エンドトキシン起因性ぶどう膜炎(endotoxin-induced uveitis:EIU)はグラム陰性悍菌のリポポリサッカライド(LPS)を投与することにより惹起される前部ぶどう膜炎の動物実験モデルである。本研究は、1)家兎EIUにおける前眼部炎症(前房フレアー値)を新しく開発されたLaser flare cell meter(以下LFCM)により、その経時的変動を測定し、2)前房水のプロスタグランディンE2(PGE2)、ロイコトリエンB4(LTB4)、ヒスタミンの各化学伝達物質の経時的変化を調べ、3)さらに各々の化学伝達物質阻害剤の抗炎症作用を検討することにより、EIUの発症機序におけるこれら化学伝達物質の関与ついて検討したもので、以下の結果を得ている。 1.LPSを各0.25、0.5、2.5、および5.0g/kgの量を静脈内投与した場合の前房フレアー値をLFCMにて経時的に測定したところ、いずれの投与量においてもフレアー値はLPS投与後から上昇し、4時間後に最大値をとりその後徐々に下降した。2.5g/kg投与量のピーク時の前房フレアー値が最も高値を示し、炎症の持続時間は5.0g/kgが最も長かった(以後の実験では2.5g/kgの投与量を用いた)。 2.化学伝達物質の経時的変化を調べた。前房水中PGE2はLPS静注4時間後に299±37pg/ml(mean±S.E.;n=6)のピークに達し、24時間で静注前値に戻った。前房水中LTB4もLPS静注4時間後に1576±331pg/ml(mean±S.E.;n=6)のピークに達し、24時間でLPS静注前値に戻った。前房水中のヒスタミン濃度も同様にLPS静注4時間後に9.0±0.4nM(mean±S.E.;n=6)のピークに達した。LPS全身投与による家兎EIUにおける化学伝達物質の測定は、Bhattacherjeeらの前房水からプロスタグランディン様物質を検出したとする報告以外に詳細な検討はなく、今回の実験が初めてである。これらの結果、すなわち、眼内炎症時の前房フレアー値と、前房中PGE2、LTB4、ヒスタミンのピークが4時間で一致し、24時間後には正常値に戻ったことから、本実験モデルでは、これら化学伝達物質のいずれかがその発症機序に関与していることが示唆された。 3.各種化学伝達物質阻害剤の家兎EIUに対する効果を調べた。ステロイド剤である0.1%Betamethasone、Cyclooxygenese阻害剤である0.1%Diclofenac点眼群およびDilofenac全身投与群は、対照群に比べ、有意に前房フレアー値の上昇を抑制し、PGE2も有意に抑制されていた。5-Lipoxygenase特異的阻害剤であるAA-861、LTB4受容体拮抗剤ONO-4057全身投与群は対照群に比べ、前房フレアー値と前房水PGE2,LTB4に有意差はみられなかった。抗ヒスタミン薬であるPyrilamine全身投与群は対照群に比べて前房フレアー値の有意な低下がみられた。これらの結果から、本モデルではCyclooxgenaseによるアラキドン酸代謝産物であるPGE2およびヒスタミンの関与が大きく、5-Lipoxygenaseによる代謝産物であるLTB4はその関与が低いと考えられた。 以上、本論文は有色家兎のEIUモデルにおいて、前房蛋白濃度を非侵襲的に測定できるLFCMを用いて炎症の程度を経時的に測定し、また化学伝達物質の測定、化学伝達物質阻害剤の効果を調べることにより、本モデルの発症機序を検討したもので、本研究は学位の授与に値するものと考えられる。 |