学位論文要旨



No 112139
著者(漢字) 岩永,則城
著者(英字)
著者(カナ) イワナガ,ノリキ
標題(和) 非座標基底を用いての重力方程式系の構成
標題(洋)
報告番号 112139
報告番号 甲12139
学位授与日 1996.05.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3713号
研究科 工学系研究科
専攻 航空宇宙工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 阿部,寛治
 東京大学 教授 久保田,弘敏
 東京大学 教授 森下,悦生
 東京大学 助教授 速水,謙
 東京大学 助教授 三尾,典克
 東京大学 教授 江里口,良治
内容要旨

 重力場は次の重力方程式系によって記述される。1つは源方程式としてのアインシュタイン方程式

 

 であり、もう1つは補助方程式としてのビアンキ恒等式

 

 である。ビアンキ恒等式はゲージ理論的な場の方程式の導出法にしたがって導かれるので{}なるゲージ場の強さである曲率テンソル

 

 のふるまいを規定する場の方程式とみなせる。アインシュタイン方程式は場の強さの1次である作用積分

 

 に変分原理を適用することで求まる。ゲージ理論的に導かれる源方程式は場の強さについて2次のラグランジアン密度を用いた作用積分から求まるので、アインシュタイン方程式はゲージ理論的な場の方程式とはいえない。この難点を解決する方法としてこれまでは、

 

 を加えた修正ラグランジアン密度を用いた作用積分から導かれた場の方程式が提案されてきた。

 我々は別のゲージ場である電磁場の方程式系

 

 とのアナロジーから、適当な変数を導入して(1)-(3)を(6)-(7)の表記に近づけることが問題解決の糸口になると予想した。このことは非座標基底を用いた解析とそれにともなう非ホロノミー対象の導入によって可能となった。具体的にはまずビアンキ恒等式(2)(3)の生みの親であるヤコビ恒等式を非座標基底で解析することにより

 

 なる方程式を得た。これは(7)に対応している。次に非座標基底上の変分原理を用いることにより

 

 なる3個の方程式を得た。(11)と(12)は更に

 

 なる方程式に帰着できることが示せる。これは(6)に類似している。

 重力場の性質は通常場の方程式を解き、その解を調べることでわかる。しかしながら(9)は解とは無関係に、重力場には固有の現象が存在することを示している。それは

 1、重力場にはファラデー的な誘導現象がある

 2、重力’磁気’単極は存在しない

 3、重力場には拡張されたアンペール的な誘導現象がある

 などである。ファラデーの誘導現象の知識が発電機などの工学的応用を呼んで技術に革新がもたらされたように、重力の誘導現象も工学的に応用される可能性をもつ。

審査要旨

 工学修士岩永則城提出の論文は"非座標基底を用いての重力方程式系の構成"と題して、本文4章と付録からなっている。本論文は、非座標基底を用いることにより重力方程式系がゲージ理論に準じて記述できることを示し、方程式自身の持つ物理的意味を明快にして、実際に応用しやすくしたものである。重力方程式系(補助方程式及び源方程式)に関する従来の定式化は、次の理由で満足のいくものではなかった。例えば一般相対論における方程式系のうち、ビアンキ恒等式はゲージ場の補助方程式を導出する手続きに従って導かれるが、アインシュタイン方程式はゲージ場の源方程式を導出する手続きからは導くことができない。よって、ゲージ理論的立場にたつとすれば、一般相対論的な重力方程式系は、構成上の統一性に欠けるものといえる。更にこの方程式系は構成要素である方程式自身の持つ物理的意味が、従来の場の概念で説明されないものでもあった。これに対し、補助方程式としてビアンキ恒等式を採用しさらに源方程式をゲージ理論的に導く定式化が提案されているが、導出される基礎方程式が一般相対論のものと異なり、その実験的な妥当性からその正当性が明確ではない。このようにゲージ理論的妥当性と物理的妥当性が両立しなかった従来の定式化を、非座標基底の導入という新しい手法を用いることにより、2つの妥当性が両立すると同時に、使いやすくなるように定式化し直したのが本論文である。

 第1章は導入であり、まず重力方程式系に関する従来の定式化の問題点を列挙している。次に重力場の持つ不変性と源方程式の物理的妥当性を考慮して、非座標基底を用い、曲率テンソルより微分階数が1階だけ低い量を場の強さとみなす立場に立って、ゲージ理論に準じた定式化が望ましいことを示している。更に従来の方程式系を同じゲージ場である電磁場の方程式系と比較検討することにより、電磁方程式系に類似した形式の重力方程式系が構成できることを示唆している。

 第2章では非座標基底を用いて補助方程式の導出源であるヤコビ恒等式を調べている。その結果、使いやすい補助方程式を得て、その形式がマクスウェル磁気方程式に類似することを示し、ビアンキ恒等式の代わりとなれることも示している。この方程式の3次元ベクトル形式と粒子の運動方程式が電磁方程式系のそれと類似していることから、電磁気学分野で蓄積された多くの工学的知見が重力場でも転用できることを示唆している。更にラグランジアン密度及び源方程式などに対するゲージ理論的な定式化において、この方程式が重要な役割を演じることを指摘している。

 第3章において、重力方程式系に関して冒頭に述べた問題は解決される。従来は曲率テンソルを重力場の強さとする立場でラグランジアン密度と源方程式の定式化がなされていた。しかしながら、2章で導入された非ホロノミー対象によって補助方程式の形式上の意味付けが明確にされたことからすると、非ホロノミー対象を重力場の強さとみなす立場が有り得ることになる。この量は1章で述べたような場の強さとして望ましい性格を有するので、これを重力場の強さとみなす立場から、ゲージ理論の手続きと重力場の(一般座標変換及び局所ローレンツ変換に対する)不変性を満足するラグランジアン密度と源方程式を構成している。さらに、これらの中に現われているパラメーターを不変変分論によって生じた恒等式群を用いて決定することにより、源方程式がアインシュタイン方程式に一致することを示した。ちなみに不変変分論によって生じた恒等式群をパラメーターの決定に役立てる議論は従来ほとんど行われていない。得られた方程式系はゲージ理論に準じた構成を持つうえに、物理的妥当性を持つことを結論している。更に電磁方程式系との形式的類似性から、方程式系を構成する方程式自身の物理的内容が明快になり、当方程式系を物理現象に応用する道を開いた。

 第4章は第1章から第3章までに得られた結果の総括である。

 以上を要約すると、本論文では、ゲージ理論的妥当性と物理的妥当性を同時に満足させることができなかった従来の定式化の問題に解決案を示し、新たな変数を用いて方程式を再構成することにより、その一部が電磁場と類似した方程式系をなすことを見いだすことで、方程式の物理的な内容も明快にしたことになる。前半部分の成果は一般相対論の新しい立場からの再構成と捉えることができ、従来から存在する拡張理論にも再考を促す点で意義がある。後半部分の成果は、重力場に固有な現象や電磁場と重力場との相互作用を容易に理解させる手がかりとなり、重力場理論を工学的に応用する際の適切な理論形式を与えているものといえる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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