本論文は、「浮遊可燃性微粒子群の燃焼特性に関する研究」と題し、炭塵や小麦粉などの可燃性粉塵が爆発する場合、あるいは微粉炭などの可燃性微粒子を燃焼させる場合の火炎の挙動を支配する機構を明らかにするための基礎的知見を得る目的で、空気中に浮遊する1-octanolの固体微粒子群中を伝ぱする火炎について詳細に調べた結果についてまとめたもので、6章からなっている。 第1章は、「序論」で、単一の可燃性微粒子および浮遊している可燃性微粒子群の燃焼に関するこれまでの研究成果について概観し、本研究の位置づけを行っている。 噴霧や粉塵爆発の防止あるいは微粒化した液体燃料や固体燃料を用いる燃焼器の設計のための基礎的知見を得るために、これまでに可燃性微粒子の燃焼に関する多くの研究がなされてきた。それらの最近の成果により、液体噴霧中を伝ぱする火炎の構造や伝ぱ機構は、少しずつ明らかになってきている。しかし、可燃性微粒子が固体である場合、すなわち浮遊固体微粒子群中を伝ぱする火炎の構造や伝ぱ機構については、多くの仮説に基づくいくつかの提案はあるが、それらを裏付ける信頼できるデータはほとんどない。本研究の目的は、浮遊している固体微粒子群中を伝ぱする火炎の構造について詳細に調べ、その伝ぱ機構を解明することにある。 第2章は、「粒子群の生成および粒子群特性の測定」で、本研究に用いた可燃性の固体微粒子群を選定した理由および生成する方法、その特性の測定に用いた方法および測定によって得られた結果について述べている。 微粒子の素材である1-octanolは、融点が59.4℃であり、加熱することにより容易に液体となり、常温の空気中に噴霧すると球形の固体微粒子群となる。このようにして生成した固体微粒子群は、性質がよく分かった単一成分からなるので、その燃焼時の挙動が理解しやすく、基礎研究に向いている。試料を採取して顕微鏡写真に撮り粒径分布を測定し、固体微粒子群は直径20m以下の粒径のものを主体とするものであることを示している。 第3章は、「微粒子群中を伝ぱする火炎の特性」で、浮遊している固体微粒子群中を伝ぱする火炎の挙動を調べた結果について述べている。 種々の粒径分布の固体微粒子群中での火炎伝ぱの状況ならびに火炎伝ぱに伴う微粒子の挙動を、直接写真、シュリーレン写真、およびレーザートモグラフによって同時計測し、火炎伝ぱの速度は粒子径80m以下の比較的小さな粒子の数密度に強く依存すること、粒子径80m以上の大きな粒子はシュリーレンフロントの通過から約20ms遅れて着火し、青い円形の火炎を形成することなどを明らかにしている。 第4章は、「反応領域の検出」で、静電探針を用いて火炎付近において燃焼反応の起こっている領域を検出した結果について述べている。 これまで浮遊している固体微粒子群中を伝ぱする火炎における反応領域は直接写真に写った映像から推定されてきていたが、そのような推定に基づくモデルでは、3章で示しているシュリーレンフロントとして記録される温度上昇を説明することができない。静電探針は、炭素および水素を含む可燃性物質が空気などの酸素を含む酸化剤と燃焼反応したときに発生する化学イオン化反応によるイオンを検出する装置で、これにより燃焼反応が起こっている領域を検出することができる。このような特性を持つ静電探針測定により、直接写真によっては記録できない、シュリーレンフロント背後の反応領域の検出に成功している。 第5章は、「火炎温度の測定」で、微小熱電対およびレーザー干渉計を用いて火炎付近の温度分布を測定した結果について述べている。 これらの手法による温度測定の結果も、4章で述べた静電探針測定の結果を裏付けるのもである。 第6章は、「火炎の構造と火炎伝ぱの機構」で、本研究で得られた結果を総括している。 以上要するに、本研究は、浮遊している可燃性固体微粒子群中を伝ぱする火炎の構造ならびにその伝ぱ機構について、燃焼学上これまで曖昧であった部分に、信頼できる新しい知見を加え、粉塵爆発への対策や微粉炭燃焼器の性能向上のための基礎知識の蓄積に寄与したものであり、燃焼学ならびに化学システム工学に貢献するところ大である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |