交通工学の分野では、ボトルネック区間の交通容量解析、あるいは事故頻発区間などの車両挙動の解析などのために、交通量や密度といった巨視的な集計量だけでなく、個々の車両の微視的な挙動の把握が必要となってきている。本研究はこのような目的のために、ビデオ画面上の走行車両の軌跡を、100から200mの長さの区間において自動的に計測するシステムの開発を行ったもので、対象とするビデオ画面は、(1)移動するカメラで撮影した車両の重なりのないビデオ画面、(2)固定カメラで撮影した車両の重なりの有るビデオ画面、の2種類である。画像処理手法を用いた車両挙動計測の研究は、1970年代からヨーロッパ、アメリカ、日本で始められているが、本研究で対象としている撮影方式、処理方式、画面特性については、これまで研究が見られず、新規性のある研究と認められる。 これまでは、ある程度の長さを持つ道路区間において、車両の2次元的な走行軌跡をトラッキングする場合には、ビデオで道路区間を撮影しそこから走行軌跡を手作業で計測することが行われてきた。ビデオカメラを道路近傍の建物の屋上や気球に設置して、交通流を連続撮影し、画像から車両の軌跡を0.5ないし1.0秒程度の間隔で読み取るわけであるが、極めて多くの時間と労力を要し、また読みとりにかなりの個人差が生じ、計測したデータの後処理にも多くの時間が必要であった。従って、車両挙動の自動計測への足がかりとなる本研究は、交通調査の面で有用な研究であると評価される。 (1)の移動するカメラで撮影した車両の重なりのないビデオ画面上の車両走行軌跡の自動計測については、原画像と背景画像との差分(空間変化)を用いて、2次元的な車両走行軌跡の自動計測方法を提案している。提案方法の検証として、気球に積載したカメラで撮影した500秒間の連続画像を用い、車両の認識率は100%、また対象区間全域に渡るトラッキング成功率は97%という成果を得ている。さらに、マニュアル計測との相対的な誤差分析についても言及している。 (2)の固定カメラで撮影した車両の重なりの有るビデオ画面上の車両走行軌跡の計測については、対象とするのは、車両の流れ方向が画面の奥から手前へ、あるいはその逆の方向に撮影される場合で、手前の車両が後ろの車両を部分的、あるいは完全に隠す可能性のある画面である。3次元的に車両を認識するためには画像理解が必要となるが、提案方法は、各車種の典型的な寸法から数種類の車両モデルを作っておき、動画像部分のエッジ情報、複数の画像から得られる車両の運動情報に基づいて、車両モデルと照合しなから、3次元的に車両の形状と運動を判断する方法である。検証としては、道路脇のビル屋上に設置した固定カメラで撮影した連続画像を用いて3次元的な車両認識と、約60mの区間におけるトラッキングを行い、アルゴリズムの実用性と問題点を整理している。 以上のように本研究は、ビデオ画面上の走行車両の軌跡を自動的に計測するシステムの開発を行ったものであり、これまでは対象とされてこなかった画像の処理に新規性のある手法の提案が行われている。また、開発システムの特徴として、交通調査で用いられる一般のビデオカメラで撮影した画像から軌跡を自動計測できることがあげられ、研究の有用性も認められる。また、手法の検証も限られたケースではあるが、道路・車両の輝度と認識・トラッキング精度との関係を分析しており、今後の研究に有用な知見を与えていると思われる。 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |