本研究は、時間によって変化しうる曝露が因果効果を持つことを従来の方法で検証できるための条件を示し、さらに従来の方法が不適当な場合でも適用可能な曝露の因果効果の指標およびその推定方法の提案を目的としたものである。主たる成果は以下のようにように要約される。 1.「時点tまでに測定された曝露歴、共変量歴、発症歴をすべて与えた下では、時点tで曝露を受ける確率はそれ以降の仮想的な生存時間によらない」というno unmeasured confoundersの仮定が成立し、過去の発症歴が時間依存性交絡要因でない場合、周辺モデルの「曝露歴の効果がない」に対する従来の検定は因果帰無仮説「k回め(すべてのk)の生存時間に関して、任意の曝露歴に従った場合の生存時間と曝露を全く受けなかった場合の生存時間が等しい」の妥当な検定となる。 2.no unmeasured confoundersの仮定が成立していても、過去の発症歴が時間依存性交絡要因である場合には周辺モデルでは妥当な検定ができないが、条件付きモデルの「曝露歴の効果がない」に対する従来の検定は因果帰無仮説の妥当な検定となる。 3.過去の発症歴が時間依存性交絡要因であるような場合、周辺モデルを用いると曝露の因果効果の大きさを推定することはできない。しかしこの場合でも条件付きモデルのハザード比は因果効果を表すものの、そのハザード比が示す効果は過去の発症歴を与えた下での曝露の直接的な因果効果であり、過去の発症歴を介在した間接的な効果は表さない。その結果、全体としての因果効果に対しては過少評価になる。 4.過去の発症歴が時間依存性交絡要因であるかどうかにかかわらず用いることができる、全体としての因果効果を表す指標kを提案した。これはk回めの生存時間に対し、「(曝露を全く受けなかった場合の生存時間)=(実際に観察された生存時間のうち曝露を受けなかった時間)+(実際に観察された生存時間のうち曝露を受けた時間)/k」として定義される(ただしk>0)。つまり、kはk回めの生存時間に対し、「k=曝露を受け続けた場合の生存時間/曝露を全く受けなかった場合の生存時間」を意味する因果効果の指標となる。 5.本論文ではkの2つの推定法を提案した。一つは無作為化に基づく方法であり、もう一つはある時点での推定曝露確率に基づく方法である。 6.頻回再発型ネフローゼ症候群に対する免疫抑制剤の効果を調べる臨床試験データに、本研究で提案した上記の方法を適用し、その適用可能性を例示した。 以上、本研究は時間によって変化しうる曝露が因果効果を持つことが従来の方法で調べられるための条件を示し、さらに従来の方法が不適当な場合でも適用可能な曝露の因果効果の指標およびその推定方法を提案した。すなわち、因果効果を検証することが目的の研究で、従来見過ごされていた考慮すべき点を明確にし、モデルが依拠している仮定が成立しない場合には、より妥当な方法を適用すべきことを具体的に示したものであり、学位の授与に値すると判断した。 |