フォークト-小柳-原田病(VKH)は日本人に多い内因性ぶどう膜炎の一つで、両眼性のびまん性肉芽腫性ぶどう膜炎を主体とし、髄膜炎症状、耳なり、皮膚白斑などの眼外症状を呈する疾患である。本研究はVKHのHLAとの関連を、57例の日本人VKH患者(遷延型28例、非遷延型29例)を対象として、分子生物学的手法を用いて詳細に検討し、VKHの疾患感受性および臨床経過を規定する特定のHLA遺伝子を調べることを目的としたもので、下記の結果を得た。 1.血清学的タイピングでは、患者群は対照群に比較して、クラスIではHLA-B54、クラスIIではHLA-DR53、HLA-DR4およびHLA-DQ4が、それぞれ有意な増加がみられた。またHLA-DR52、HLA-DQ1、HLA-DQ3またHLA-DR13は、患者群は対照群に比較してそれぞれ有意な減少がみられた。 2.対立遺伝子の検討では、HLA-DQA1*0301が患者群100%、対照群67.2%、相対危険度56.5(Pc<1.0×10-5)、HLA-DQB1*0401が患者群77.1%、対照群24.6%、相対危険度10.4(Pc<1.0×10-10)で、患者群は対照群に比較してそれぞれ有意な増加がみられた。またHLA-DQA1*0301陽性者のみで検討すると、患者群ではHLA-DR4が陽性であるものが有意に多く、相対危険度9.4(Pc<1.0×10-5)であった。すなわち、HLA-DQA1*0301はVKHの疾患感受性に最も関連する因子でた。 3.臨床的には6カ月未満に炎症が消腿する非遷延型と、治療にも拘わらず6カ月以上炎症が持続する遷延型に分類されるが、その2群で検討すると、遷延型ではHLA-DRB1*0405が92.9%、HLA-DRB1*0410が7.1%にみられ、全例が両者のいずれかを持っていた。一方、非遷延型ではHLA-DRB1*0405が62.0%、HLA-DRB1*0410が6.9%にみられ、両者のいずれかを持つ者が65.5%であった。すなわち、遷延型は非遷延型に比べ、HLA-DRB1*0405またはHLA-DRB1*0410を有する者が有意に多かった(相対危険度30.7、Pc<0.001)。 以上、本論文は、VKHにおいて、HLA-DQA1*0301が疾患感受性に最も関連する因子であり、HLA-DRB1*0405またはHLA-DRB1*0410は疾患の重症度を決める因子であることを明らかにした。これまでVKH患者の対立遺伝子について詳細に検討した研究はなく、また、重症度についてはHLA-DRB1*0405またはHLA-DRB1*0410の陽性患者に対しては、より注意深く治療をする必要があることを示したものと考えられる。以上の点から、本研究は学位の授与に値するものと考えられる。 |