本論文は、情報通信技術(ICT)分野のヨーロッパ企業が日本においてどのような戦略で活動し、結果としてどの程度成功をおさめているかについて分析を行うことを目的とした英文の論文である。 本論文は全11章からなり、はじめの導入部分の後、第1章から第3章において理論的枠組みの導入と紹介がなされている。そこには国際的な情報通信技術分野の企業の戦略と競争環境に関する詳しい資料の検討が含まれている。第4章から第10章までは、これまでの研究成果にもとづいて立てた仮説を検討している。そこでの分析はヨーロッパのICT企業の戦略と日本での成功の理由について、著者自身が行ったアンケートにもとづいている。第11章は他の調査との比較とともに、企業戦略についての今後の展望と将来の課題を述べている。 具体的内容は以下の通りである。 第1章においては、三極(米国、EC、日本)のICT企業活動と実状の概観がなされ、比較研究の重要性を示している。 第2章では、競争と協力の理論的枠組み、外国直接投資のパラダイムを示し、企業の国際化にともない国際的研究開発戦略が企業の成功の重要な要素になりつつあることを示している。 第3章では、研究の方法論を紹介している。 第4章では、実例を挙げながら、日本における製造と研究・開発の施設をもっているヨーロッパのICT企業の概観を述べている。 第5章では、企業の地理的分布、すなわち本部の場所を日本に置くかアジア・太平洋の他の国に置くかの問題を論じ、また、情報通信関連の産業部門から眺めた流通問題を分析している。 第6章では、J.H.DunningのOLIパラダイムの紹介とともに、それに基づく分析を行っている。また外国への直接投資および貿易問題の歴史的経緯の包括的な概観を行い、規制は電気通信部門を除きもはや外国企業にとって障害ではないという結論を導き出している。 ここでは、特に日本におけるヨーロッパのICT企業の活動が増しており、競争力も増していることを述べている。この点は、ICTの中の特定の分野、たとえばコンピューターのハードウェア、電子機器部品分野に属する企業に当てはまる。しかし、最近はネットワーク機器、電気通信サービス、およびソフトウェア分野への進出も盛んになりつつあり、実際、ヨーロッパ企業が比較優位をもつケースも増えている。この意味で、ヨーロッパのICT企業は日本でかなりの成功を収めつつあるといえる。 第7章では、製造および研究開発施設を日本にもつことの動機、ならびに一般的に日本に投資をする動機が分析される。 第8章では、企業の選ぶ組織形態と変化の型を提出している。そして、共同事業と戦略的協調が一般に好まれることが分析されている。 第9章では、競争力に関係のある他の要因が論じられている。そこでは、系列ないしは企業グループに参加することを積極的に評価し、それが成功の要因の一つであることが示されている。日本における活動の比較的正確な物差しとしては、財務面(売上、採算)のみならず、日本産業の戦略的重要性が挙げられている。 第10章では、企業の研究開発戦略の現状を示すとともに、共同研究への参加に関しては、西ヨーロッパの企業のほうが北米の企業よりも熱心であることを証明している。さらに、ここでは企業のジョイント・ベンチャーの数と内容だけでなく、政府がサポートしている共同研究への参加についても分析している。 以上、本論文は、日本におけるヨーロッパ企業の活動に焦点を当てた研究が一般に乏しい中にあって、ヨーロッパのICT企業の活動の実態と研究開発戦略とについて詳細に分析し、新しい知見を見い出しており、高く評価できる。 よって本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。 |