学位論文要旨



No 112189
著者(漢字) 朴,錫均
著者(英字)
著者(カナ) パク,ソクキュン
標題(和) レーダ法によるコンクリート背面空隙の非破壊検査
標題(洋)
報告番号 112189
報告番号 甲12189
学位授与日 1996.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3732号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 虫明,功臣
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 堀井,秀之
内容要旨

 道路およびトンネル等は代表的な社会基盤施設として、これらの構造物に対する効率的な利用および管理・点検は非常に重要である。このためには、点検においては構造物に損傷を与えない非破壊検査方法を用いて構造物の内部を調査する必要がある。これらの構造物において特に問題になっている劣化現象の一つには背面空隙の発生がある。背面空隙は道路やトンネルなどの陥没を誘発する直接的な原因として、関連構造物の崩壊のような大事故に繋がる可能性が大きい。このような事実に即して、背面空隙の非破壊検査に関する研究が活発に行われているが、大部分の研究が空隙の有無判断に集中して、限定されており、その研究現況もまだ初歩的な段階にとどまっている。

 従って、本研究では、背面空隙の有無判断だけではなく空隙の定量的な解析および評価に関する非破壊検査の研究に目的を置いて、次のような項目を中心にして研究を行った。すなわち、

 ・様々な条件下の空隙に関する測定特性および各種影響因子の分析

 ・測定された空隙に対する画像から実際の空隙の大きさと位置を識別する方法

 ・測定された空隙に対する画像から形状を復元する方法

 ・地中探査用の低周波数帯のレーダにより空隙の厚さを予測する方法

 ・3素子ダイポールレーダ方式を用い、目標物の体積を推定する方法や可能性

 ・目標物に対する画像情報を利用して目標物の実際の位置等を把握するのに必要な対象媒質の比誘電率を推定する方法、

 ・以上の各分野への適用および応用のための理論の体系化(モデルの構築)

 ・レーダ探査の際、最も大きな影響を及ぼす構造物内の鉄筋の効果的な検出方法と鉄筋による空隙検出の影響

 等として、これらの解析方法を開発することにより、コンクリート背面空隙の調査および解析技術の向上を目指した。次に、上記の各項目別に開発および応用された技術を中心にまとめて紹介する。

 まず、各分野への適用および応用のための理論の体系化(モデルの構築)過程では、コンクリート背面の等方形連続空隙の検出に関して、レーダ信号の透過と反射特性をモデルでシミュレーションし、実験結果との比較を通じてモデルの妥当性を検討した。本シミュレーションモデルでは、周波数別の目標物の検出限界と検出方法、そして種々の条件変化による背面の多層境界条件下の検出のための包括的な検討を行った。また、全般的なレーダの伝播特性を理論と対比し実証することにより、関連技術の解析および応用のための基盤を構築した。本モデルは多層境界条件下の限定された大きさの目標物の探査にも有効であり、測定表面に垂直に入射する波の成分のみを対象にした既存のシミュレーション方法とは違って、斜めに入射する波の成分までも複合的に考慮した。さらに、既存の式では求めにくい多層境界条件下の物標(目標物)の水平分解能や減衰特性などの計算が可能である特徴も有している。なおかつ、背面の材料が種々に変化する場合の特性が検討されたため、背面材料の変化による各種空隙の検出特性は本モデルで十分模擬解析することができ、実験の量を減らせる効果も期待される。

 次は、鉄筋構造物下の空隙の探査時に必要である鉄筋の効果的な検出および対象媒質の比誘電率を推定する方法に関する研究である。ここでは、鉄筋の位置を同定するとともにレーダによる検査技術上で、電磁波の伝播速度等に最も大きな影響を及ぼす媒質の比誘電率を、得られた鉄筋の測定画像から直接求める方法およびその適用限界に関して検討を行った。この方法では、地中埋設管の同定に使用されている一般化Hough変換方法を鉄筋の場合に初めて適用した。しかし、この方法は鉄筋のピッチが狭い配筋条件下では適用に限界が予想される。従って、このような場合に対処するために、鉄筋のみの画像内位置を検出することを中心にした新解析方法を開発した。コンクリート内の鉄筋のように間隔が狭く、複鉄筋の場合には反射信号の散乱および干渉等により各鉄筋の焦点または反射信号の前縁が区別しにくくなるため、鉄筋の水平分解能を高めるための既存の合成開口処理方法等では限界がある。そこで、鉄筋の位置を検出できる最適化手法として、測定された信号の距離方向の信号に対する積分法を用い、原則的に最大積分値が得られる信号系列から各ピークを求め、鉄筋の位置とする新解析方法を提案した。

 次の様々な各種条件下の空隙に関する測定特性および各種影響因子の分析では、本研究のメインテーマである背面空隙に関する実験および測定結果を中心にした分析結果を示した。実験は、大別して限定された大きさの空隙と連続空隙に分けて行い、各種の条件別に細分して実験内容、測定および分析結果について述べた。なお、空隙の厚さの推定方法などについても論じた。本研究で使用されたレーダ測定装置は中心周波数が600MHz帯であるため、約30cm以内の空隙の厚さを検出するには限界がある。この問題を解決するために、空隙から得られた最大反射強さを用いて空隙の厚さを推定する方法を提案した。その他にも、背面空隙を探査する際に予想される各種影響因子、例えば、空隙の埋設深さの影響、空隙の大きさの影響、空隙の形状の影響、隣接した空隙間の配置の影響、斜めに配置された空隙の影響、空隙上の鉄筋配筋条件の影響、使用レーダの周波数の影響、空隙内の水の影響、空隙表面の粗度の影響、媒質内の異物質の影響等、これらに対する諸特性が検討された。

 測定された画像から実際の空隙の大きさと位置を識別する方法と断面形状を復元する方法では、上記の各種空隙に対する測定画像から空隙のみの信号を検出し、空隙の断面形状を復元するための画像処理方法を開発した。これらの空隙の検出と形状復元に関する解析技術は二つの解析法に分け、第1解析法と第2解析法と分類した。第1解析法は、上記の検討で行われた条件別空隙の最大反射強さとの相関関係を分析して得られた総合式を用い、任意の測定結果でも空隙のみの信号がその大きさまで検出されるしきい値処理により2値化画像処理が可能になる方法である。第2解析法は、第1解析法では適用が困難である場合(形のある空隙ないし鉄筋下の空隙)や空隙の断面形状に関する情報が必要である場合を対象にして開発した新解析方法である。この方法は、レーダと空隙間の接近距離により信号の幾何学的分布が変化し、それによって空隙から反射して戻る信号の強さが変わる現象を用いたものである。すなわち、得られた画像上で、画像の濃淡の変化が最大になる方向はレーダからの信号が空隙の任意面に当たって反射して戻る信号の方向を示すと仮定し、このときの画像のグラディエントベクトルと深さ信号の円変換との関係から目標物の原画像を復元させる新解析方法である。これらの両方法は比較的精度良く空隙の信号の検出ができ、一部の場合を除いた空隙に対しては定量化も可能である。

 最後に、空隙の体積を推定する方法や可能性の検討では、以上の各解析技術を利用し、3素子ダイポールレーダで測定した画像データから空隙の体積を推定する方法およびその可能性に対して論じた。なお、水平方位別目標物の形状判別方法に対しても検討を行った。この方法は基本的に、3素子ダイポールレーダの一方向の測定で三つの方位に関する情報が得られる原理を用いた。すなわち、まず空隙の断面形状および厚さの推定方法から空隙の断面積を求め、空隙の3次元的要素の中でその一断面に関する定量的な情報を得た後、測定した信号の3方向の散乱行列の計算により各方位別信号に関する情報を比較した。比較方法は、定まった基準軸での画像の濃淡強さ(反射強さ)別頻度数を積分した後、各方位角別に変換した画像に対する同じ計算方式の積分結果との比較加重値によった。これにより体積は、各方位角別比較加重値と基準軸の断面積をかけ、再びこれらの結果を各方位角により面積分して求めた。しかし、3素子ダイポールレーダを用いた空隙の体積の推定方法では、空隙のような等方性に近い物体について方位角別散乱行列が空隙の形状までを識別するのには多くの限界があったものの、空隙の概略的な体積や直交異方性空隙の方向を求めるのにはある程度有効であると判断される。

 以上の研究で、既存のレーダ法による空隙の探査および解析方法とは異なる接近方法を用い、今までの空隙の有無判断に限定して行われてきた関連分野の研究に対し、新しく空隙の定量的な解析および評価方法に関する可能性を提示し、これにより関連方法の解析技術の向上が期待されるという点で本研究の意義があると考えられる。

審査要旨

 道路およびトンネル等は代表的な社会基盤施設であり、これらの構造物に対する効率的な利用および管理・検査は非常に重要である。このためには、検査において構造物に損傷を与えない非破壊検査方法を用いて構造物の内部を調査する必要がある。これらの構造物において特に問題になっている劣化現象の一つには背面空隙の発生がある。背面空隙は道路やトンネルなどの陥没を誘発する直接的な原因として、関連構造物の崩壊のような大事故に繋がる可能性が大きい。このような事実に即して、背面空隙の非破壊検査に関する研究が活発に行われているが、大部分の研究が空隙の有無判断に集中して、限定されており、その研究現況もまだ初歩的な段階にとどまっているのが現状である。これに対し本研究は、背面空隙の有無判断だけではなく空隙の定量的な解析および評価に関する非破壊検査の研究を行ったものである。

 第1章は序論であり、本研究の必要性と意義ならびに目的を示している。

 第2章は既往の研究の紹介をすることにより、レーダ法による非破壊検査の一般的な推移をはじめ、関連分野におけるレーダ法の既往の研究の現況ならびに本研究との比較を行っている。

 第3章では、レーダ法の原理とともに、測定装置に関する概要、構成および機能、特徴を示している。

 第4章では、コンクリート背面の等方形連続空隙の検出に関して、レーダ信号の透過と反射特性をモデルでシミュレーション化し、実測結果との比較を通じてモデルの妥当性を検討している。さらに、本シミュレーションモデルを用い、各周波数別目標物の検出限界と検出方法、そして種々の条件変化による背面の多層境界条件下の検出のための包括的な検討を行っている。

 第5章では、正確な鉄筋の位置を同定する方法とともにレーダによる検査技術上で、電磁波の伝播速度等に最も大きな影響を及ぼす媒質の誘電率を、得られた鉄筋の測定画像から直接求める方法およびその適用限界に関して検討を行っている。この方法では、一般化Hough変換方法を鉄筋の場合に適用し、さらに計算量を減らすことのできる新しい応用計算方法も提案している。なお、この方法の適用に限界のある条件下で鉄筋のみの位置を検出することのできる新解析方法に関しても検討を行っている。

 第6章では、本研究の主目的である背面空隙に関する実験および測定結果を中心にした分析結果を示している。実験は、大別して限定された大きさの空隙と連続空隙に分けて行い、鉄筋の影響など、各種の条件別に細分して実験内容、測定および分析結果について示している。さらに、空隙の深さの推定方法などについても論じている。本章では、後の各章の解析のための種々の基本的な検討を行っている。

 第7章では、第6章で測定した各種空隙について測定画像から空隙のみの信号を検出し、空隙の断面形状を復元するために開発した画像処理方法に関して紹介している。これらの空隙の検出と形状復元に関する解析技術は、二つの解析法に分けて説明を行い、互いに補完的な関係および位置にあり、空隙の解析アルゴリズム上の核心を成している。なお、鉄筋配筋条件下の空隙の画像処理解析時の条件を想定し、上記の第5章の解析方法と並行して構造物内の重要な構成因子を占めている鉄筋と空隙のみの検出が一緒に行える新画像処理方法を提案している。

 第8章では、第4章と第6章、そして第7章の解析技術を利用し、3素子ダイポールレーダから得られた画像データから空隙の体積量を推定する方法およびその可能性に関して論じている。なお、任意の水平方位別目標物の形状判別方法に対しても検討を行っている。

 第9章は結論であり、以上の研究結果から得られた本研究の成果をまとめたものである。

 以上を要約すると、既存のレーダ法による空隙の探査および解析方法とは異なる手法を用い、今までの空隙の有無判断に限定して行われてきた関連分野の研究に対し、新しく空隙の定量的な解析および評価方法に関する可能性を提示したものであり、コンクリート工学の発展に寄与するところ大である。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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