学位論文要旨



No 112105
著者(漢字) 浅井,景粋
著者(英字)
著者(カナ) アサイ,ケイスイ
標題(和) 毛細管曲面の曲率発展方程式の内点における微分の爆発について
標題(洋) Interior Derivative Blow-up for the Curvature Evolution of Capillary Surfaces
報告番号 112105
報告番号 甲12105
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第40号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 落合,卓四郎
 東京大学 教授 松本,幸夫
 東京大学 教授 俣野,博
 東京大学 助教授 中島,啓
 東京大学 助教授 堤,誉志雄
内容要旨

 この論文において、我々は次の準線形発展方程式を考える.

 

 ただし、Duはuの微分、は正の定数、BRはn次元ユークリッド空間Rnの半径Rの円盤、u0はBR上の関数で原点に関して対称であるとする。

 最近、非線形発展方程式における解の微分の爆発の研究が大きな発展を遂げてきてきている。この分野においては、儀我、Kutev、Dlotko等の論文が挙げられる。一方、微分幾何の分野、例えば調和写像の熱方程式の研究において、Struwe等により解の爆発に関する研究が進められてきた。こうした研究の中で、我々は球面から球面への調和写像の熱方程式についてある初期関数のクラスでは、爆発は起こりえないという結果を得ている。さて、(1.1)の定常解は水滴の表面を表わしているが、古くから研究されてきたこの毛細管曲面の分野においても、近年、発展方程式の手法を使った結果が、石村、Ecker、Stone等によって得られている。上に挙げた儀我による結果は、ある条件を満たす初期関数に対して、ある準線形発展方程式の解の空間方向の微分が有限時間内に爆発することを示したものであるが、これは空間一次元に対してのものであった。我々はこの論文において、(1.1)-(1.3)に対しても同様の爆発が、やはり有限時間内に起こりうることを証明した。この証明の方針は、儀我による手法が毛細管曲面の発展方程式に拡張しうることを示すことである。

 まず、我々は初期関数に課す条件として儀我によって導入された、次の関数のクラスを定義する。

 定義「原点の回りでの急減少関数」区間I=[-R,R]上の非負なC1の関数u0(r)で、原点対称なものを考える。この様なu0(r)が、原点の回りで急減少であるとは、正定数の組(,m,M,N)が存在して、次の(i)から(iv)を満たすときをいう。

 

 ただし、、またt1は、mとMにより定まる正定数である。

 我々は、BR上のtと共に自己同形に変化するトーラスを比較関数として採用することにより、まず次の定理を証明する事が出来た。この定理は、解の最大存在時間が急減少な初期関数により制御されることを示すものである。

 定理1

 (1.1)-(1.3)を仮定し、更に初期関数u0は回転対称で、[-R,R]上の関数と見たときに、上述の急減少関数の定義を満たすとする。このとき、解の最大存在時間T0は、

 

 を満たす。ただし、とLは、上で定義したものとする。

 また次の定理は、実際に内点で解の微分が爆発することを証明したものである。この際、補題として、に条件をつけることなく|u(r,t)|を評価することができた。

 定理2

 定理1と同じ仮定をおく。更に、m>4/Rを仮定する。このとき、ある初期関数u0が存在して、

 

 が、解の最大存在時間T0について成立する。

審査要旨

 論文の表題は毛細管曲面の曲率発展方程式の内点における微分の爆発についてである。本論文において提出者は、下記の準線形発展方程式を研究した。

 112105f06.gif

 ただし、Duはu の微分、は正の定数、BRはn次元ユークリッド空間Rnの半径Rの円盤、u0はBR上の関数で原点に関して対称であるとする。

 最近、非線形発展方程式における解の微分の爆発の研究が大きな発展を遂げてきてきている。上記の方程式の定常解が水滴の表面を表していることに気を付ければ、初期関数u0によって微分の爆発が起こる場合と起こらない場合とがあることが推察される。u0に比べてRが十分大きければ上記方程式は有限時間内に定常解になることが証明されて物理的に観察されることに一致する。一方で提出論文ではある意味で逆の場合には必ず微分の爆発が起こることを証明した。

 結果を述べるためにまず下記の如く関数のあるクラスを定義する:

 定義「原点の回りでの急減少関数」 区間I=[-R,R]上の非負なC1の関数u0(r)で、原点対称なものを考える。この様なu0(r)が、原点の回りで急減少であるとは、正定数の組(a,m,M,N)が存在して、次の(i)から(iv)を満たすときをいう。

 112105f07.gif

 ただし、112105f08.gif、またt1は、mとMにより定まる正定数である。

 提出者は、BR上のtと共に自己同形に変化するトーラスを比較関数として採用することにより、まず次の定理を証明する事が出来た。この定理は、解の最大存在時間が急減少な初期関数により制御されることを示すものである。

 定理1

 (1.1)-(1.3)を仮定し、更に初期関数u0は回転対称で、[-R,R]上の関数と見たときに、上述の急減少関数の定義を満たすとする。このとき、解の最大存在時間T0は、

 112105f09.gif

 を満たす。ただし、とLは、上で定義したものとする。

 また次の定理は、実際に内点で解の微分が爆発することを証明したものである。この際、補題として、に条件をつけることなく|u(r,t)|を評価した。

 定理2

 定理1と同じ仮定をおく。更に、m>4/Rを仮定する。このとき、ある初期関数u0が存在して、

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 が、解の最大存在時間T0について成立する。

 上記の方程式が初期関数によって実際に爆発が起こることを巧みにしめしており比較関数の発見に独創的なアイデアがある。

 以上によって、論文提出者 浅井 景粋は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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