本研究は結膜上皮細胞の分化転換機構の解析に有用と考えられる生化学的および分子生物学的に、結膜上皮と角膜上皮細胞を区別できる、結膜上皮細胞に特異的なマーカーすなわち、単クローン抗体を作成することを試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.結膜上皮のみに存在する59kD結膜上皮ケラチンを抗原として、マウスに免疫し、単クローン抗体を樹立した。11C28と名づけたこの抗体は、蛍光免疫染色では結膜上皮と輪部上皮の基底細胞と強く反応し、角膜上皮にはごく薄く染まるのみであった。 2.11C28は他の組織の重層扁平上皮すなわち、舌体上皮、表皮と食道上皮の基底細胞との反応が見られた。重層扁平上皮の基底細胞に共通に存在するケラチンのエピトープを認識していると考えられた。 3.11C28と他の既存の単クローン抗体、すなわち6B10、AE1、AE3、AE5の染色性を比較したところ、これらのいずれとも明確な相違のあることが判明した。 4.以上のことから、11C28は、既知の抗体とは違う新しい抗体で、角結膜組織を免疫蛍光染色上で識別するのに役立つマーカーになりうると考えられた。 以上、本研究では、結膜上皮と角膜上皮細胞を免疫蛍光染色上で明確に区別できるマーカーを作成することができた。この抗体を用いる事、または、他の単クローン抗体とを組み合わせる事により、今後の結膜上皮細胞の分化転換の研究に際して、有用な情報が得られるものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |