本研究は、BIODURTMP-40を用いて、脳スライスのシート・プラスティネーションを行なう方法を実施し、従来のBIODURTMP-35による方法と比較検討するものである。 P-40は、新しく開発された透明なポリエステル樹脂であり、粘性が低く、感光性がある。P-40法は、(1)脳の固定とスライス作製、(2)脱水(-25°Cに冷却したアセトンを用いる)、(3)樹脂モノマーの浸透(-25°Cの低温下で、1〜2mmHgの真空度に達するまで行なう)、(4)硬化(315〜400mm波長の近紫外線を照射する)の4段階からなる。従来のP-35法は、P-35と硬化剤A9とを使用直前に混ぜ合わせる点、強制浸透を室温下で行なう点、近紫外線照射に加えて+40°Cの恒温槽での熱硬化を必要とする点が、P-40法と異なる。 二つの方法を比較して、つぎの結果を得た。 P-40法では、脳の灰白質と白質の、これまでにないくっきりとした色彩の対照がえられる。P-40は粘性が低いので、浸透を-25°Cで行なうことができ、時間も短くてすむ。硬化は、近紫外線の照射のみで十分である。また、硬化剤、活性剤そのほかの添加を必要としない。(4)の過程で使用するガラス板も薄いものですむなど、P-35法に比べて多くの利点を有する。 このためP-40法は、正常な脳スライス全般に対して用いることができる。いっぽう、脳出血巣をもつ脳スライスには、P-35法が適している(血液が加熱硬化を必要とするため)。 以上のように本研究は、医学標本作製のための基礎的資料を提供するものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 |