銅剤に含まれる銅イオンはタンパク質などのSH基をブロックし、酵素系の阻害などを引き起こすことが知られている。植物病原細菌の鋼剤耐性機構は、銅耐性遺伝子の産物である銅吸着タンパク質がペリプラズム領域および外膜で銅イオンと結合してこれを封鎖し、銅イオンの細胞内への透過を妨げるためであると説明されている。本菌の銅剤耐性に関して遺伝子レベルでの解析を試みた。
(2)銅耐性遺伝子の解析 銅耐性菌株Pa429株を供試して、以下に示した方法により銅耐性遺伝子のクローニングを試みた。まず、供試菌株にトランスポゾンTn5を導入して銅感受性突然変異株を作成した後、親株Pa429株のプラスミドpPaCu1よりTn5の挿入が起こった領域に相当する領域、すなわち、銅耐性に関与する領域をクローニングした。次いで、この領域をプローブにして1.(2)と同様の方法により作成したプラスミドDNAのコスミドライブラリーより、銅耐性遺伝子を含むコスミドクローン(23kb)を選抜した。このようにして得られたクローンを以下に示す銅耐性遺伝子の解析に供試した。
これまでに数種の植物病原細菌で銅耐性菌株の存在が確認されているが、そのうちP.syringae pv.tomatoではその銅耐性遺伝子が35kbの伝達性プラスミド(pPT23D)上の約6.5kbの断片上に存在していることが明らかにされており、その塩基配列も決定されている。そこで、上記で得られたキウイフルーツかいよう病菌の銅耐性遺伝子とP.syringae pv.tomatoのそれとの相同性を調査するために、上記のコスミドクローンをHindIIIで切断し、サザンハイブリダイゼーションに供試した。プローブには、既報のP.syringae pv.tomatoの銅耐性遺伝子の塩基配列をもとに、6つのオープンリーディングフレーム(ORF)copA(1.8kb)、copB(1.0kb)、copC(0.4kb)、copD(1.0kb)、copR(0.7kb)およびcopS(1.5kb)ごとに各々のPCRプライマーをデザインして、各ORFをPCRにより増幅した各DNA断片を用いた。その結果、上記のクローンDNA上にはcopA、copB、copRおよびcopSと相同性を示す領域が存在することが明らかとなった。copCおよびcopDとの相同性は認められなかった。さらに、copA、Bと相同性が認められた領域をサブクローニングし、その塩基配列を決定した結果、P.syringae pv.tomatoのcopA、B領域および大腸菌の銅耐性プラスミド上のpcoA領域と部分的に相同性の高い領域が認められ、さらに、Xanthomonas campestris pv.juglandisの銅耐性遺伝子の一部との相同性も認められた。P.syringae pv.tomatoではcopAはペリプラズム領域に存在する銅吸着タンパク質CopAを、copBは外膜に存在する銅吸着タンパク質CopBをコードしており、銅耐性は主としてこれら二種のタンパク質に依存していることが明らかとなっている。またcopR、copSは銅耐性発現の調節遺伝子であり、それぞれアクチベータータンパク質およびセンサータンパク質をコードしているとされている。従って、本菌においても同様の耐性機構が働いているものと推定された。
以上を要するに、本研究はキウイフルーツかいよう病菌のストレプトマイシン剤耐性および銅剤耐性について、各耐性菌の発生生態を調査するとともに、本菌の両薬剤に対する耐性機構を遺伝子レベルで解析し、本菌のストレプトマイシン耐性がアミノグリコシド3"-リン酸転移酵素によるストレプトマイシンの不活性化によること、および銅耐性が銅吸着タンパク質による銅イオンの封鎖によることを示唆したものである。