気液固三相反応器は気相、液相及び固相の各相間で相互作用があるため、層内の流動状態は非常に複雑となる。本論文は気液固三相系反応器における気泡および固体粒子のダイナミックな挙動のフラクタル及び決定論的カオス解析を行い、流動構造との関係について考察したものである。本論文の構成は5章から成っている。 第1章では、既往の研究をまとめ、本研究の目的および位置づけが述べられている。 第2章では、まず気泡挙動の静的な特性の把握を目的として二次元三相反応器内の気泡径および気泡分布を測定し、それらに及ぼす固体粒子、ガス流速および液流速の影響を調べた。すべての系において気泡径分布は対数正規分布に従い、幾何学的偏差は二相系および小粒子系では小さく、大粒子系では大きいことを見いだした。また、体面積平均気泡径とガス流速の関係を各粒子径に対してまとめている。 第3章では、静止した液体中に打ち上げられた単一気泡のダイナミックな挙動の解析について述べられている。二次元カラムに液相として蒸留水およびエタノールを用い、気相として窒素を用いて気泡を打ち上げ、気泡の運動を高速度カメラで撮影した。気泡のダイナミックな挙動として、各フレームの気泡の形状および重心位置を計測し、気泡の形状として長径、短径およびアスペクト比、気泡の速度、軸方向および半径方向速度成分、気泡の傾き角の時系列データを得た。気泡の形状および速度は不規則に変動しており、時系列データから求めたコルモゴロフエントロピーは正の値をとることを見出し、気泡の運動がカオテックであることを明らかにした。 これに対して、気泡の傾き角の時系列データのパワースペクトルから、気泡の揺れ現象は周期的であることを明らかにした。すなわち、気泡の速度変動は形状変動に対応づけられるが、それは気泡の軌跡にそってのみ起こることを見いだした。また、気泡の形状および速度変動の時系列データから埋め込み法により相関次元を求め、それらがウェーバ数と相関できることを明らかにした。 第4章では、三相反応器における固体粒子の運動のダイナミックスな挙動を記述するため、まず個々の固体粒子の軌跡のフラクタル解析を行っている。二次元カラム内の固体粒子の運動の様子を高速度カメラで撮影し、個々の固体粒子の軌跡および速度の時系列データを求めた。固体粒子の運動のパターンは気泡に対する位置によって異なり、3つの領域に分類できることを示している。気泡直下の安定ウェーク領域では固体粒子が気泡と共に上昇するため、軌跡はほぼ直線的となり、乱流ウェーク領域ではウェーク中の渦との相互作用によって非常にランダムな状態であることを見出した。各領域における個々の固体粒子の軌跡の幾何学的な特徴に対しボックス・カウンティング法によりフラクタル次元を求めた。軌跡のフラクタル次元の値は乱流ウェーク領域、外部スラリー領域、安定ウェーク領域の順番に小さくなることがわかった。さらに安定ウェーク領域では固体粒子の軌跡のフラクタル次元はほとんどガス流速によらず、1に近い値を取るのに対して、乱流ウェーク領域および外部スラリー領域ではフラクタル次元は比較的大きな値をとり、ガス流速に依存し、ガス流速を増加させていくとフラクタル次元の値がピークを示すことが分かった。このピークでのガス流速では流動状態および気泡の特性が急に変化することが観察され、気泡の流動状態が気泡流からチャーン・タービュレント流への遷移領域であることが示された。 また各領域における個々の固体粒子の速度変動の時系列データから、埋め込み法によって相関次元を求めた。安定ウェーク領域では粒子の軌跡のボックス・カウンティング法より求めたフラクタル次元は1に近く、ほぼ直線的に運動していることを示しているのに対し、粒子の速度変動は大きく、埋め込み法により求めた相関次元は比較的高い値を取ることが分かった。すなわち気泡の上昇運動によってウェークおよび外部スラリーのカオティックな動きが引き起こされ、ウェークが脱離すると共に渦が減衰していくが、安定ウェーク領域、乱流ウェーク領域、外部スラリー領域となるにつれて速度変動が弱くなり、反対に軌跡は幾何学的に複雑なものになっていくということを見い出した。 終章では本論文で示された気泡および粒子のダイナミックな挙動に関して総括されている。また、ダイナミックな挙動の解析が三相反応器の流動機構および輸送諸特性の把握にどのように結びつけられていくのか、その展望が述べられている。 以上に示すように、本論文は三相反応器中の気泡と粒子の運動のダイナミックな挙動のフラクタル解析を行い、三相反応器の基本的な特性を理解する上で大きな貢献をするものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |