修士(経営学)本山光一提出の論文は、「人工知能方法論を統合した意思決定支援」と題し、11章から成る。 近年、経営学の領域にもコンピュータの進出は著しく、経営情報学などという学問分野も成立している。また経営の現場においても、さまざまな意思決定のためのコンピュータシステムの利用が試みられてきている。しかしながら、従来の意思決定支援システムは、データベースの機能や統計処理の機能を基本としたものがほとんどであり、必ずしも経営の現場において有効に機能していなかった。特に経営においては、客観的な理論よりも直観が重視される場面も少なくなく、コンピュータによる支援は敬遠される傾向もあった。本論文は、これに対して、人工知能方法論を統合的に活用することにより、直観的な意思決定に対しても、コンピュータが有効な支援を行なえることを示すものである。意思決定の初期の発想の段階から、決定した戦略の有効性をシミュレーションにより評価する段階までを統合的に支援するシステムを提案し、いくつかの例題で実験を行なうことによりシステムの有効性を示している。 第1章は序論であり、研究の目的について述べている。 第2章では、研究の背景について述べている。経営戦略および経営戦術とは何かの定義を与え、それに関わる知識の現状を示している。経営学で扱うべき知識の多くが悪定義問題や悪構造問題を扱うことや、解空間が容易に組み合わせ爆発を起こすことなどの問題が述べられている。 第3章では、意思決定に関わる技術的な課題を整理している。知識が未整備な多目標問題における定性要素の組み合わせ意思決定のためには、従来のエキスパートシステム、発想支援システムなどのいずれもが、困難な課題を有していることが示されている。 第4章では、問題空間の数学的な定式化を与えている。まず線形的な因果関係の定式化を行ない、次に全体的な効用を定式化している。さらに、解要素と状況の相互作用、問題空間の関連行列、重要度ベクトル、関連行列へのリスクの表現方法などについて、詳細に数学的な定式化を行なっている。 第5章では、前章までに述べた問題への本論文における接近法を述べている。発想支援、定性推論、遺伝アルゴリズムによる探索などのいくつかの人工知能の手法を統合的に用いることにより、悪定義かつ悪構造の問題に対処するという方針が示されている。 第6章では、発想支援システムによる基本的な着目・理解・決定の支援について述べられている。Hatchと称するシステムの構築と実験により、意思決定のきわめて初期の段階の支援が可能であることが示されている。特に状況と解と因果関係の複雑な相互参照の関係の取り扱いの効果的な支援について述べられている。 第7章では、Auctionと称するシステムの構築と実験が述べられ、前章と同様の意思決定の初期の段階での別の側面、すなわち概念の主観的な空間の取り扱いに関する問題への支援の効果が示されている。 第8章では、遺伝アルゴリズムによる初期解の生成について述べられている。人間の判断を生成に取り込むための手法を工夫した遺伝アルゴリズムを用いることにより、初期解の生成検査の幅が広げられることが示されている。 第9章では、定性推論を用いた解析と評価について述べられている。従来の意思決定支援システムの多くは、単に解を提案するだけにとどまっていた。これに対して、ここでは、解の有効性を定性推論の手法を用いたシミュレーションにより解析・評価することを提案している。 第10章では、アブダクションの手法を用いて、さらに初期解の範囲を広げることが検討されている。 第11章は結論であり、本論文の成果をまとめ、今後の展望を与えている。 以上を要するに、本論文は、人工知能の方法論を統合的に用いることにより、経営のような知識が未整備の領域における意思決定支援のためのシステムを与えたものであり、人工知能の技術の有用性を実証したものとして、工学上、寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |