気管支喘息は、代表的なアレルギー性疾患であり各種の炎症性細胞の作用による気道の慢性炎症性疾患である。気管支喘息患者の組織の病理像としては、気管支の粘液栓、気管支平滑筋の肥大、気管支上皮の剥離などが見られる。気管支粘膜、気管支上皮、気管支上皮下には好酸球が浸潤しており、この好酸球は免疫組織学的にEG2陽性のものが多く、活性化されていると考えられる。好酸球が組織内に浸潤する際には、細胞表面の接着分子が作用していることが最近明らかになりつつあるが、これらの分子は細胞の局所集積に関わっているのみならず、炎症性細胞の機能発言にも深く関わっていることも次第に判明してきた。また細胞相互の情報伝達には、細胞間の接着のみならず細胞外マトリックスと細胞との接着も重要な要素をしめていることが次第に認識されるようになってきた。 細胞外マトリックスには、コラーゲンやファイブロネクチン等の構造蛋白質とプロテオグリカンがあり、不溶化又はゲル化した状態で、細胞を接着あるいは固定している。中でもファイブロネクチンは、細胞機能の発現に重要な役割を持つことが知られている。ファイブロネクチンは、線維芽細胞をはじめとして気管内皮細胞、上皮細胞など数多くの細胞が合成し、細胞の外周に繊維状の重合体を形成し、組織修復に深く関係している。ファイブロネクチンは当初二量体で存在しているが、繊維形成をするためには生きた細胞の存在を必要とする。そして繊維形成の過程でコンフォメーション変化を起こし細胞機能の調節に関与すると推定されている。 またファイブロネクチンは免疫応答の補助シグナルとしても重要な役割を果たしていることも判明しつつある。 今回我々は、好酸球機能の発現に細胞外マトリックスとしてのファイブロネクチンが直接的なシグナルとなり得ると考えアトピー性気管支喘息患者の末梢血から正比重好酸球を分離してファイブロネクチンの好酸球刺激効果の検討を行った。 本研究では、末梢血からPercoll不連続密度勾配法とCD16 negative depletion法を併用して正比重好酸球を精製した。精製した好酸球は、純度97.5%以上であり、生存率も99.0%以上であった。得られた好酸球をRPMI1640に浮遊させ、ファイブロネクチンを添加して37℃、5%CO2,存在下にて培養を行い、上清のロイコトリエンC4(LTC4)の産生量をEIA kitにて測定を行った。その結果、ファイブロネクチンは濃度依存的に好酸球からのLTC4の産生を増大させ、かつ好酸球からのLTC4産生は時間依存的であった。 次にファイブロネクチンの細胞認識部位のアミノ酸配列を含んだ2種類の合成ペプタイドをファイブロネクチンと共に好酸球に添加したところ、ファイブロネクチン刺激による好酸球からのLTC4産生は部分的に阻止されることが分かった。VLA-4を認識するCS-1ペプタイドも、VLA-5を認識するRGDペプタイドも同様にファイブロネクチン刺激による好酸球からのLTC4産生を部分的に阻止した。 次に、 5 1インテグリンおよび 4 1インテグリンに対するモノクロナール抗体を添加し、好酸球の培養を行ったところ、共に好酸球を刺激しLTC4産生を惹起させた。 以上の実験結果から、ファイブロネクチンによる好酸球の活性化は 5 1インテグリンおよび 4 1インテグリンの双方を介している可能性が示唆された。即ち、好酸球は組織のなかで細胞外マトリックスの一つであるファイブロネクチンにより直接的に刺激を受け機能を発揮する可能性があることが初めて示された。 さて、近年ファイブロネクチンを始めとする細胞接着分子と細胞との相互作用が明らかとなるにつれて、その機能を制御しようとする試みがなされている。同様にアレルギー性疾患に於てもインテグリンの機能発現の調節が、アレルギー性疾患の制御の可能性の一つとなる可能性が示された。 |