地盤材料の一種である砂礫等の粒状体の小ひずみレベルでの変形特性が、常時および地震時の構造物の変位と地盤の変形を推定するために、ますます重要になってきた。原位置弾性波速度を測定することにより、原地盤の弾性変形特性を簡便にかなり精度良く求められるので、弾性変形特性を基準にして、ひずみレベルや圧力レベルによる変形特性の非線形性を考慮することにより、所定のひずみレベルや圧力レベルにおける変形特性を推定する方法が、実務でも用いられ始めてきている。一方、粒状体の変形特性の様々な弾塑性モデルが提案されているが、小ひずみでの変形特性に対して精度高いモデル化を行うためには、弾性変形特性を適切にモデル化する必要がある。 以上の背景の下に、本研究が行われた。具体的には、貧配合で細粒分を含まない各種の砂を用いた室内三軸試験を系統的に行うことにより、弾性変形特性(ヤング率、ポアソン比)の初期異方性、圧力レベル依存性、異方応力状態依存性とそれに起因した応力状態誘導異方性、繰返し載荷履歴誘導異方性、ひずみ速度とクリープ変形等の影響を明らかにしている。 第一章は、研究の背景、既往の研究のまとめであり、本研究の位置づけを行っている。特にいわゆる動的・静的試験法の研究とそれにより得られた砂の変形特性の関係の既往の研究がまとめられている。 第二章では、新しく開発した試験法を説明している。特に、断面23cm正方、高さ57cmの直方体供試体を用いた大型三軸試験で、一般的な応力経路を自由に自動的に制御する方法と、供試体の側面で局所的に誤差の無い軸ひずみと側方ひずみを、0.0001%の微小ひずみレベルから1%程度のひずみレベルまで高い精度と感度で測定する方法を説明し、測定精度の検討を行っている。 第三章では、空気乾燥粒子を空中で自由落下させて作成した供試体を等方圧密し、各種圧力レベルで鉛直主応力vだけを、あるいは水平主応力hだけを微小に繰り返し載荷して0.001%以下のひずみレベルで弾性的変形特性を測定している。その結果、鉛直弾性主ひずみ増分に対するヤング率Evは水平弾性主ひずみ増分に対するヤング率Ehよりも一般的に大きいと言う意味で軸対称初期異方性があり、これは等方圧密中の水平方向の塑性主ひずみ増分が鉛直方向の値よりも大きいと言う異方性と対応していることを示している。 第四章では、様々な異方応力状態で弾性変形特性を測定し、鉛直弾性ヤング率Evは鉛直主応力vだけの関数であり、水平弾性ヤング率Ehは水平主応力hだけの関数であり、したがって異方応力状態では必然的に異方弾性体になることを示している。また弾性ポアソン比は、弾性compliance matrixが対称になる形で主応力比v/hの関数になることを示している。これらのデータを基にして、弾性ひずみ増分に対する変形特性が応力状態依存性であり弾性ひずみ増分の積分値が応力経路に依存する亜弾性体としての砂の軸対称弾性compliance matrixを定式化している。 第五章では、三軸圧縮試験および三軸伸張試験で載荷しながら何回も微小な除荷・再載荷を行いながら弾性変形特性を測定し、供試体が破壊に接近すると弾性ヤング率は、応力状態だけから推定される値よりも小さくなってくることを示し、これはせん断による構造の損傷のためであると議論している。 第六章では、三軸試験において0.1%程度のひずみ振幅で25,000回程度繰返し載荷しても、中立応力状態で測定した弾性ヤング率と減衰比は、載荷条件によって多少の増減はするが、大きくは変化せず、その後の長期圧密によってもほとんど変化しないことを示している。その一方、繰返し載荷中の軸応力の最小値に近づくほど、弾性ヤング率Evは繰返し載荷前に測定した値よりも減少していると言う意味で、繰返しひずみ誘導異方性があることを示している。 第七章では、0.001%以下のひずみレベルで測定したヤング率Evと微小な減衰比hは、載荷周波数f=0.01Hzから2.0Hzの間でfが増加するほどEvは若干であるが増加しhは減少し、この依存性はクリープ変形が生じやすい状態の場合の方がやや大きくなることを示している。しかし、全体としてはfの影響は小さいことを示している。 第八章では、三軸圧縮試験の途中の段階でクリープ変形を生じさせ、再び載荷した場合の変形特性を調べた時の変形特性は弾性的になることを示している。これは、現場の土は多かれ少なかれクリープ変形を受けていることから、載荷初期には弾性的変形を必ず示し、弾性挙動はクリープ変形が大きいほどより明確になることを示している。 第十章は、結論と今後の展望を述べている。 以上要するに、本研究は工学的に必要とされているが、これまで系統的実験がほとんどなかった広範囲な応力状態と応力・時間履歴の下で砂の弾性変形特性に関して、周到に三軸試験を行うことにより研究し、いくつかの新しい知見を得るとともに、その結果をモデル化したものであり、地盤工学に貢献するところが大きい。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |