本研究は病院情報システムによる副作用検出の可能性を検討するとともに、副作用予防のため、薬剤の処方時にその添付文書指定の検査をしていない場合や、その検査が異常値の場合に警告を発する警告システムを開発し、その介入効果を評価したものである。具体的には皮膚角化症の薬剤チガソンの副作用である肝障害を例にあげて検討を行い、下記の結果を得ている。 1.本院の病院情報システムに蓄積されたデータを用い、本薬剤による副作用の疑いをレトロスペクティブに肝機能検査の異常値または肝疾患病名または肝庇護効果のある薬剤の投与から検出した。さらに本薬剤使用群と性・年齢でマッチングした対照群に対するオッズ比から、副作用の危険度の推定を容易に求め、病院情報システムが副作用の自発報告を補完する有用な手段となりえることを示した。 2.検出された副作用の疑いのある症例に対し、Naranjoのアルゴリズムを用いて薬剤との因果関係を評価し、上記の副作用検出法の感度と特異度を求めた。その結果、検査値からの副作用の検出は感度が最も良いことが判明した。本研究の警告システムでは先行研究で副作用頻度として高いといわれるGOT、GPTに限ったが、これでは感度が低下するため、副作用のモニタリングにはALPなども加えて感度を上げる必要性が考えられた。 3.本警告システムによる介入以前、添付文書に則って3ヶ月以内に肝機能検査を行いながら本薬剤を処方した割合が36%と少数であったのに対し、介入後2倍以上の74%にまで改善された。よって本警告システムは医師が必要な検査をしながら本薬剤を処方することに寄与した。また介入以前、本薬剤使用者54名中におけるGOTまたはGPTの重度の異常者は3名発生したが、介入後は本薬剤使用者31名中0名であった。従って本警告システムによる禁忌症の患者への処方回避効果を直接確認はできていないため、さらなる観察を要するが、本警告システムの支援により未然に禁忌症の患者への本薬剤の投与を回避されている可能性は十分考えられる。 4.著者は以前、過剰検査に対し保険限度に則った警告システムを実装した効果の評価を行い、その有効性を証明したが、本研究において改めてオーダエントリーシステムを用いた利用者と病院情報システムとのインターラクティブな情報交換により、医療支援を行い得ることを実証した。さらに本警告システムは処方および警告状況に関するログ収集まで全てコンピュータによる自動化に成功しており、実用的な医薬品使用のモニタリング法についても提示を行った。 以上、本論文は、病院情報システムが医療の質をあげることに寄与するというその有用性を実証し、新たな病院情報システムの活用に道を開き、さらに医薬品の安全性の研究においても重要な貢献をなしたと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |