学位論文要旨



No 112121
著者(漢字) 程,遠
著者(英字)
著者(カナ) チェン,ユェン
標題(和) SCALING函数のW空間の次元及びJOINT SPECTRAL RADIUS
標題(洋) DIMENSIONS OF THE W-SPACES ASSOCIATED TO SCALING FUNCTIONS AND JOINT SPECTRAL RADIUS
報告番号 112121
報告番号 甲12121
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第56号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大島,利雄
 東京大学 教授 小松,彦三郎
 東京大学 教授 金子,晃
 東京大学 教授 片岡,清臣
 東京大学 教授 山田,道夫
内容要旨

 この論文で、Wavelet理論におけるD.ColellaとC.Heilの予想を証明した。

 

 はdilation方程式と呼ばれる。ここで、係数は、条件

 

 を満たすと仮定する。この方程式のnonzero解はscaling functionと呼ばれる。もし、係数(cO,…,cN)がCohenの条件を満たせば、任意の一つのscaling函数から、一つのwaveletを作れる。このwaveletの連続性はscaling函数の連続性より決まる。最近のwavelet研究では、scaling函数の連続性についての研究は多い。1992年、I.Daubechiesは初めて、dilation方程式の研究で以下のようなdyadicの方法を採用した。

 まず、方程式(1)をvector函数より書き直す。係数(cO,…,cN)に対して、もし連続で、compactな台を持つ解があれば、supp(f)⊂[0,N]だから、vector函数

 

 は函数f(x)の全部の情報を含んでいる。

 二つのN×Nの行列を(T0)i,j=C2i-j-1,(T1)i,j=C2i-jと定義する。即ち、

 

 とするx∈[0,1]に対し

 

 と定義すれば、dilation方程式は次の様なvector方程式になる

 

 f(x)が連続とすれば、v(x)も連続で、逆もいえる。

 この研究で、最初の問題は係数について、どんな条件を付けると,対応する函数f(x)が連続になるかという事である:この問題は1994年D.ColollaとC.Heilより完全に解決された。彼らの結論は曲面(2)の下で、函数f(x)が連続函数になる係数(cO,…,cN)の集合は、次の様に与えられる

 

 ここで

 

 (2)式により、行列T0、T1の中で各列の成分を足すと全部1になるので、一般的に

 

 が成り立つ。1994年D.ColellaとC.Heilは次の予想をした:

 予想{(CO,…,CN)∈CW;W≠V}=0 in 曲面(2)。

 この論文で、次の事を証明した。

 定理5.1(主定理)予想は正しい。

 この定理の証明のため、まずcompact台のdistrbutionの整数移動に対する線形独立の概念を紹介する。f∈’(R)とする。

 

 定義もしN(f)={0}ならば、fは整数移動について線形独立という。

 

 と記すと、Ronは1989年、次の事を証明した。

 

 更に、

 

 言い換えると、もし、fが線形従属であれば、∃∈C

 

 この論文はまず次の命題を示す:

 命題5.3f(x)は線形独立である⇒W=V。

 命題5.3により

 

 故り、主定理は次の命題に帰着した。

 命題5.4

 

 命題5.4の証明が本質的なので、以下命題5.4の証明の方針を述べる。

 まず(11)の集合を、Sと記し、二つの集合

 

 と

 

 に分けて、(S1)=0と(S2)=0の証明ができれば、証明が終わる。

 (S1)=0の証明は、S1を二つの集合の直積として、Fubiniの定理を使うと証明できる。予想の証明のpointは(S2)=0の証明である。

 (S2)=0の証明において、まずfは線形従属なので、ある∈Cに対し(9)が成り立つ。一方、ここでのfがcompact台のdistrbutionというだけでなく、scaling函数でもあるので、次の式も満たす

 

 但し、。論文は(9)と(12)の両方を出発点として、詳しい分析により、K(f)の構造は次のようである事が分かる:

 K(f)はいくつかの次のような輪より得られる集合である:

 

 一方、この論文は次のことを証明する、

 

 但し、。故に

 

 と書ける。

 (z)の係数(cO,…,cN)より得た集合の自由度は()できまるので、このような(z)の係数より得た集合は曲面(2)中の測度0の集合である。

 一方、Nを固定すると、(13)の様な数列は有限個しかないので、(S2)=0。これにより予想の証明は完全にできる。

 そのほか、論文はm()を詳しく分析する。もし

 

 と書けると仮定しょう。但し、。よく知られているようにLが大きければ大きいほどf(x)は滑らかとなる。論文は更にm()の整数部分Imと小数部分Dmを次のように定義する:

 

 この定義の下で次のことが証明された:に対応する函数をf(x)とする。ならば

 

 ここでCn(R)はn階連続微分可能の函数空間を表す。更に、参考論文で証明したように函数

 max(cO,…,cN)=sup{;f(x)は指数でHolder連続である}

 の不連続点の集合は曲面(2)の中の測度0の集合である。

審査要旨

 wavelet理論は、wavelet解析として応用され、実際の計算において従来のFourier解析に代わって有効に用いられることが多くなってきている。一方、wavelet解析の理論的側面は、未だ十分に解明されていない部分が多く、これからの課題となっている。

 wavelet解析で用いられるコンパクトな台を持つwaveletは、それを用いた関数の展開を行うので、滑らかさを決定することが重要である。このwaveletは、dilation方程式

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 の解として定まるscaling関数f(x)を用いて表され、このf(x)の滑らかさが問題となる。特にwaveletの連続性はscaling関数の連続性に帰着される。

 Daubechiesは1988年に任意の

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 に対し、dilation方程式の解f(x)がコンパクト台のdistributionの空間’(R)の中で定数倍を除いて一意に存在することを示した。その後、2進展開を用いてDaubechies-LagariasおよびColella-Heilなどによりscaling関数f(x)の滑らかさが研究されたが、1994年にCollella-Heilは、以下のような結論を得た。

 dilation方程式は(x)=t(f(x),f(x+1),…,f(x+N-1))という区間[0,1]上のベクトル関数に対する方程式

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 に変換される。ただし、T0,T1は、C0,…,CNで決まる定数行列である。上の方程式から(x)の2進有理数上での値が求まるので、それを用いて[0,1]内の総ての2進有理数xに対し、(x)-(0)で張られるCNのベクトル空間をWとおく。このとき(c0,…,cN)が

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 に属することが、f(x)が連続となるための必要十分条件となる。ここで、は2つの線型変換のjoint spectral radiusを表す。

 集合WがV={u∈CN;u1+…+uN=0}に含まれることは容易に分かるが、Collella-Heilは上記結論を得た論文において、集合{(c0,…,cN)∈CW;W≠V}は、Xの中で測度0の集合であろうという予想を述べた。

 本論文提出者程遠の、提出論文における主要結果は、この予想を肯定的に解決したことである。これは、sacling関数をそのFourier変換f(x)を用いて研究するMeyerなどの手法と、上記の2進展開を用いる手法とをうまく組み合わせることによって成功した。また、その証明の過程において、scaling関数の指数Holder連続性に関するjoint spectral radiusを使った特徴付けも得ている。概略は以下のとおりである。

 「scaling関数f(x)の整数平行移動の全体が一次独立であるならば、W=Vが成立する」という命題をまず示す。次に、’(R)の元f(x)の整数平行移動の全体が一次従属であれば、

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 を満たす複素数が存在するというRonの結果を用いる。すなわち、scaling関数f(x)で、上のが存在するような(c0,…,cN)の条件を詳しくしらへて、それが十分小さいことを示す、というのが証明のアイデアである。

 具体的には、dilation方程式を

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 の形に直し、112121f37.gifを満たすz0が存在して、m()=m(+)=0を満たすが存在しないならば、112121f38.gifとなる整数nが存在する、ということを証明しで、対応する(cO,…,cN)の集合は、測度が0となるという命題に帰着させた。

 以上のようにwaveletの連続性における基本的問題の一つを、いくつかの手法を組み合わせることにより解決し、さらにsacling関数の滑らかさの特徴づけに関する興味深い結果を得ている。よって本論文提出者程遠は、博士(数理科学)の学位をうけるにふさわしい十分な資格があると認める。

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