学位論文要旨



No 112141
著者(漢字) 陳,永璋
著者(英字)
著者(カナ) チン,エイショウ
標題(和) 金属・セラミックス拡散接合の材料組織化学的研究
標題(洋) MICROSTRUCTURE-CHEMISTRY STUDY OF THE BONDING OF CERAMICS AND METALS
報告番号 112141
報告番号 甲12141
学位授与日 1996.05.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3715号
研究科 工学系研究科
専攻 材料学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石田,洋一
 東京大学 教授 伊藤,邦夫
 東京大学 教授 林,宏爾
 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 助教授 森,実
 東京大学 講師 宮澤,薫一
内容要旨

 近年の科学技術革新の特徴は高温、高圧、高真空の利用に基づく各種製造工程の高度化にある。このような極限条件の工程には、高い硬度と耐高温酸化性や高温強度、多くの侵食性媒体内の耐食性などの重要な性質を持つ構造用材料の使用が必要になる。このため、鉄およぴニッケル基耐熱合金とセラミックス(窒化物、酸化物、けい化物、ほう化物、など)の接合体がますます広く利用されると考えられる。

 超合金はFCC構造をとっており、BCC構造にくらべて、抗クリープ性がよい。超合全の抗クリープ性は金属間化合物(Ni3Al、Ni3Ti)やセラミック(Y203)の析出または分散により向上する。一方、大量のクロムにより耐食性があがる。FCC構造が、熱膨張率が高いため,一般的に、熱の疲労耐久性がわるく、熱エンジンのような製品では非常に高い精度が要求されるという欠点がある。

 窒化ケイ素(Si3N4)のような構造用セラミックスは、強い共有結合に基づき、表面に保護性酸化物膜の形成により、非常に高い温度でも、その良い機械的性質を保持できる。窒化ケイ素が共有結合構造をとるので、熱膨張率が小さく、熱エンジンのような急速な温度変化をともなう条件下での応用に適している。Si3N4は他のセラミックスと比べ、高い強度、高い靭性をもち、低い熱膨張率、高い熱伝導度の為に、他の構造用セラミックスと比べて、熱の衝撃に強い。低い熱膨張率が、熱のサイクリングにさらされた構成部品の間のクリアランスの縮小をも許すことができ、それによって、熱エンジンの燃料効率を増やすことが可能である。そのためには信頼性の高い接合枝術を開発することは、不可欠である。

 高温度で使われる構造物の中のセラミックスと金属との接合は、次の2つの主な問題を解決しなければならない、すなわち接合中あるいは使用中の高い残留応力、そして、反応層の反応過程である。大抵反応層は、接合された材料と比較して劣った機械的性質を持っており、接合構造物の耐久性を減少させる。特に注意しなければならないことはこの反応が、高い温度で使用中に進行し続けないことである。

 金属と構造用セラミックス拡散接合が研究された。これらの2種類の材料の間の界面の反応生成物の微細構造に注目が置かれた。X線回折、走査電子顕微鏡、高分解能電子顕微鏡、そして分析的電子顕微鏡で分析した。

 研究に使った常圧焼結材Si3N4セラミックは8%のY203、Al203-などの焼結助剤を用いて焼結された。金属としては産業用Ni基超合金IN-738と純Ni(99.3%)を用いた。

 Ni-基超合金(IN-738)とSi3N4セラミックスとの拡散接合は真空中でのホットプレスによって行なわれた。接合圧力は50MPa、温度は850℃、保持時間は2時間である。薄い反応層(厚さ<0.2m)を走査電子顕微鏡(SEM)、エネルギ分散型エックス線マイクロアナライザー(EDX)、高分解能電子顕微鏡(HREM)、分析電子顕微鏡(AEM)で観察した。界面の反応生成物を詳しく調べた。反応生成物として、Ni33Si12-Ni2Si、Cr3Si、Cr3Ni2Siを確認した。これによりSi3N4とNiとの化学反応の可能性を実証した。

 Si3N4/IN-738拡散接合の研究において、dentrite-likeな構造(-Ni2Si、Cr3Ni2Si)が界面に存在することがわかった。この研究によりSi3N4/IN-738の界面の形態学的な安定性か、Wagnerモデルで説明された。

 また界面の方位関係がO-latticeとLock-in modeにより解析した。dentrite-likeな構造(-Ni2Si、Cr3Ni2Si)がエピタキシャルにより成長することがわかった。その方位関係は[001]Cr3Ni2Si//[]-Ni2Si//[]-Si3N4、及び()Cr3Ni2Si//(011)-Ni2Si//(0001)-Si3N4。形成の原因が違うのに、dentrite-likeな構造の成長メカニズムとしてはleogeメカニズムにより、それがWidmanstatten微細構造と似たことがわかった。

 Ni-基超合全(IN-738)とSi3N4セラミックスとの拡散接合と比較するために、純Ni金属とセラミックスSi3N4との拡散接合が行なわれた。接合圧力が50MPaにおいて、ホットプレスによって、保持時間が1、4、9、25時間、接合温度はSi3N4/IN-738と同じように850℃である。界面反応生成物の微細構造を走査電子顕微鏡(SEM)、エネルギ分散型エックス線マイクロアナライザー(EDX)、高分解能電子顕微鏡(HREM〉、分析電子顕微鏡(AEM)で観察した。純Ni金属とセラミックスSi3N4との拡散接合の結果として、保持時間25時間の試料を高分解能電子顕微鏡で観察したところ何の界面反応生成物も見えなかった。

 Si3N4/IN-738とSi3N4/Niの化学反応性の相違の原因として界面のNの分圧の違いが考えられる。前者はTi、Al、Cr等を含むので、界面の近くでNとこれらの元素とが反応してNの分圧が低い、一方、Ni/Si3N4システムではNのNi中の低い拡散性と低い固溶性により、Nが界面の近くのNi側で集中して存在し、分圧が高い。結局、Ni/Si3N4システムでは反応するべきであるのにNiとSi3N4の間のどんな化学反応もおこらなかった。

 この研究によって、以下の3つ重要な結果が得られた。

 1。高温、高真空の拡散接合によって、Ni基超合全IN-738とSi3N4を接合することができた。Si3N4が金属と反応を起こした。反応生成物が主にdentrite-likeな構造であり、セラミックスに『穴を開ける』、そして、セラミックスを破壊する。

 2。Si3N4とNiとの固相反応についての論争が十何年にわたった、この研究にSi3N4とNi合金との固相反応の類推によって、ようやく結論がでた。Si3N4がNiと反応することができないという理由はNi側で集中して存在し、界面の近くのNの分圧が高いためである。

 3。この研究に,新しい形態学的な安定性の問題も発見された。dentrite-likeな構造(-Ni2Si、Cr3Ni2Si)がエピタキシャルにより成長することがわかった。形成の原因が違うのに、dentrite-likeな構造の成長メカニズムとしてはledgeメカニズムにより、それがWidmanstatten微細構造と似たことがわかった。いままで、形態学的な安定性の問題の実例は合全の凝固問題、合金の酸化問題、とWidmanstatten微細構造が発見されている。

審査要旨

 本論文はセラミック・メタル固相接合の組織化学的側面に注目した研究である.実例としては,窒化ケイ素・ニッケル接合と,それの実用系の一つである窒化ケイ素・ニッケル基超合金インコネル738合金接合とを選んで実験的に接合界面上に生成する反応生成物をおもに透過電子顕微鏡により解析している.生成相の結晶構造と析出形態を知ることにより窒化ケイ素・メタル接合の実用化に資することを目的とした研究である.

 論文は欧文で7章よりなっている.

 第1章は序論である.セラミック・メタル接合がエンジニアリングセラミックスを実際に使用する際に重要な技術であることを指摘し,当面する諸問題が何であるか論じている.また,本論文の構成についてものべている.

 第2章はセラミック・メタル接合について,これまでの基礎的研究の諸成果をまとめている.豊富な参考論文によりセラミック・メタル接合の熱力学,電子論,拡散速度論,および析出相形態学の基礎理論が紹介されている.また,界面の整合性に関する諸理論がまとめられており,これを解析する電子顕微鏡技術にも言及している.

 第3章は本実験で使用した試料作成・観察の諸技術を簡潔に報告している.

 第4章は実験結果の章である.窒化ケイ素・ニッケル接合系と,窒化ケイ素・ニッケル基超合金インコネル738合金接合系に関し,接合界面の微細組織を透過電子顕微鏡および分析電子顕微鏡で解析し,前者は通常窒化ケイ素とニッケルとの直接接合界面となっているのに対して,後者には反応生成物として-Ni2Si,Ni31Si12,Cr3SiおよびCr3Ni2Siが生成して複雑な界面となることを報告している.

 第5章は前章で見出された反応析出相のうち,針状で窒化ケイ素側に突出進入して見える-Ni2Si相の形状に関して結晶方位解析を行っている.この結果,針状結晶の先端では窒化ケイ素との稠密原子面の整合関係があり,これが針状に窒化ケイ素が浸食された形状の界面となる原因となっていることを明らかにした.

 第6章は窒化ケイ素・ニッケル接合系と窒化ケイ素・インコネル738合金接合系とで界面反応生成相の有無に大きな違いが生じた原因を研究した章である.熱力学データの解析により,両接合系は窒素分圧に大きな違いがあり,この違いが反応相の生成に決定的役割を果たしていることを結論した.

 第7章は総括である.

 以上要するに本論文は窒化ケイ素・ニッケルおよび,窒化ケイ素・ニッケル基超合金(インコネル738合金)を実例として,セラミック・メタル固相接合系に於いては,界面反応相の生成工合が大幅に変わることを示し,セラミック・メタル接合系の設計と制御にメタル側の化学組成の選択が重要な役割を果たしていることを実験と理論の両側から明らかにして,セラミック・メタル固相接合の組織化学に一定の方向付けを与えた研究である.材料学上,貢献するところが大きい.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と判定する.

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