本研究は神経再生および筋肉再生における年齢差を調べるため、神経モデルではWistar系の2カ月齢と10カ月齢の雄ラットの腓骨神経を切断後、顕微鏡下に縫合してから術後4、8、16および24週目で神経伝導速度,誘発筋電図波形(長腓骨筋)の潜時、最大振幅を測定、また光顕的、電顕的に観察を行って、再生した有髄線維の数、直径、ミエリン鞘の厚さについて組織学的に検索したものである。筋肉モデルではWistar系の2カ月齢と15カ月齢の雄ラットの代表的な速筋(fast-twitch muscle)である右長趾伸筋(EDL)の支配神経と代表的な遅筋(sIow-twitch muscle)であるひらめ筋(SOL)の支配神経をそれぞれ切断後、顕微鏡下に縫合してから術後4、8、16および24週目で等尺性収縮力、誘発筋電図波形(長腓骨筋)の潜時、最大振幅を測定、また湿性重量、再生した筋線維の面積、筋表面の形態と結合組織量も比較したものであり、下記の結果を得ている。 1.再生早期では術後4,8週目でMNCVの回復率が2カ月齢ラットで50±6%、86±3%,10カ月齢ラットで23±5%、65±6%であった。いずれの時期においても2カ月齢ラットで高い回復率を示したが、術後4週目の早期においてその差は特に著明であった。誘発筋電図の潜時、最大振幅に関しても同様で4週、8週目とも2カ月齢ラットの方が良好な神経再生を示したが、この傾向は4週目において特に顕著であった。最大振幅と有髄線維の数、MNCVと有髄軸索の直径およびミエリン鞘の厚さとの間には、それぞれに密接な相関を認めた。 Myelin remnantsは2カ月齢のラットでは術後4週目まで、10カ月齢のラットでは術後8週目でも観察された。 2.再生後期ではMNCVの回復率が16週後で92±3%を示した。一方、10カ月齢のラットでは,16週後で76±2%,24週後で79±3%であった。両グループ間における統計学的な有意差は16週後においてのみ認められた。潜時、最大振幅については両グループ間に術後16週、術後24週ともに統計的な有意差が認められなかった。再生した有髄線維の数は、2カ月齢のラットでは16週後176±4%、24週後175±2%、一方、10カ月齢のラットでは,16週後127±12%、24週後124±3%であった。有髄線維の短径、ミエリン鞘の厚さに関しては、術後16週、24週には2カ月齢のラットと10カ月齢のラットの間に有意の差は認められなかった。 3.術後4、8週における筋肉湿性重量の回復率は2カ月齢ラットではSOLで94±1%、97±1%、15カ月齢ラットでは76±3%、82±2%であった。いっぽう、EDLでは2カ月齢ラットで80±4%、87±3%、10カ月齢ラットでは60±3%、69±4%であった。しかし、術後16、24週は2カ月齢のラットと10カ月齢のラットの間に有意の差は認められなかった。潜時については術後4週のみ有意差が認められた。最大振幅は有意差が認められなかった。15カ月齢ラットでのSOLは術後4週から8週まで、EDLは術後8週から16週まで著明な等尺性収縮力の回復を示した。再生した筋線維の面積も術後4、8週目までは著明な年齢差を見せたが、術後16、24週では有意差が認められなかった。しかし、epimysiumとperimysiumでの結合組織量は術後24週目でも15カ月齢ラットで多かった。 以上、本論文は末梢神経の再生および筋肉の回復における年齢の影響について、再生早期においては、再生速度に幼若ラットと成熟ラットの間で加齢による影響が見られることを明らかにした。しかし、後期過程においてはこれらの間における差があまり見られないことが判明した。そして、遅筋(SOL)のほうが速筋(EDL)より早く再支配されることも判明した。本研究はこれまで未知に等しかった、神経および筋肉再生の年齢による変化を長期間経時的に、多方面からとらえることにより、神経および筋肉再生の速度、程度を決定する一般的な因子を明らかにしたと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |