学位論文要旨



No 112122
著者(漢字) 陳,卿
著者(英字)
著者(カナ) チェン,チン
標題(和) 極小部分多様体の体積増大度について
標題(洋) ON THE VOLUME GROWTH OF MINIMAL SUBMANIFOLDS
報告番号 112122
報告番号 甲12122
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第57号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 落合,卓四郎
 東京大学 教授 松本,幸夫
 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 助教授 矢野,公一
 東京大学 助教授 中島,啓
内容要旨

 領域D⊂Rn上のC2関数fに対し、{(x,f(x))∈Rn+1|x∈D}が自然にRn+1上の曲面と定義され、fのグラフと呼ばれる。fが次の方程式

 

 の解であるとき、fのグラフを極小グラフと呼ぶ。 1915年、Bernsteinは次のことを証明した(Bernsteinの定理): f:R2→Rが(*)の解であるとき、fは線形関数である、あるいはR3上の完備な極小グラフは平面しかない。60年代、Almgren,Simons等は次々にf:Rn→R(n7)について同様のことを証明した。Bombieri,deGiogeとGiustiはn8の時自明でない解の存在を証明した。

 Bernsteinの定理の拡張は二つある。その1、Rn上の安定な極小超曲面の曲率の評価。(極小グラフはvolume minimizingで従って安定である)。その2、極小部分多様体の一意性の研究。例えば、Mはユークリッド空間の完備なn次元極小部分多様体のとき、加須栄は「Mが"無限遠で平坦"かつMが"一つのエンド"をもつなら、Mは平坦になる」を証明した。一方、Andersonは「Mが一つのエンドをもち、かつMがtotal scale curvature有限なら、Mはn次元アフィン平面になる」を証明した。

 われわれは、極小部分多様体の体積関数を中心にして研究する。まずユークリッド空間Rm上の完備な極小部分多様体Mの体積関数Vol(M∩B(t))とMの無限遠での位相との関係を調べる。こごでB(t)はRm上の半径tの測地球で、無限遠での位相とはMのエンドの数(k(M)と書く)である。AはMの第二基本式、rはRmの距離関数とする。Mが無限遠で平坦とは

 

 ということである。

 主要結果:

 定理一:MがRn上の完備の極小部分多様体とする。Mは"無限遠で平坦"或いは"∫M|A|n<∞"とする。n3或いはn=2かつMの任意のエンドが埋め込みとき

 

 こごでnはRnの単位球の体積である。

 定理一は加須栄とAndersonの一意性定理の一般化である。更に、次の定理を証明した。

 定理二:MかRn上の完備の極小部分多様体とする。

 

 のとき、

 

 が成り立つ。

 n=2の場合、次のことがわかった。

 定理三:MがRn上の完備の極小曲面とする。このときMが全曲率有限の必要十分な条件は:ある定数cが存在して、

 

 をみたし、かつMのgenusが有限である。

 最後に、われわれは一般なリーマン多様体について、その極小部分多様体の体積増大度を評価する。仮定:

 N:完備なリーマン多様体で、断面曲率は上からcで押さえられる。

 M:Nのはめ込まれたn次元完備極小部分多様体。

 r:Nの一点pに関するの距離関数。

 BN(t):Nの一点pに関する測地球。

 ip:Nのp点での単射半径。

 Fc(t):断面曲率cのn次元空間形の半径tの測地球の体積。

 M(t):Mの半径tの測地球。

 定理四:c0のとき、関数

 

 は(0,ip)の間で単調非減少である。

 定理五:c>0のとき、関数

 

 は(0,min(ip,))の間で単調非減少である。こごで、は、modified体積関数と呼ばれ、Mの領域Dに対して、次に定義する。

 

審査要旨

 論文題目は、極小部分多様体の体積増大度についてである。提出者は極小部分多様体の体積関数を中心にして研究することにより、ユークリッド空間内の極小部分多様体の体積の増大度がその無限遠方の位相を定めることを示した。すなわちユークリッド空間Rm上の完備な極小部分多様体Mの体積関数Vol(M∩B(t))とMの無限遠での位相との関係を調べる。こごでB(t)はRm上の半径tの測地球で、無限遠での位相とはMのエンドの数(k(M)と書く)である。AはMの第二基本式、rはRmの距離関数とする。Mが無限遠で平坦とは

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 ということである。重要結果として下記が証明された。

 定理:MがRm上の完備のn次元極小部分多様体とする。Mは"無限遠で平坦"或いは"∫M|A|n<∞"とする。n3或いはn=2かつMの任意のエンドが埋め込みとき

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 こごでnはRnの単位球の体積である。

 更に、次の定理を証明した。

 定理:MかRm上の完備のn次元極小部分多様体とする。

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 のとき、

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 が成り立つ。

 n=2の場合、下記のことが証明されている。定理:MがRn上の完備の極小曲面とする。このときMが全曲率有限の必要十分な条件は:ある定数cが存在して、

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 をみたし、かつMのgenusが有限である。

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 一般なリーマン多様体について、その極小部分多様体の体積増大度を評価した。仮定:

 N:完備なリーマン多様体で、断面曲率は上からcで押さえられる。

 M:Nのはめ込まれたn次元完備極小部分多様体。

 r:Nの一点pに関するの距離関数。

 BN(t):Nの一点pに関する測地球。

 ip:Nのp点での単射半径。

 Fc(t):断面曲率cのn次元空間形の半径tの測地球の体積。

 M(t):Mの半径tの測地球。

 このとき下記を証明した。

 定理:c0のとき、関数

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 は(0,ip)の間で単調非減少である。

 定理:c>0のとき、関数

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 は(0,min(ip,112122f18.gif))の間で単調非減少である。こごで、は、modified体積関数と呼ばれ、Mの領域Dに対して、次に定義する。

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 歴史のある極小部分多様体の幾何学に新たな知見をもたらすものである。とくに幾何学的測度論の興味ある応用を発見したことは大きく評価できる。よって、論文提出者陳 卿は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める。

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