1.対象 対象は、東京都、秋田県、神奈川県、新潟県の5つの病院・施設の外来患者と入院・入所中の患者、都内のボランティア・グループに参加する健常老人である。
被検者となる痴呆患者の選択に際し、視聴覚障害、麻痺、言語的コミュニケーションがとれない等のために、検査を行うことが困難と思われる患者、卒中発作の直接的な結果として痴呆を来した患者、精神分裂病や大うつ病などの精神障害の既往のある患者は、対象から除外された。
患者の診断は、経験ある医師によって、アメリカ精神医学会の診断統計マニュアル第4版(DSM-IV)のアルツハイマー型痴呆(AD)または血管性痴呆(VD)の診断基準に基づいて行われた。その結果、17人の患者がAD(平均年齢75.9才,SD=6.1:女性11人、男性6人:平均教育年数9.3年,SD=3.2)、19人の患者がVDと診断された(平均年齢76.6才、SD=6.2:女性12人、男性7人:平均教育年数9.5年,SD=2.7)。CTやMRIなどの画像診断により、全てのVD患者に痴呆と関連すると思われる脳血管障害が確認された。今回の対象としたVD患者の中には、脳卒中の発作の後に引き続いて痴呆を来した患者は含まれていない。
患者の痴呆の重症度はClinical Dementia Rating(CDR)とMini Mental State Examination(MMSE)を用いて評価した。CDRは、患者の行動観察または患者の日常生活をよく知る人から得た情報を基に、患者の「記憶」、「見当識」、「判断力と問題解決能力」、「社会適応」、「家庭状況および興味・関心」、「介護状況(セルフケア)」の6領域について評価する行動観察評価スケールである。CDRに基づいて痴呆患者を軽度痴呆群(AD群11人、VD群12人)と中等度痴呆群(AD群6人、VD群7人)の2群に分類した。AD群とVD群のCDRに基づく痴呆の重症度に有意差はなかった。またAD群とVD群のMMSE得点にも有意差はなかった。軽度痴呆群のMMSE得点(M=20.3,SD=3.5)は、中等度痴呆群(M=14.6,SD=2.4)よりも有意に高かった。
統制群である健常老人の募集は、東京都内の2つのボランティア・グループを通じて行った。今回の被検者は、いずれも頭部外傷、脳血管障害、そして精神分裂病、気分障害、物質関連障害などの精神障害の既往がなく、CDRで「健康」と評価された23人の老人である(平均年齢73.2才,SD=5.2:女性15人、男性8人:10.7年,SD=2.3)。
これら3群の平均年齢、性比、平均教育年数に有意差はなかった。