本研究は乳児の摂食機能の発達について、個人差および正常なレンジに注目しながら、(1)摂食機能の発達と他の発達要因(粗大運動・微細運動や歯の萌出など)との関連、(2)摂食機能の発達における離乳食の影響の2点を明らかにするため、乳児保育所に在園する健常乳児19名(男児8名、女児11名)を対象として縦断観察調査を行い解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. 口唇,舌および下顎の各運動機能の開始月齢のレンジは1.5〜3.0ヵ月であり、著しい個人差が認められた。しかし、その発達順序は一定で、処理・嚥下時の口唇閉鎖機能が最初に確立され、約0.5ヵ月後に取り込み時の口唇閉鎖機能が習得された。また、舌運動は前後から上下、側方運動へ推移し、下顎運動は上下から咀嚼運動へ推移した。 2. 観察された各摂食機能の開始月齢をまとめると、処理時の口唇閉鎖、嚥下時の口唇閉鎖、舌の歯列内への配置、舌の上下運動、良好な下顎のコントロールの5機能がほぼ同時に獲得され、約0.5ヵ月遅れて取り込み時の口唇閉鎖が習得され、その後、舌の側方運動並びに下顎の咀嚼運動が可能となることが明らかとなった。 3. 離乳食が及ぼす摂食機能の発達への影響は、舌および下顎運動に顕著に認められた。半固形食と固形食の両方が一度の食事で与えられていた第3期および第4期には、乳児は半固形食に対して舌の前後・上下運動を示し下顎の上下運動を行ったが、舌の側方運動・下顎の咀嚼運動は示さなかった。一方、固形食に対しては、舌の側方運動および下顎の咀嚼運動により処理した。すなわち乳児は半固形食および固形食に対し最も効率よい方法を選択しており、"critical period"仮説を考慮すると、舌の側方運動および下顎の咀嚼運動の発達には固形食物の導入が重要であることが示唆された。 4. 先行研究において粗大運動・微細運動発達、歯の萌出が摂食機能の発達に影響を与えると指摘されてきたが、本研究において、それらの項目の各通過月齢と摂食機能の各開始月齢との関係にはほとんど有意な相関が見られなかった。粗大運動・微細運動のいずれも、舌の側方運動ならびに下顎の咀嚼運動の開始月齢と有意な相関がなく、乳中切歯の萌出時期も摂食機能の開始月齢と有意な相関が認められなかった。これらの知見から、粗大運動・微細運動の確立および歯の萌出が、乳児の咀嚼運動の開始のために必須のものではないことが示された。 以上、本論文は健常乳児の摂食状況の縦断観察調査から、離乳開始後〜12ヵ月における乳児の摂食機能の発達およびその発達に及ぼす離乳食の影響について明らかにした。本研究は、乳児の摂食機能の発達の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |