世界銀行は、「94年版世界銀行報告」を発表し、開発途上国のインフラ整備開発の非効率さを厳しく批判した。建設のみにとどまり、維持・管理が不十分な場合が多いほか、ニーズに合わないムダな投資計画などが原因である。インドネシアの場合でもインフラ整備が包括的に行われているわけではない。今後ともこのような状態が続くと経済基盤が崩れ、経済全体に大きなダメージを与えることになるに違いない。 このように、インフラが効率的に整備されなければならないという意味で、その計画性がもとめられる。インフラ整備の開発は経済成長に関わるだけでなく、貧困の緩和、環境の維持可能性などにも影響をもたらす。開発途上国においてインフラ整備計画の研究が重要なのは、まだまだマクロ的に改造できる可能性が高いからである。 こうしたインフラ整備に関するマクロ的な研究において、地理情報システム(Geographic Information Systems以下GISと略す)という手法を使用することが有効である。GISの利点としては、さまざまな地図をコンピューター上で重ね合わせられることと、解析結果から、数値結果だけでなくて、その配置と分布もわかるという点があげられる。このように、GISによってインフラ整備の配置あるいは分布が見えるということは政策立案にとってたいへん役に立つと思われる。 本論文は、インフラ整備と経済発展との関係を強調しつつ、インドネシアのインフラ整備の現状を分析するとともに、特にジャカルタ特別区についてインフラの整備基準を地理情報システムおよびリモートセンシングの技術を利用して開発すること、そして、ジャカルタ特別区の基準に基づいてジャワ島の各州におけるインフラ整備の評価を行うこと、最後にジャワ島全体における今後のインフラ整備計画を提案することを目的としている。ここで取り上げるインフラは電力、上水道、電話、道路及び鉄道の5種類である。 まず本論文では、世界の国々のインフラ整備に関するデータを比較をすることにより、その国の1人当たりGDP(国内総生産)とインフラ整備の相関が高いということを明らかにした。すなわち、電力とGDPの相関係数は82%、上水道は80%、電話は96%、道路は86%、鉄道は55%と、どのインフラ整備においても高い値を示している。ここでは世界のなかでも、特に日本とインドネシアのインフラ整備の状況を比較して論じた。 その比較を行った結果、開発途上国に位置付けられるインドネシアはインフラ整備の遅れが目立った。その原因を知るためにはインドネシアの歴史から現在の経済開発まで様々な要因を述べることにした。特に、インドネシアの中でもジャカルタ特別区は特別な地域として扱われている。これらを基礎にしながらインドネシアのインフラ整備を概観した。 近年、インドネシアの電力需要の伸び率は著しく、1994年までの年平均増加率は16.5%で、電化率も1968年の3.4%から1992年には39.2%になった。しかし、電力供給において、電力公社(PLN)より自家発電の比率のほうが高いという現状である。その理由は、PLNの電力供給が限界になったことより、慢性的な電力整備の不足が続いたこと及び供給安定性(停電)に不安があるからである。 上水道において、一般的に設備は古く、改善管理がほとんど行われていない。インドネシアの上水道の普及率はまだ低く18%しかなく、電話の場合はさらにひどく4%しか普及していない。しかし、最近インドネシアでは民営化が進み、特に電話の民間資本の導入が急激に増加した。 交通整備の道路と鉄道の場合、現在使用されているのは植民地時代からの古いストックがほとんどである。インドネシアの鉄道はほとんどは単線であり、老朽化が進み、保守管理も悪い。その結果、輸送モードは年々低下し、道路などの交通モードに変わる傾向になっている。 このように、インドネシアのインフラ整備の現状を分析した後、地理情報システム技術を利用して、ジャワ島の各地域の評価を行った。また、地図はポリゴン(ベクター)として入力したが、地図を解析するのにラスターの方が便利である。そのために、ベクターからラスターに変換した時、どの位の分解能が適切かが重要な課題となる。その分析結果として、誤差が5%まで認める場合、分解能の範囲として全体面積の2%以下が好ましいということがわかった。 インドネシアの州の中でもジャカルタ特別区のインフラ整備がかなり高い水準にあるということが統計データから得られた。そのため、ジャカルタ特別区のインフラ整備がジャワ島の基準として十分意味をもつと考えられる。ジャカルタ特別区は、首都であるということ以外に、歴史的にも政治的・経済的にも特別な地位を占めている。その基準を決定した上で、まずジャカルタ特別区内の各インフラ整備における地域格差を分析した。その方法は10段階のランク分け方法を使用した。 このようなインフラ整備の状況を解析することに当たってはGISの技術だけではなくて、リモートセンシングも大変役に立つ。なぜならば、リモートセンシングの技術によって、その土地の開発程度の変化がわかるからである。ここでは、ジャカルタ特別区の土地被覆の変化を観察した上で、ジャカルタ特別区の経済開発が急速に行われたこと、ジャカルタ特別区がインフラ整備の基準として適切であることを示した。本論文では20mの分解能をもつSPOT衛星データを利用し、1986年の画像と1990年の画像を比較した。その結果4年間に植生の面積は約3%減り、1800haがなくなった。その代わりに、裸地(建物などを含む)の面積は同じ広さでだけ増加した。 このようなジャカルタの水準からみたときジャワ島の各州のランクがどのように分布しているかを分析を行った。西ジャワ州、中ジャワ州及び東ジャワ州のインフラ整備を評価する方法としてはGISの技術の利用及びその他の統計データを用いた。また、そのほかに著者の観察及び経験から得られた要素も加味した。これによって、ジャワの各州の道路整備及び鉄道整備がジャカルタ特別区とほぼおなじ水準ではあるが、電力、上水道及び電話の整備はまだ遅れているという現状である。 さらに、西ジャワ州、中ジャワ州及び東ジャワ州の各地図を統合して、1つのジャワ島の地図を作成したことによって、ジャワ島全体のインフラ整備の分布がわかった。その結果、東ジャワ州においてインフラ整備の地域格差は最も低くく、地域格差が最も高いのは中ジャワ州となり、また西ジャワ州は他の州に比べて高いランクをもつ。インフラ整備に関してはジャワ島全体がジャカルタ特別区に比べてまだ遅れていることが明確になった。 最後に、インフラ整備の低い地域(ランク5以下)だけ取り出し、統計データなどと含めて分析を行い、そして、最終的な結果としてジャワ島における今後のインフラ整備開発に関する提案を行った。 インフラ整備におけるエネルギー整備(電力・上水道)、情報通信整備(電話)及び交通整備(道路、鉄道)の中から、ジャワ島における公共投資の望ましい配分について、道路の高速化が最優先にすべきと考えられる。その最大の理由は、交通手段としての道路は貨物輸送量及び旅客輸送量においても、鉄道より多く運べるからである。ジャワ島の自動車の増加率は年平均7%で、道路の新設に比べて自動車の増加率のほうが高いため、交通事故なども多発する。また、世界銀行の報告によれば道路整備の投資においてかなりの収益率が見込まれるため、公共投資だけでなく、民間企業の積極的な参加も期待できる。 以上が、本論文の内容である。その特徴は3つあると考えられる。その1つはインドネシアのインフラ整備の現状を分析したこと、2番目はラスターGISを応用してインフラ整備の評価を行ったこと、そして最後にそのインフラ整備の計画を提案するとともに、公共投資に関する配分問題も論じたことである。 |