本研究は、骨吸収を司る細胞である破骨細胞におけるc-Srcチロシンキナーゼの役割を明らかにする目的で、in vitroのマウス破骨細胞形成系を用いて、破骨細胞におけるc-Srcの発現、及びc-Srcの基質として注目されているFocal Adhesion Kinase(FAK)の骨吸収への関与の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1)マウス長幹骨より分離した破骨細胞、およびin vitroのマウス破骨細胞形成系で形成された破骨細胞(OCL)におけるc-Srcの発現を検討した。 Westem blottingにより、破骨細胞形成系においてOCLの形成に伴いc-Srcの発現の上昇が認められた。Immune complex kinase assayによってc-Srcのチロシンキナーゼ活性を調べると、OCLを多く含む画分ほど高いc-Src活性を認めた。さらに免疫染色を用いてマウス長幹骨より得た破骨細胞、及びOCLにおけるc-Srcの発現を調べたところ、破骨細胞のみならずOCLにおいても強いc-Srcの染色像が認められた。また電子顕微鏡的に破骨細胞におけるc-Srcの細胞内分布を検討したところ、c-Srcは主に酸、酵素を分泌する波状縁に局在し、骨への接着部位である明帯、あるいは波状縁の対側に存在する外側基底膜にはほとんど認められなかった。これらの結果より、c-Srcが破骨細胞の酸、酵素の分泌、あるいは波状縁の形成自体に重要な役割を果たしていることが示された。 2)破骨細胞におけるc-Srcの役割をさらに明らかにするためにはc-Srcのシグナルを受け取る二次メッセンジャーを同定することが重要である。OCLをc-Srcの阻害剤であるHerbimycin Aで処理するとその骨吸収能は著しく抑制される。このときOCL内で115-130kDの蛋白のチロシンリン酸化が阻害された。免疫沈降、及びWestem blottingを用いてこの蛋白の一部がFAKであることを明らかにした。Herbimycin A処理は破骨細胞におけるFAKのチロシンリン酸化を抑制すると同時に、その細胞内局在を変化させた。またアンチセンスDNAを用いてOCLにおけるFAKの発現を抑制すると、その骨吸収は阻害された。以上の結果よりFAKは破骨細胞においてチロシンリン酸化されており、破骨細胞による骨吸収に重要な役割を果たしていることが明らかになった。 以上、本論文は破骨細胞においてc-Srcが強く発現しており、そのシグナルを伝えるセカンドメッセンジャーの候補であるFAKが、破骨細胞の骨吸収において重要な役割を果たしていることを明らかにした。本研究は破骨細胞の骨吸収メカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |