学位論文要旨



No 112045
著者(漢字) 田中,敏博
著者(英字)
著者(カナ) タナカ,トシヒロ
標題(和) 日本におけるRomano-Ward症候群13家系の遺伝子連鎖解析
標題(洋)
報告番号 112045
報告番号 甲12045
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1101号
研究科 医学系研究科
専攻 第一臨床医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 金澤,一郎
 東京大学 教授 豊岡,照彦
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 榊,佳之
 東京大学 助教授 中堀,豊
内容要旨

 Romano-Ward症候群は心電図上QT時間の延長を特徴とする家族性不整脈疾患で,Torsade de Pointesなど心室性不整脈の発生する危険性が高く,臨床的には反復する失神発作や突然死を認める.遺伝的には常染色体優性の形式をとり,現在までに米国人とユダヤ人の大きな家系を用いた遺伝子連鎖解析によって,第11番染色体短腕15.5に強く連鎖する家系とそうでない家系が報告されており,遺伝的に不均一な疾患であることが示唆されている.解析が可能であった日本人の13家系に対し,第11番染色体短腕15.5に存在する多型性DNAマーカーD11S922を用いて連鎖解析を行った.その座位に存在する2塩基反復配列の多様性によるPCR産物の大きさの違いを電気泳動にて判別し個人の遺伝子型を判定した後,コンピュータープログラム(LINKAGE)によってロッドスコアを算出した.D11S922においては,連鎖を示す家系と組み換えを示す家系とが認められ遺伝的異質性が示唆されたが,全13家系のロッドスコアも組換率0.11の時,最大値3.91と,統計学的に有意な値をとり.同時に行った同質性の検定にては危険率2.5%で遺伝的異質性が有意であるとの結果が得られた.QT延長症候群の原因遺伝子は単一でない可能性が日本人においても示唆されたが,単一遺伝子であると仮定した場合もなお有意なロッドスコアが得られた.連鎖するかどうか判定できない小さな家系について上記のDNAマーカーを発症前診断等に用いるのは現時点では適当でないと考える.

審査要旨

 本研究は家族性致死的不整脈疾患であるRomano-Ward症候群の日本人における遺伝子座位を決定し,さらに遺伝子診断の可能性を探るため遺伝子連鎖解析を行ったものであり,下記の結果を得ている.

 1.全国の施設の協力を仰いで日本人のRomano-Ward症候群の家系調査を行い,比較的稀な疾患であるといわれているにもかかわらず50家系を収集した.

 2.50家系中,連鎖解析が可能であった13家系について第11染色体短腕(11p15.5)に存在するDNAマーカーを用いて連鎖解析を行ったところ,原因遺伝子座が11p15.5に存在する家系とそうでない家系の両方が存在した.

 3.同質性の検定を施行したところ,危険率2.5%で遺伝的異質性が有意であるとの結果が得られた.

 4.以上の結果より,組換えの有無を判定できない小さな家系においては11p15.5におけるDNAマーカーを遺伝子診断に用いるのは適当ではないということが明らかとなった.

 以上,本論文は日本人のRomano-Ward症候群13家系において,11p15.5に原因遺伝子の存在するものとそうでないものに分類できることを明らかにした.さらに遺伝子診断の可能性について,現時点では組換えの有無を判定できない小さな家系においては不可能であることも示した.本研究は他の人種と比較して遺伝的にかなり同質であると考えられる日本人においても,本疾患の遺伝的異質性を明らかにした点において重要な役割を果たしたと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる.

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