミドの光反応の初期の光の強度は2.0×10-9 einstein cm-2sec-1である。 光反応及びpost-cure時の反応は、IRによるエポキシ基(905cm-1)とペンゾフェノン基(1675cm-1)の変化によって調べた。 化学増幅反応とは、一般的に光照射によって発生した酸が、post-cureの時に引き起こす連鎖反応を指す。 Post-cureの時エポキシ基の反応は、初期段階にははやく進むが、反応が進むにつれ遅くなり、post-cure40分以上では飽和することが分かった。 これは、架橋されたマトリクス内でのエポキシ基のimmobilityのためである。 同じ光照射時間ではpost-cure温度が高ければ高いほど反応率がもっと高くなることが分かった。 架橋反応の活性化エネルギーは、反応率対post-cure時間のグラフから初期段階(post-cure5分)での反応速度を求め、それのpost-cure温度依存性から求めた。 反応の活性化エネルギーは約6kJ/molであることが分かった。 光発生剤から発生した酸のPI(6FDA/ep-AHHFP)内での反応半径(rR)、kinetic chain length(v)等の値を得ることが出来た。 Table 1に反応の初期段階(post-cure:5分)と反応の飽和した段階(post-cure:40分)でのこれらの値を示した。 vは、58-214の値で、反応が化学増幅による連鎖反応であることを示す。 反応のメカニズムは、光照射によって発也した酸がpost-cureの時エポキシ基の開環重合(架橋反応)を進めるメカニズムで行われるものと考えられる。(Scheme 1) 図表Table 1.Calculated kinetic chain length,v,reaction volume,VR,and reaction radlus,rR,per one photogenerated acid for post cure of PI(6FDA/ep-AHHFP). / Scheme1 Mechanism of Photoreaction of PI(GFDA/ep-AHHFP) 膜厚の変化の実験によって感度、解像度及び架橋の量子収率を求めた。 それぞれ4.8×10-10einstein/cm-2、5.7、3.0である。(Fig.1) 一方、架橋反応の時、分子量の変化から反応の量子収率を求めた。(Fig.2)求めた値は2.6である。 これは膜厚の変化から求めた値(3.0)と非常によく一致し、固体中での酸発生剤の酸発生の量子収率(acld=0.1)を計算に入れると実際の量子収率は約26.0になり、IRから求めた値(v=77.6)の約1/3になる。 これは、エポキシ基の分子内の反応等、開いたエポキシ基が必ずしも分子量の増加につながるものではないからである。 図表Figure 1.Characteristic curve for PI(6FDA/ep-AHHFP)In the presence of 5 wt%DPI-AsF6 with post-cure at 100℃ for 30 min. / Figure 2.Change in Mw of PI(6FDA/ep-AHHFP)with 5 wt% DPI-AsF6 during photoirradiation with post-cure of 5 min at.100℃. 上記の研究で、光酸発生剤として使用したDPI-AsF6の300nm以上でのUV吸収が非常に小さいため(<10)、照射した光量に対する光反応の効率がよくないという欠点を持っている。 そこで増感剤を用いることによって改善できるのではないかと考え、ベンゾフェノン単位をポリイミドの主鎖に導入して、光酸発生剤との増感効果について研究した。 ポリイミド(PI(BTDA/AHHFP))は上記の方法と類似な方法で合成し、エポキシ化してPI(BTDA/ep-AHHFP)を合成した。 その構造は下に示した。 IRの実験から、ベンゾフェノン基を持つPI(BTDA/ep-AHHFP)の方がベンゾフェノン基を持たないPI(6FDA/ep-AHHFP)より反応率が高くなることが分かったが、PI(BTDA/ep-AHHFP)は光反応直後のpost-cureの前の段階でも反応がかなり進んでいることが分かった。(Fig.3)また、ベンゾフェノンをモノマーとしてPI(6FDA/ep-AHHFP)に入れたものとPI(BTDA/ep-AHHFP)とは反応度にあまり差がないことも分かった。 光酸発生剤の濃度のエポキシ基の反応に対する影響を調べた。(Fig.4)光酸発生剤の濃度が大きくなれば、反応の初期(post-cure:0分)と飽和の時(post-cure:60分)ともに反応率がもっと高くなることが分かった。 酸発生剤の濃度が5wt%以下の場合は、反応率が高くならないが、5wt%以上では反応率が高くなることが分かった。 増感の効率は、post-cureの時の反応率から純忰な化学増幅反応による反応率を除いて計算した。 酸発生剤の濃度に対する酸発生の効率の関係をFig.5に示した。 光照射20分で酸発生の効率(sen)は、2.4×10-4-2.6×10-3である。 また、Post-cureのない時もかなり反応が進んでいることから、酸触媒以外の機構による反応が同時に進行しているものと考えられる。 Pf(BTDA/ep-AHHFP)/PAGの反応は、一般の化学増幅反応のようにpost-cureの時に反応すると同時に、schemeの左側のような反応がpost-cureのない時に一緒に起こるものと考えらる。(Scheme2) 図表Figure 3.The changes in residual fractional concentration of cpoxy groups in polyimides by photoirradiation and post cure at 100℃ in the presence of 5 wt%DPI-AsF6-(photoirradiation time=tIn) ● : PI(6FDA/ep-AHHFP), tIrr = 20 min, ■ : PI(6FDA/ep-AHHFP), tIrr = 60 min, ○ : PI(BTDA/ep-AHHFP), tIrr = 20 min, △ : PI(BTDA/ep-AHHFP), tIrr = 40 min, □ : PI(BTDA/ep-AHHFP), tIrr = 60 min / Figure 4.The changes in residual fractional coneentration of cpoxy groups In polyimides with various DPI-AsF6 conceatrations during post cure after 60 min photoirradiation. ● : PI(6FDA/ep-AHHFP) with 5 wt% DPI-AsF6 ○ : PI(BTDA/ep-AHHFP) with 5 wt% DPI-AsF6 △ : PI(BTDA/ep-AHHFP) with 10 wt% DPI-AsF6 □ : PI(BTDA/ep-AHHFP) with 20 wt% DPI-AsF6 / Figure 5.The quantum yields, which is same to the efficiency of acid generation by photosensitizing effects,on photoacid generator(PAG)concentration. ○ : photoirradiation time = 20 min. △ : photoirradiation time = 60 min. / Scheme2 The photoreaction of PI(BTDA/ep-AHHFP) 上記の研究から300-400nmで光反応の効率を上げるためには、300nm以上で光酸発生剤自体が大きなUV吸収を持つものが望ましいことが分かった。 従って、本研究では300-400nmでもっともいい吸収を持つ光酸発生剤を合成(DLAS)あるいは購入(UVI)し、1)の研究で使用したDPI-AsF6との反応の効率を比較する研究を行った。 DIASはDPI-AsF6に比べて300-400nmで非常に大きな吸収を持っていることが分かった(max=11,700at370nm)。(Fig.6)光照射及びpost-cureの時の反応性はIR-スペクトルを使って研究した。 大きな吸収を持つDIASの方がDPI-AsF6より反応の効率がいいことが分かった。(Fig.7) 図表Figure6.UV spcctra of DIAS(),UVI-6974(),and DPI-AsF6(). / Figure7.The changes in residual fractional concentration of epoxy groups in polyimides by photoirradiation(irr.time=10min)and post-cure at 100℃ in the presence of photo-acid generators. ○ : DIAS, 0.5 wt%, ● : DPI-AsF6 5 wt% 最近、Sasakiらにようてオキセタン基の方がエポキシ基より光反応速度が早いということが発表された。 そこで我々は、ポリイミドにオキセタン基を導入してエポキシ基を持つポリイミドとの比較をしようと思って研究を始めた。 側鎖にオキセタン基を持つPI(6FDA/ox-AHHFP)は1)の方法と類似な方法で合成した。 その構造は下に示した。 光反応及びpost-cure時の反応性は、IR-スペクトル、膜厚の変化等の実験を使って研究中である。 |
審査要旨 | | ポリイミドは高耐熱性、低誘電率などの優れた物性を持っているため、エレクトロニクスの分野を中心に広く応用されているが、その加工プロセスを簡略化するため、現在多くの感光性ポリイミドについての研究が行われている。 感光性ポリイミドは、一般にポリイミドになると溶解性がなくなるため、その前の段階のポリアミド酸の形でパターン化され、熱を加えポリイミドにする場合が多い。 しかし、その高温によるイミド化の段階に大きな収縮などの問題があるので、感光性ポリイミドとしては、ポリイミドの段階でパターン化が可能な可溶性ポリイミドを使うことが望ましい。 また、現在までの感光性ポリイミドは感度が低いという欠点ももっていてこれを改善するため、最近化学増幅型の反応について活発に研究が行われている。 本論文は、ポリイミドにエポキシ基を導入し、可溶性及び化学増幅反応による高感度の感光性ポリイミドを作ることを目的としており、新しい感光性ポリイミドの合成、反応メカニズム、ポリイミドマトリッス中での酸の挙動及び増感の効果等について明らかにしたものである。 第1章は、序文であり、感光性ポリイミドの研究の歴史、本論文の研究の背景と目的及び構成について述べている。 第2章は、ポリマーの側鎖にカチオン重合可能なエポキシ基を含む可溶性ポリイミド(PI(6FDA/ep-AHHFP)を合成し、光酸発生剤(DPI-AsF6)を添加したときの光照射及び後硬化時の化学増幅型の架橋反応挙動について述べている。 化学増幅型の架橋反応は、IRによるエポキシ基(905cm-1)の変化、膜厚の変化及びGPCによる分子量の変化によって調べている。 架橋反応の活性化エネルギー、光酸発生剤から発生した酸のPI(6FDA/ep-AHHFP)内での反応半径、動力学的連鎖長(v)等の値を求めている。 vは、58-214の値となり、反応が化学増幅による連鎖反応であることを示している。 また、膜厚の変化の実験によって感度、解像度及び架橋の量子収率を求めてあり、 一方、分子量の変化からも反応の量子収率を求めている。 これらの結果から、エポキシ基を持つポリイミド((PI(6FDA/ep-AHHFP))は、光酸発生剤と組み合わせると反応効率のよい感光性ポリイミドとなり、架橋反応によりネガ型パターンを形成することを明らかにしている。 第3章は、第2章の研究での問題点であった光酸発生剤の効率を上げる目的で、ベンゾフェノン単位をポリイミドの主鎖に導入し、光酸発生剤(DPI-AsF6)との増感効果について述べている。 ポリマーの側鎖にエポキシ基を含むBTDA型可溶性ポリイミド(PI(BTDA/ep-AHHFP))を合成し、それの光照射及び後硬化時の架橋反応及び増感の効果について述べている。 化学増幅型の架橋反応は、IRによるエポキシ基(905cm-1)及びベンゾフェノン基(1675cm-1)の変化によって調べている。 IRの実験から、ベンゾフェノン基を持つPI(BTDA/ep-AHHFP)の方がベンゾフェノン基を持たないPI(6FDA/ep-AHHFP)より反応率が高くなることが示されている。 また、ベンゾフェノンを増感剤としてPI(6FDA/ep-AHHFP)中に分子状に入れたものとPI(BTDA/ep-AHHFP)とは反応度にあまり差がなかった。 光酸発生剤の濃度のエポキシ基の反応に対する影響を調べ、光酸発生剤の濃度が大きくなれば、反応の初期も飽和の時もともに反応率がもっと高くなることが示され、ベンゾフェノンの増感による酸発生効率が増加していることが明らかとなり、その量子収率senの値が求められた。 第4章は、光酸発生剤の効率を上げるもう一つの方法として、300-400nmでもっと大きな吸収を持つ光酸発生剤を合成(DPI-AS、370nmでmax=11,700)し、光照射及び後硬化時の反応性に対する酸発生剤の影響を調べている。 光照射及び後硬化時の反応性はIR-スペクトルと膜厚の変化によって測定した。 大きな吸収を持つDPI-ASの方がDPI-AsF6より反応の効率が約20倍よいことが明らかとなった。 また、膜厚の変化の実験によってこの系が高感度(117mJ/cm2)のネガ型感光性ポリイミドであることを示している。第2章のDPI-AsF6系と比べて、UV吸収の増加から予想される反応性よりは実際の反応性が低いことから、酸発生剤の固体中での反応は、発生した酸および対イオンの種類や大きさ等により影響を受けていると推察している。 第5章は、本論文の結論である。 感光性ポリイミドは、マイクロエレクトロニクスを支える重要な材料である。 また、化学増幅反応は現在リソグラフィ用感光性高分子の分野で最も注目されている概念である。 以上に述べたように、本論文は、ポリイミドにエポキシ基を導入し、化学増幅反応を利用する新しいタイプの可溶性感光性ポリイミドを合成し、その反応性と増感の効果及び酸発生剤の影響を明らかにしたもので、感光性ポリイミドの新しいタイプの分子設計の領域を拡大したことに意義があり、感光性ポリイミドおよび感光性高分子の化学および技術の発展に寄与するものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |