学位論文要旨



No 112155
著者(漢字) ルーウィスッティチャート,ウィラィ
著者(英字) Luewisuthichat Wilai
著者(カナ) ルーウィスッティチャート,ウィラィ
標題(和) 気液固三相反応器における気泡、ウェーク及び固体粒子のダイナミックスに関する研究
標題(洋) Characteristics of Bubble Wake and Solid Particle Dynamics in Three-Phase Reactors
報告番号 112155
報告番号 甲12155
学位授与日 1996.07.11
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3721号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉田,邦夫
 東京大学 教授 平野,敏右
 東京大学 教授 山田,興一
 東京大学 教授 松本,洋一郎
 東京大学 助教授 堤,敦司
内容要旨 第1章緒言

 気液固三相反応器は混相反応装置として、工業的に様々なプロセスに利用されている。その装置の設計ならびに運転条件を決定するためには、各相の挙動と流動特性との関係を理解することが重要である。特に固体粒子を懸濁状態で利用する際は、固体粒子と乱流との相互作用が、固液物質移動や伝熱に対して最も重要な要因と見なされている。しかしながら、一般に三相反応器は気相、液相及び固相の各相間で相互作用があるため、層内の流動状態は非常に複雑となる。したがって、各相の挙動と流動特性との関係を明らかにするのは非常に困難であるため、従来の研究のほとんどは巨視的な研究で、実際に各相の微視的な挙動と流動構造を調べる研究はほとんど見当たらない。

 そこで本論文では気液固三相系反応器における各相の動的挙動と流動構造の関係について考察した。本論文の構成は以下のようになる。第2章では三相系の気泡の基礎特性:気泡径及びその分布を検討し、第3章では気泡の動的挙動について考察する。第4章では層内のウェーク領域に対して固体粒子の動的挙動のフラクタル及び決定論的カオス解析を行い、その各相の特性に基づいて層内の概念的流動構造を示す。そして終章において、本研究の総括的な結論並びに将来の展望について述べる。

第2章気泡の基礎静特性:気泡径及びその分布

 一般に、三相反応器内の輸送特性、いわゆる伝熱、物質移動などを支配する因子の一つは気液界面積である。その有効界面を決めるのは層内の気泡径及びその分布と見なされている。しかし、既往の研究のほとんどはプローブ法により局所的情報を求めているにすぎず、実際に層内の気泡の挙動を観察しているとはいいがたい。本研究では画像処理法により、層内の気泡径及びその分布に及ぼす固体粒子、ガス流速並びに液流速の影響を調べた。そして、その気泡の特性に基づいて層内の流動特性を明らかにした。

 実験装置の本体は高さ2.16m、輻0.56m、厚さ0.01mの透明アクリル製の二次元カラムである。固体粒子にガラスビーズ(平均粒径88〜2700m、密度2500kg.m-3)を、気相、液相として窒素、水を用いた。ガス流速は12.2〜78.0mm.s-1、液流速は0〜4.6mm.s-1の範囲で実験を行い、画像解析により、容量面積気泡径及びその分布を求めると、Fig.1に示したように、用いた固体粒子の粒径によって、気泡径に及ぼすガス流速及び液流速の影響が異なることを見いだした。また、いずれの運転条件下においても層内の気泡径分布は対数正規分布となることが分かった。

Fig.1 Effect of superficial gas velocity on the Sauter mean diameter.
第3章気泡のダイナミックな挙動

 最近、フラクタル及び決定論的カオスは有用なツールとして系の非線形構造あるいは非定常変化を示すのに幅広い分野で利用できるようになってきた。多相系流動において気固流動層、気泡塔、気液固三相系などの流動はフラクタルあるいはカオティックな挙動を示すことが知られている。また、既往の数値解析あるいは理論的研究により、気泡の運動を支配する方程式は非線形性の強いものであるが、ある非定常条件でカオス的現象が発生する可能性があることも知られている。そこで、実際の気泡のカオス的挙動を明らかにするためにまず、最も基礎となる静止した液体中に打ち上げられた単一気泡の動的流動挙動について調べた。

 装置本体は高さ0.60m、幅0.10m、厚さ7mmの二次元カラムである。気相として窒素を、液相として蒸留水及びエタノールを用いた。静止した液体中に上昇している気泡の運動の様子を高速度カメラで撮影し、ディジタル画像としてコンピュータ上に取り込む。2枚のフレーム間の気泡重心位置の移動距離及び形状変動を計測し、個々の気泡の速度、軸方向速度成分、半径方向速度成分、形状係数(長径、短径及びアスペクト比)並びに傾き角の時系列データを得た。

 気泡の上昇経路を定量評価するため、次式に従ってその経路屈曲度係数を求めた。

 

 ウエバー数,に対して気泡の上昇経路の屈曲係数の値をFig.2に示す。

 さらに、時間変化に対する気泡の上昇速度及び形状変動を調べるため、埋め込み法によりその変動のコルモゴロフエントロピー及び相関次元を求めた。気泡の瞬間的上昇速度及び形状係数の時系列データからアトラクタを求めるため、次式に従ってd次元ベクトルを再構成した。

 

 一般に、カオティックなアトラクタ上の点は空間的に組織化されていると見なされる。この空間的組織化の一つの測度が、相関積分C(r)である。

 

 

 適当なrの範囲の値に対して、式(3)と(4)からCd(r)〜r及びCd(r)〜e-dKがそれぞれ求められる。ベキDC及びKはそれぞれ相関次元及びコルモゴロフエントロピーとして求め、ウエバー数と相関された(Figs.3〜5)。気泡の上昇速度及び形状は不規則に変動しており、求めたコルモゴロフエントロピーは正の値をとることを見いだした。気泡の流動挙動はカオティックであることを明らかにした。また、ウエバー数に対して相関次元の変化は3つの傾向が見られた。ウエバー数が小さい範囲ではウエバー数の増加に伴い、不規則な気泡振動が起き始め、相関次元の値はある程度まで大きくなることが分かった。そのピークの位置は抵抗係数が極小値を取るところとほぼ一致していることを見いだした。

 一方、気泡の傾き角の変動の時系列データから求めたパワースペクトルは、鋭いピークを持ち、気泡の傾き角の変動は明らかに周期的であることが分かった。以上、気泡の瞬間的速度と形状変動が対応づけられ、気泡の微視的運動がカオティックであるのに対して、巨視的な上昇挙動はウェークの脱離により周期性が強くなることを明らかにした。

Fig.2 Tortuosity index as a function of the Weber number.Fig.3 Kolmogorov entropy of bubble shape deformation.Fig.4 Correlation dimension of bubble shape deformation.Fig.5 Correlation dimension of bubble velocity fluctuations.
第4章固体粒子の挙動:幾何学及びダイナミックス

 層内の固体粒子の運動の幾何学的な特徴及びダイナミックな挙動を記述するため、個々の固体粒子の軌跡のフラクタル解析を行った。求めたフラクタル次元を定量的なパラメータとして層内の固体粒子のカオティックな挙動と気泡周辺の流れ構造及び層内の流動様式との関係を検討した。

 実験装置は気泡径分布の実験と同じものを用い、単一及び多数系の気泡の条件下で実験を行った。固体粒子にガラスビーズ(平均粒径250,500,1000m,密度2500kg.m-3)を、気相、液相として窒素、水を用いた。ガス流速は12.2〜91.0mm.s-1、液流速は0,4.6mm.s-1の範囲で実験した。層内の固体粒子の運動の様子を高速度カメラで撮影した。画像はディジタル画像としてコンピュータ上に取り込み、個々の固体粒子の軌跡及び瞬間速度の時系列データを得た。

4.1.固体粒子の軌跡のフラクタル解析

 撮影した画像を映写機で直接観察することより、固体粒子の運動のパターンは気泡に対する位置によって異なることが分かった。それに基づき、気泡の周辺の流れ構造をFig.6に示したように3つの領域に分けることができた。安定ウェーク領域では固体粒子が気泡と供に上昇するため、その軌跡はほぼ直線的となるが、乱流ウェーク領域ではウェーク中の渦と相互作用によって非常にランダムな状態であることを見いだした。その3つの領域における個々の固体粒子の軌跡の幾何学的な特徴に対してボックスカウンティング法により、それぞれのフラクタル次元を求めた。平面を一辺がsの正方形に分割し、観測された固体粒子の軌跡を含むような正方形の個数をN(s)とするとsとN(s)には次のような関係がある。

 

 フラクタル次元を式(5)に従って求めた。

 

 固体粒子の運動の幾何学的な特徴から求めたフラクタル次元の平均値をFig.7に示す。乱流ウェーク領域では固体粒子の軌跡が最も大きなフラクタル次元を持ち、安定ウェーク領域ではほぼ1となった。一般に、乱流における固体粒子の運動は粒子より大きな渦にのみ影響を受け、小さな渦は影響を与えないと見なされている。したがって、固体粒子の軌跡のフラクタル次元は各々流体の領域に存在している渦の代表的なスケールを表していると考えられる。よって、乱流ウェーク領域では大きな渦が主に存在し、反対に外部スラリー領域ではそれより小さなdecayされた渦あるいは巨視的な流れが主であることが分かった。さらに、実際の気液固三相反応器における固体粒子の挙動と流動様式との関係を検討した。その一例をFig.8に示す。各々領域において求めたフラクタル次元の平均値の傾向は単一気泡系の結果と一致している。フラクタル次元の値は安定ウェーク領域、外部スラリー領域、並びに乱流ウェーク領域の順番に大きくなっていくことが分かった。また、安定ウェーク領域では固体粒子の軌跡のフラクタル次元はほとんどガス流速によらず、1に近い値を示す。反対に、乱流ウェーク領域及び外部スラリー領域ではガス流速が固体粒子の軌跡のフラクタル次元に大きな影響を与え、ガス流速が45mm.s-1付近でピークを示すことが分かった。そのガス流速の範囲では流動状態及び気泡の特性が急に変化することが観察され、層内の流動状態は気泡流からチャーン・タービュレント流への遷移領域であると考えられる。

Fig.6 Typical particle trajectories in three different flow regions around a rising bubble.Fig.7 Average mean fractal dimension of particle trajectories in the continuous single-bubble systems.Fig.8 Average mean fractal dimension of particrle trajectories in the multi-bubble systems.
4.2.固体粒子のダイナミックスな挙動のカオス解析

 以上より、気液固三相系における固体粒子の運動は幾何学的にフラクタルの特徴を持ち、気泡周辺の流体領域に対して異なることが分かった。そのフラクタルの特徴を用い、層内の流れ構造及び流動様式を記述できることが明らかになった。しかし、時間変化に対する固体粒子の動的挙動に関してはまだ不明確である。そこで、各領域における個々の固体粒子の瞬間的な速度変動を測定し、埋め込み法により固体粒子の動的挙動を決定論的カオス解析した。

 固体粒子の瞬間的な速度変動及びその相関次元の一例をFig.9に示す。安定ウェーク領域では固体粒子の瞬間速度には激しい変動が見られ、相関次元は比較的高い値を示すことが分かった。それは固体粒子が気泡の不安定な上昇運動の影響を受け、軸方向に振動しながら気泡と共に上昇するため、固体粒子の運動状態が非常に不規則となったためと考えられる。一方、乱流ウェーク領域及び外部スラリー領域では固体粒子が周りの渦と激しく相互作用し、固体粒子の合成的な運動が減衰したため、速度変動が小さくなると考えられる。

Fig.9 Representative time variations in the instantaneous particle velocity in the continous single-bubble system.

 さらに、固体粒子の粒径に対して相関次元をプロットすると、Fig.10のように、乱流ウェーク領域及び外部スラリー領域では粒径が大きくなるに伴い、相関次元の値は少し増加していく傾向が見られた。しかし、安定ウェーク領域では粒径に対してかなり異なった変化が得られ、小さな固体粒子では粒径が大きくなるに伴い、相関次元の値は著しく減少するが、大きな固体粒子では粒径の増加と共に相関次元の値は大きくなっていくことが分かった。小さな固体粒子の挙動は乱流に存在している渦との相互作用が主な影響であり、大きな固体粒子はそれ自身のウェークの生成及び脱離に基づく自己誘発的な運動が大きな影響を与えていると考えられる。さらに、先に示した気泡の上昇速度変動の相関次元の値と比較した結果、固体粒子の速度変動の相関次元は相対的に大きく、固体粒子の運動の自由度は気泡のものより大きいか、あるいは固体粒子の挙動を支配する因子の数が比較的多いことが示された。

Fig.10 Correlation dimension of paricle velocity fluctuations in the continuous sigle-bubble systems.Fig.11 Correlation dimension of paricle velocity fluctuations in the multi-bubble systems.

 多数気泡系の相関次元の値に及ぼすガス流速の影響の一例をFig.11に示す。全ての領域に対してガス流速の増加に伴い、相関次元は極小値を持つことを見いだした。このガス流速の範囲では層内の流動様式が気泡流からチャーン・タービュレント流への遷移域であることが確かめられた。気泡流の範囲では固体粒子の瞬間速度はガス流速の増加に伴い、不規則な変動が見られ、相関次元の値は少し増大することが分かった。これはガス流速が大きくなるにつれて気泡発生頻度が大きくなり、気泡間の相互作用が激しくなって、層内の流動及び固体粒子の動的挙動が極めて複雑になるためと考えられる。ただし、ある程度以上のガス流動になると気泡の合一が起こり、合一した気泡はほぼ直線的に上昇し、固体粒子の運動がより規則的になるため、相関次元の値は一旦減少すると考えられる。一方、大きいガス流速の範囲では合一した気泡が分裂したり、再合一したりを繰り返し、再び層内の流動状態は無秩序的になるため、相関次元の値が大きくなったと考えられる。しかし、ガス流速をさらに大きくすると層内の流動状態は新しい平衡状態に達し、相関次元の値がある一定値に近づいていくと考えられる。

終章総括

 気液固三相反応器における固体粒子の運動はカオティックな特徴を持ち、かつ気泡周辺の流動領域によって異なるフラクタル次元を持つことが分かった。そのフラクタル次元を用い、層内の流れ構造及び流動様式を記述できることを明らかにした。気泡の上昇運動によってウェーク及び外部スラリーのカオティックな動きが引き起こされ、ウェークが脱離すると共に渦が減衰していくが、安定ウェーク領域、乱流ウェーク領域、外部スラリー領域となるにつれて速度変動が弱くなり、反対に軌跡は幾何学的に複雑なものとなっていくことを見いだした。また、単一気泡の速度変動、形状変動及び傾き角の変動について調べ、気泡の速度変動は形状変動に対応しており、カオティックであることを見いだした。一方、傾き角の変動は周期的であり、気泡の速度変動が気泡の軌跡にそって起こることを見いだした。層内のカオス的流動状態が各相間の混合、伝熱、物質移動などを著しく促進すると考えられる。従って、今後、動的流動挙動と輸送緒特性との関係を明らかにしていくことが重要である。

 使用記号d:埋め込み次元、N:時系列の点の総数、r:任意の距離、:遅れ時間、:ヘビサイド関数

1.van den Bleek,C.M.and Schouten,J.C.1993,Chem.Eng.J.,53:75-87.2.Cassanello,A.,Larachi,F.,Marie,M.-N.,Guy,C.and Chaouki,J.1995,Ind.Eng.Chem.Res.,34:2971-2980.3.Hilbom,R.C.1994,Chaos and Nonlinear Dynamics.Oxford University Press,New York.4.Luewisuthichat,W.,Tsutsumi,A.and Yoshida,K.1995,Trans.IChemE.,73A:222-227.5.Tsuchiya,K.and Furumoto,A.1995,AIChEJ.,41(6):1368-1374.
審査要旨

 気液固三相反応器は気相、液相及び固相の各相間で相互作用があるため、層内の流動状態は非常に複雑となる。本論文は気液固三相系反応器における気泡および固体粒子のダイナミックな挙動のフラクタル及び決定論的カオス解析を行い、流動構造との関係について考察したものである。本論文の構成は5章から成っている。

 第1章では、既往の研究をまとめ、本研究の目的および位置づけが述べられている。

 第2章では、まず気泡挙動の静的な特性の把握を目的として二次元三相反応器内の気泡径および気泡分布を測定し、それらに及ぼす固体粒子、ガス流速および液流速の影響を調べた。すべての系において気泡径分布は対数正規分布に従い、幾何学的偏差は二相系および小粒子系では小さく、大粒子系では大きいことを見いだした。また、体面積平均気泡径とガス流速の関係を各粒子径に対してまとめている。

 第3章では、静止した液体中に打ち上げられた単一気泡のダイナミックな挙動の解析について述べられている。二次元カラムに液相として蒸留水およびエタノールを用い、気相として窒素を用いて気泡を打ち上げ、気泡の運動を高速度カメラで撮影した。気泡のダイナミックな挙動として、各フレームの気泡の形状および重心位置を計測し、気泡の形状として長径、短径およびアスペクト比、気泡の速度、軸方向および半径方向速度成分、気泡の傾き角の時系列データを得た。気泡の形状および速度は不規則に変動しており、時系列データから求めたコルモゴロフエントロピーは正の値をとることを見出し、気泡の運動がカオテックであることを明らかにした。

 これに対して、気泡の傾き角の時系列データのパワースペクトルから、気泡の揺れ現象は周期的であることを明らかにした。すなわち、気泡の速度変動は形状変動に対応づけられるが、それは気泡の軌跡にそってのみ起こることを見いだした。また、気泡の形状および速度変動の時系列データから埋め込み法により相関次元を求め、それらがウェーバ数と相関できることを明らかにした。

 第4章では、三相反応器における固体粒子の運動のダイナミックスな挙動を記述するため、まず個々の固体粒子の軌跡のフラクタル解析を行っている。二次元カラム内の固体粒子の運動の様子を高速度カメラで撮影し、個々の固体粒子の軌跡および速度の時系列データを求めた。固体粒子の運動のパターンは気泡に対する位置によって異なり、3つの領域に分類できることを示している。気泡直下の安定ウェーク領域では固体粒子が気泡と共に上昇するため、軌跡はほぼ直線的となり、乱流ウェーク領域ではウェーク中の渦との相互作用によって非常にランダムな状態であることを見出した。各領域における個々の固体粒子の軌跡の幾何学的な特徴に対しボックス・カウンティング法によりフラクタル次元を求めた。軌跡のフラクタル次元の値は乱流ウェーク領域、外部スラリー領域、安定ウェーク領域の順番に小さくなることがわかった。さらに安定ウェーク領域では固体粒子の軌跡のフラクタル次元はほとんどガス流速によらず、1に近い値を取るのに対して、乱流ウェーク領域および外部スラリー領域ではフラクタル次元は比較的大きな値をとり、ガス流速に依存し、ガス流速を増加させていくとフラクタル次元の値がピークを示すことが分かった。このピークでのガス流速では流動状態および気泡の特性が急に変化することが観察され、気泡の流動状態が気泡流からチャーン・タービュレント流への遷移領域であることが示された。

 また各領域における個々の固体粒子の速度変動の時系列データから、埋め込み法によって相関次元を求めた。安定ウェーク領域では粒子の軌跡のボックス・カウンティング法より求めたフラクタル次元は1に近く、ほぼ直線的に運動していることを示しているのに対し、粒子の速度変動は大きく、埋め込み法により求めた相関次元は比較的高い値を取ることが分かった。すなわち気泡の上昇運動によってウェークおよび外部スラリーのカオティックな動きが引き起こされ、ウェークが脱離すると共に渦が減衰していくが、安定ウェーク領域、乱流ウェーク領域、外部スラリー領域となるにつれて速度変動が弱くなり、反対に軌跡は幾何学的に複雑なものになっていくということを見い出した。

 終章では本論文で示された気泡および粒子のダイナミックな挙動に関して総括されている。また、ダイナミックな挙動の解析が三相反応器の流動機構および輸送諸特性の把握にどのように結びつけられていくのか、その展望が述べられている。

 以上に示すように、本論文は三相反応器中の気泡と粒子の運動のダイナミックな挙動のフラクタル解析を行い、三相反応器の基本的な特性を理解する上で大きな貢献をするものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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