木質構造の他構造と著しく異なる点はクリープ変形と湿度変動よる変形である。とくに荷重が作用しているときの湿度変動に伴う変形はMechano-sorptive変形と呼ばれ、その変動の大きさから通常のクリープと区分されている。Mechano-sorptive変形は木材の特有の問題として水分非定常状態のクリープとして物性論的に取り上げられてきたが,それは従来の住宅程度の規模では何らかの緩衝部材があったり,あるいは避けがたいものとして処理されてきたか,比較的小規模の木構造ではこれらの変形もさほど目立つことが少なかったといえよう。施工後に生じた経時変化に対しては未乾燥による反りと割り切っていたと思われるが,単純な反りだけではなく、mechano-sorptive変形もかなり影響を及ぼしていると思われる。このように環境変化にともなう経時的な変形の評価をしておきたいということは自由度の増した構造設計だけでなく,管理の上からも当然生じることが予想される。いずれにしても従来のクリープやMechano-sorptive変形の実験は現象が複雑であるが故に比較的小さな試験体によったものが多い。しかもクリープは温湿度の定常状態によるもので,Mechano-sorptive変形の実験は素材の乾燥に伴うものが多く,集成材,単板積層材や新たな木質複合部材の接合部を対象とした研究はきわめて乏しかった。それらは乾燥材であるため実際の温湿度変動程度ではMechano-sorptive変形は問題視していなかった。ましてや大断面集成材などではクリープやMechano-sorptive変形を実験的に調べることもなかった。しかしながら,大規模な居住空間や構造デザインの自由度の大きい構造物の出現は個々の部材とその接合部の湿度変動による変形挙動が構造物全体の挙動を支配することも十分考えられ,接合部に関するクリープやMechano-sorptive変形について知見はほとんどないため,建築物の変形の経時評価に苦慮するとか,実際の変形が大きいために不安を抱いたというような報告も少なくない。このように、同時に接合部がかなり変形をかなり支配することも考えられる構造や接合部数が多くなっている場合には木部そのものの変形と接合部の変形を定性的に、かつ可能な限り定量的に押さえておくこと必要であろう。 集成材、LVLおよびそれらに釘接合部を有した曲げ材の湿度変動下のクリープ特性は外周条件とくに湿度の変動があるときには湿度が一定のいわゆる定常とは異なった挙動であるmechano-sorptive変形を示すことが認められている。また,木材の釘接合部でも湿度変動のクリープ変形への影響が大きく,挙動は複雑であることが認められている。まずここでは乾燥材で,比較的材質の揃っていると思われる集成材,LVL(単板積層材)を対象にして湿度変動下でクリープ,すなわちMechano-sorptive変形を実験的に調べることとした。 供試材料はペイマツの集成材(断面5×9cm),LVL(枠組壁工法呼称204、206)とそれらを中央部で切断して釘,ドリフトピンで接合したものとした。負荷方法は4点荷重で中央の撓みを計測した。湿度変動は窓の開閉などで行ったが,温度の日変動は極めて緩やかで少なかった。 湿度変化はその変形に大きな影響を与える。集成材の一部は初期変形より変形が減少しており,湿度低下による変形の回復が生じているが,試験体によっては逆の傾向を示すこともあり,ラミナの配置による収縮率の違いによる反りなどの効果が考えられる。一方接合部は変形の進行が逆転する傾向はみられない。 LVLおよびその接合部の湿度変動に対する挙動は集成材に比較すると個体差による傾向の差異は少ない。しかしながら,接合部の剛性,作用する応力比によって変動幅や変形の回復に違いが認められる。 瞬間変形に対するクリープ変形の比率(相対クリープ)で湿度変動による変形を比較すると,応力比が高いほど、湿度変動による変動幅は少なくなる傾向が認められる。 集成材、LVLとも負荷初期においては湿度変動に対する対応は明確でなく,荷重に対する安定化への変動が主体であった。負荷後変形が安定してくると湿度との対応が比較的明確になってくる。したがって長期間にわたる湿度変動を受けるときの撓み量の推定は比較的応力比の大きいときには初期の湿度変動後のPOWER則を基本にして,湿度変動に伴う撓み増加を湿度変動量に比例する量とした式で表示すれば実用上大きな問題はないことを述べた。しかしながら,釘接合部や応力比の小さい場合の負荷初期ではPOWER則を基本にするより指数型の方が変形機構を表示するには適切なこともあるので,ここではそれを基本にして,湿度変動による変形を重ね合わすことを試みる。とくに、湿度変動の寄与の大きい比較的応力比の少ない場合を対象とした。 負荷後初期の段階に次の指数式を当てはめた。 ここに、r0は瞬間変形であり,r1(1-exp(-Bt)がクリープ変形に相当する。 この式を用いた理由は釘接合のように圧密によって変形が安定化する機構を説明しうるからである。また、集成材などに対しては粘弾性Voigt模型によるクリープ曲線の表示に相当するVoigt模型であるからでもある。 これから明らかなように初期で求めた曲線からいずれもはずれていき,湿度変化はその変形に大きな影響を与える。 初期の曲線を求めた時点での湿度から,それを基準にして湿度の差を求め,一方変形は上記の曲線の各時間での外挿値からの差をとる。この両者の直線回帰式f(△RH)を求めた。回帰式に湿度変動を代入して変形を求め,全変形を次式で算出した。 いずれも変化の性状をよく示していると思われる。したがって,今後の湿度変動に伴う挙動の把握にはある程度の推定は十分可能と思われる。 湿度変動下での単板積層材LVLの直交接合部のクリープ特性を検討した。 供試材料はベイマツ単板積層材LVL(断面40×140mm)を中央部で切断しての釘およびドリフトピン接合金物で直交接合したものとした。方法は鉛直部材の脚部を固定し、水平部材の先端部におもりを負荷して、接合部の回転、沈み込みを計測した。荷重は片持梁形式のもので、接合部には主として曲げモーメントが作用する。この接合部における応力の状態はきわめて複雑であることが予想される。すなわち柱に相当する材に梁に相当する材が支持されており、梁に作用するせん断力は接合金物の釘からの伝達がなければ柱からの圧縮力によって生じることになるが、梁の横圧縮による変形が両端の変位に含まれることになる。クリープの相対的な評価と、同様に湿度変動による傾向をつかむことが重要である。 各試験体は同一環境下で、第1ステップでは3つの荷重で比較し、その後荷重の変化は2900時間において行った。荷重の増加および減少を行い、荷重による変形と、湿度変動による変形の寄与をみた。 湿度と左右の変位の経時変化、クリープ変形挙動はきわめて複雑であり、試験体の個々の挙動を単純化して示すことは困難であるが負荷初期においては湿度変動に対する対応は明確でなく、時間を経て変形が安定してくると湿度との対応が比較的明確になってくる傾向がみれる。 全変形量は負荷によるクリープ変形と湿度変動に伴う収縮膨張量)からなっているので、負荷をしない時の変位(収縮膨張量)で相殺すると荷重に依らずほぼ同じ傾向を示しており、湿度変動にほぼ対応している。経時変化は荷重の増加に伴い値が大きくなっているが、湿度変動への対応はほぼ同じ傾向を示している。すなわち、温湿度から算出された平衡含水率の増減と変形の増減をプロットすると、乾燥によって変形が進行し、湿潤によって回復することが認められる。 長期間にわたる湿度変動を受けるときの変形量は比較的応力比の大きいときには初期応力による変形曲線を基本にして、湿度変動に伴う撓み増加を湿度変動量に比例する量とした式で表示すれば、実用的には大きな問題はないと思われる。 集成材およびLVLの釘、ドリフトピン接合部を対象にした湿度変動下でクリープ変形は負荷初期においては湿度変動に対する対応は明確でなく、荷重に対する安定化への変動が主体であった。負荷後変形が安定してくると湿度との対応が比較的明確になってくる。負荷後初期の段階に指数式を当てはめ、その外挿値と湿度差によって生じる撓み量を加算することによって長期にわたる湿度変動による変形を推定することを試みた。それはいずれも変化の性状をよく示し、湿度変動に伴う挙動の把握が十分可能と思われた。 単板積層材の直交釘、ドリフトピン接合部を対象にして湿度変動下で曲げモーメントによるクリープ変形は負荷によるクリープ変形(mechano-sorptive変形を含む)と湿度変動に伴う収縮膨張量からなっている。負荷をしない時の収縮膨張量の実測と荷重による両端の変形を同じと仮定すると湿度変動に伴う挙動の把握が十分可能となった。すなわち、接合部のクリープ変形は荷重の増加に伴い値が大きくなり、乾燥によって変形が進行し、湿潤によって回復することが認められる。 |