スターリング機関は、外燃機関の特徴を生かし、熱源の多様性や低公害性の面から近年再び注目を浴びている。その理論熱効率はカルノーサイクルの熱効率に等しく、低温度差熱源においても十分高い熱効率が期待できる機関である。従って、スターリング機関は太陽エネルギのようなてい密度の熱源や廃熱などの質の低い熱源の動力変換にも適している。農業の現場には、未利用のバイオマスや廃材が多く存在しており、これらを有効利用するという観点からも、農業用スターリング機関の開発研究は重要な課題である。スターリング機関の開発研究においては、作動ガスの漏れ並びに摺動抵抗の低減など問題がいまだに解決しておらず、実用化に向けて大きな障害になっている。本研究では、ロッドシール並びにパワーピストン部での作動ガスの漏れを抑えながら摺動摩擦抵抗を低減するため、折り返し式ベローズ(以下ベロフラムと呼ぶ)を利用したスターリング機関を考案し、機関特性予測のためのシミュレーションを行うとともに、構造が簡単で保守管理が容易な機関を試作し、運転試験と実施して機関特性を明らかにした。論文は5章からなっている。 第1章ではバイオマスを燃料とするスターリング機関の開発という本研究の目的と背景について述べ、既往の研究をレビューした。 第2章ではスターリング機関の設計および試作を行うためのシミュレーションを行った。シュミットモデルを修正し、機関性能に大きく影響する作動流体の漏れ、流動損失などを考慮した機関性能を予測するための圧力数式モデル、流動抵抗による圧力損失数式モデルおよび出力トルク数式モデルを作成した。 また、これらの数式モデルから機関の作動ガス温度比、作動ガス圧力、作動ガス漏れ係数、クランク位相遅れ角度、圧力損失係数、死容積比、行程容積比、ロッドシール行程容積比などが機関軸仕事パラメータおよび機関出力トルクパラメータに与える影響を計算し、その変化特性を検討した結果は以下のとおりである。 1)再生器流路面積の増大につれて、作動ガス流速が大きくなり、逆に、再生器流路面積が小さくなり過ぎると、作動ガスの流動抵抗が増え機関の出力が低減することがわかった。 2)作動ガスの漏れ係数の増大に伴い、機関軸仕事パラメータが低下することがわかった。 3)ディスプレーサピストンロッドシールの行程容積は機関の死容積になるので、死空間による機関軸仕事パラメータへの影響と同様に、ロッドシールの行程容積が大きくなるにつれて、機関軸仕事パラメータが低下する。従ってスターリング機関の機関性能の向上のためにはロッドシール行程容積をできるだけ少なくすることが必要である。 4)作動ガス圧力損失係数の増大に従い、機関出力トルクパラメータの変動幅が小さくなる。これはスターリング機関の流路の直管部、曲管部、急拡大部、急縮小部及び再生器内部流路における圧力の損失によるものである。したがって、スターリング機関の設計の指針として、機関内のガス流路の直管部、曲管部、急拡大部、急縮小部をできる限り少なくすることが必要である。 5)以上のシミュレーションの結果により、実験機関の設計に関する指針を得た。 第3章では試作機関の出力特性および考察について検討を行うための実験機関の設計と試作について述べた。機関の主要な部分である熱再生器をディスプレーサ内に組み込んで一体としたことにより、機関の構造を簡単にし、死空間を減らすことができた。また、ディスプレーサピストンにテフロン樹脂ルーロンJ素材で作ったシールリングを用い、無潤滑で運転が行えるようにした。クランク機構の円盤には10度ごとにピンの差し替え孔を設けて、クランク位相を簡単に変化させることができるようにした。さらに、優れた性能を持つベロフラムシリンダをスターリング機関のディスプレーサロッドシールおよびパワーピストンに利用することにより作動ガスのシール性を向上するとともに摺動摩擦力の低減を図った。 実験方法については、実験機関の出力特性に影響する作動ガス温度、充填圧力、位相遅れ角度などのパラメータを組み合わせることにより、機関の自立運転実験、負荷運転実験および機関の動力損失に関する諸データを測定し、機関の出力特性を調べた。 第4章では全勝の実験結果に基づき機関の出力特性を評価した。試作スターリング機関の出力特性および考察をまとめると以下のとおりである。 1)自立運転実験において、作動ガス温度および充填圧力が高くなるに従い、機関の回転速度および図示仕事が大きくなることがわかった。また、ディスプレーサピストンに対しパワーピストンのクランク位相遅れ角度が110°の時、図示仕事が大きいことがわかった。 2)負荷運転実験において、作動ガス温度が高くなるに従い、機関の軸仕事および図示仕事が大きくなることがわかった。また、ディスプレーサピストンに対しパワーピストンのクランク位相遅れ角度が110°の時、軸仕事および図示仕事が最大になることがわかった。 3)損失動力測定の実験において、クランク機構の機械損失がその他の損失より相対的に大きかった。これは工作精度などの影響もあるものと考えられる。また、連接管の流動損失も比較的大きいので、ディスプレーサピストンとパワーピストンの間の距離が短くすることが必要である。 4)機関出力特性の評価については、ベロフラムシリンダを用いたスターリング機関とステンレスベローズスターリング機関との性能比較を行った結果、ベロフラムシリンダを用いたスターリング機関が、機関回転数は低いが、軸出力パラメータは高いことがわかった。 第5章では結論として本研究で得られた成果と残された問題点をまとめた。様々な特長を持つスターリング機関に関して、性能のシミュレーション、機関の試作、改良および運転実験を行って機関の特性を調べた。主な研究成果は以下のとおりである。 1)作動ガスの漏れ並びに摺動摩擦抵抗の低減について 本研究では、折り返し式ベローズシリンダを利用したスターリング機関を考案した。ロッドシール並びにパワーピストン部に、折り返し式ベローズシリンダを用いることで、作動ガスの漏れを抑えながら摺動摩擦抵抗を低減することができた。 2)シミュレーション数式モデルについて スターリング機関の設計および試作を行うため、シュミットモデルを修正し、機関性能に大きく影響する作動流体圧力、流動損失などを考慮した機関性能予測のための圧力数式モデル、流動抵抗による圧力損失数式モデルおよび出力トルク数式モデルを作成した。また、これらの数式モデルから機関の作動ガス温度比、作動ガス圧力、作動ガス漏れ係数、クランク位相遅れ角度、圧力損失係数、死容積比、行程容積比、ロッドシール行程容積比などの変化による、機関軸仕事パラメータおよび機関出力トルクパラメータへの影響を検討した。 3)機関の性能について 自立運転実験においては、作動ガス温度が高くなるに従い、機関の回転速度が大きくなり、400℃のとき、最高回転数は約110(rpm)となった。さらに高い回転速度を得るためには、加熱器は伝熱性のよい耐高熱性の材料を利用するとともに熱交換の効率を上げるような構造的な配慮を行い、膨張空間の温度をより高めることが必要である。充填圧力を大きくするにつれ、機関の図示仕事も大きくなることがわかった。ディスプレーサピストンに対するパワーピストンのクランク位相遅れ角度を70°、90°および110°に変化させたとき、位相遅れ角度110°の時が図示仕事が最大になった。 負荷運転実験において、作動ガス温度が高くなるに従い、機関の軸仕事および図示仕事がともに大きくなることがわかった。また、ディスプレーサピストンに対するパワーピストンのクランク位相遅れ角度が110°の時、軸仕事および図示仕事が最大になることがわかった。 機関出力特性の評価については、折り返し式ベローズシリンダを用いたスターリング機関と従来のベローズスターリング機関との性能を比較した結果、折り返し式ベローズシリンダを用いたスターリング機関が、機関回転数は低いが、軸出力パラメータが高いことがわかった。 |