学位論文要旨



No 112192
著者(漢字) スンダラジ クリシュナ プラサド
著者(英字) Krishna Prasad SUNDARRAJ
著者(カナ) スンダラジ クリシュナ プラサド
標題(和) せん断土槽を用いた1G重力場でのモデル地盤の振動変形特性の評価
標題(洋) EVALUATION OF DEFORMATION CHARACTERISTICS OF 1-G MODEL GROUND DURING SHAKING USING A LAMINAR BOX
報告番号 112192
報告番号 甲12192
学位授与日 1996.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3735号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東原,紘道
 東京大学 助教授 山崎,文雄
 東京大学 助教授 古関,潤一
内容要旨

 近年、せん断定数Gや減衰比hなどの地盤の変形特性の評価に関する研究が進展し、このような変形特性がひずみレベル・拘束圧・土の密度・荷重の繰返し回数などの条件に大きく影響されることが明らかにされてきた。その中で、土に働く慣性力や特に非粘着性の土においては繰返し荷重の振動数の影響は小さく、動的荷重と静的荷重による土の変形特性の違いはほとんどないといわれてきた。しかしながら、地震時の現場計測によって得られた地盤の振動特性には大きなばらつきがみられるうえに、それらの特性は室内実験によって得られるものとしばしば大きく異なっていることがある。また、地震時の構造物の被害の大きさは慣性力に影響されることがわかっている。そこで、本研究では動的載荷時の広範なひずみレベルにおける地盤の変形特性の評価を試みた。特に最近の兵庫県南部地震(1995)や米国におけるノースリッジ地震(1994)などの大地震における被害の評価に関してこのような研究の重要性が高まっている。

 本研究では、振動台に搭載したせん断土槽を用いて1G重力場での振動実験を行った。実験では、振動入力波の振幅や振動数を変化させることにより、0.005%から2%までの広いひずみレベルにおける地盤の変形特性を観測した。実験には長さ1m、幅0.5m、高さ1mのせん断土槽を用いた。従って、本実験における土の拘束圧レベルは地盤深さ1mの拘束圧が上限となっている。このせん断土槽の最大の特徴は、せん断土槽の各層にベアリングを挿入してせん断箱間の摩擦を除去するとともに、側壁が自由に回転できる構造とすることによって理想的な境界条件を得られることである。実験材料として豊浦砂と細礫の2種類を用い、乾燥状態および水で飽和させた状態で実験を行った。乾燥材料のモデル地盤を作成する場合には空中落下法によって緩い地盤を作成し、密な地盤とするときには突き堅めを行った。また、水で飽和したモデル地盤を作成する場合には、相対密度がDr=5-10%の緩い地盤に対しては湿潤堆積法を、Dr=25-30%の地盤に対しては水中落下法を、Dr=60-70%の地盤に対しては突き堅め法を用いた。地盤振動の測定は深さ方向に配列した加速度計によって行われた。加速度計をせん断土槽の外側に設置するとモデル地盤を覆っているゴム膜の影響によって測定誤差を生じるので、加速度計はすべてモデル地盤中に設置し精度のよい測定を行った。また、振動時の地表面の沈下を変位計によって計測し、飽和地盤の過剰間隙水圧を間隙水圧計で測定した。

 1次元波動伝播理論を用いて実験計測値からモデル地盤のせん断定数と減衰比を計算した。このとき、地盤振動加速度の鉛直方向分布から地盤の応力ひずみ関係を評価する方法の妥当性を検討した上で、実験で得られた加速度記録から各地盤深さにおけるせん断ひずみとせん断応力の両方を計算した。

 ひずみレベルが小さいときのせん断波速度Vsを直接測定するために衝撃試験を行った。衝撃載荷は振動台を掛合で打撃する方法および高周波の正弦波を1サイクルもしくは半サイクル入力することにより実施したが、0.005%より小さなひずみレベルでの振動試験はできなかった。衝撃試験において、第1波到達点から求めたせん断波速度Vsは、第1波ピーク点から求めたものや相互相関法あるいはせん断定数から計算したVsに比べて大きなものとなった。Vsの測定値は地盤の密度によって異なり、緩い地盤ほど小さくなった。また地盤深さ1mの範囲内ではVsは深さによってあまり影響を受けないが、地表面のごく近傍ではVsは若干小さくなった。砂と礫からなる2層地盤においては、インピーダンス比が0.5より小さいときにのみ地盤境界におけるせん断波の反射がみられた。ひずみレベルが小さい場合でも比較的大きな減衰が観測された。相互相関法は二つの波動の時間遅れを測定するために適した方法であり、地盤内の波動伝搬が滑らかで、発散や層内での重複反射によって波形があまり変わらないような場合には相互相関法によりせん断波の反射を評価するのが適当であることがわかった。

 乾燥した砂や礫で形成されたモデル地盤に対する調和振動実験では、要素試験で測定されたものよりも大きな減衰と小さなせん断定数が観測され、さらにこれらの特性はせん断ひずみレベルと拘束圧レベルに影響されていることがわかった。このような減衰の増大やせん断定数の低下は慣性力の影響によるものと考えられる。また、減衰の大きさは5Hzから20Hzの試験範囲内で振動数の影響を受け、振動数が大きいほど地盤の減衰も大きくなることがわかった。せん断定数に関しては同様の傾向はみられなかったものの、観測値の大きなばらつきは振動数の違いによるものと考えられる。地盤が破壊している状況の下では、拘束圧が小さな地表面付近では1を越えるような非常に大きな減衰比が観測された。応力-ひずみループの面積△Wはせん断定数や減衰の計算方法に左右されないので、△Wをひずみレベルと周波数に対してプロットしたところ、同じひずみレベルに対して周波数が大きくなるほど△Wが大きいが、拘束圧が大きい場合にはこの周波数の影響は小さいことがわかった。特に振動周波数が大きいときに0.5%までの中ひずみ領域で応力-ひずみ曲線は楕円形となった。

 水で飽和した砂または礫の地盤に対して調和振動試験を行った。いろいろな密度の砂地盤に対していろいろな周波数と振幅の波動を入力し地盤の挙動を調べた。また飽和した礫に対する実験によって礫地盤の液状化ポテンシャルを調べた。

 緩い砂地盤の振動試験では、地盤の剛性は振動の繰返しとともに低下し、それと同時に減衰比は大きくなった。地盤が強固なうちは地盤振動の増幅がみられたが、振動とともに次第に減衰へと転じた。地盤が非常に柔らかくなるとせん断波長は減少し、本研究で用いている地盤のひずみの評価方法は不適切なものとなってくるが、波長が加速度計間距離の6倍以上では正確な剛性と減衰比の計算が可能であった。振動により過剰間隙水圧はほぼ100%に達した。地盤のひずみレベルは過剰間隙水圧の上昇に影響しており、また砂の密度が大いほど間隙水圧の消散速度は大きいことがわかった。

 密な砂地盤の振動試験では間隙水圧の消散が早いために沈下量は小さく、過剰間隙水圧の大きさは最大でも初期有効拘束圧の50%であり、液状化には達しなかった。応力ひずみ関係は砂の膨張的な挙動を示した。体積収縮も小さく、振動中に過剰間隙水圧はほとんど消散した。礫地盤は全く液状化せず、過剰間隙水圧は振動中に消散し間隙水圧が高まっている短時間の間だけ剛性の低下が観測された。

 実験データの解析と同じ方法を用いて現実の地震の鉛直アレー記録を解析したところ、応力ひずみ関係の評価は地震時の地盤の挙動をよく再現し、液状化を生じた地盤では大きな変形と剛性の低下が計算された。ワイルドライフ(1987年Superstition Hills地震)およびポートアイランド(1995年兵庫県南部地震)では液状化が発生したが、砂町(1987年千葉東方沖地震)ではごくわずかな地盤変形しか生じなかったことが確認された。このように、本研究で開発した地盤の応力とひずみの評価方法は少なくとも定性的には地盤の挙動をよく説明しているといえる。

 基盤または地表面での振動がわかっている時に、任意の地盤深さでの振動振幅や応力・ひずみを計算することのできるプログラムWAVEを開発した。このプログラムにおいては複素数解による一次元波動伝播理論を用いており、SHAKEで用いられているような層ごとに不連続な地盤定数ではなく、連続的な地盤特性を仮定している。

 本研究では、原地盤に非常に近い条件にある模型地盤の振動実験によって地震時の地盤変形を評価するためのモデル化を行った。1Gまでの大きな慣性力が働いている条件で5Hzから20Hzまでの周波数の広いひずみレベル範囲での振動試験を行った。そして地盤の深さ方向に配列した加速度記録から地盤の剛性と減衰が精度よく求められることを明らかにした。しかし、飽和地盤のように振動とともに剛性が減少するような場合には特別な配慮が必要である。このような解析により、非粘着性の土であっても振動の周波数や慣性力が変形特性に影響することが明らかになった。また、通常の要素試験では困難な礫質地盤についても実験を行った。さらに、本研究で開発した地盤の応力ひずみ関係の解析方法は、地震時の地盤の挙動をよく説明できることを示した。

審査要旨

 軟弱地盤の地震応答の大小は被害に直結する重要な因子であり、これを予測する地震応答解析の精度を高めるため、過去に多くの努力が払われてきた。応答解析においては、計算理論の重要性もさることながら、地盤をどのようにモデル化するか、そして土の動的変形特性をどのように計算に取り込むか、が無視できないポイントである。従来は、地盤を要素に分割してその内部では土の性質が均質である、と考え、土の変形特性のデータには現場や実験室での測定値を使用してきた。しかし解析結果は満足できないものであることがしばしばあり、特に軟弱地盤では問題点の多いことが従来から指摘されてきた。

 本研究は、地盤の性質は空間的に連続変化するものではないか、そして、振動している土の変形特性は振動している中で測るべきではないか、との視点に立っている。大型のせん断土槽を新たに製作し、その中に水平地盤の模型を設置し、振動台の上で加振した。振動している土の変形特性を測定するために、模型地盤中で記録した加速度記録を変換して、応力とひずみの時刻歴を導いた。測定データを考察した結果、変形特性と載荷周波数および地震慣性力との関係、土の性質の深さ方向変化について、重要な成果を得ることができた。

 第一章では現状の問題点や研究の背景を説明した。そしてそれに基づき本研究の目的を、土の動的変形特性を実際に振動する状態で計測することに定めた。

 第二章は既往の研究の整理分類である。まず土の動的変形特性に関して既往の実験および調査方法を振り返り、そこから得られた成果を列挙した。土の動的変形特性を調べる方法には、実験室の要素試験に頼る手法と原位置の波動伝播速度を測る方法とがある。要素試験には繰り返しせん断試験で応力ひずみループを記録する種類と、共振法試験のように高周波数で実施されるものとがある。これらはいずれも大きな成果を挙げてきた。しかし本研究の視点からすれば、土試料に大きな加速度が生ずる、ということがない。これは土粒子に作用する慣性力がごく小さい、ということであり、たとえば交番する慣性力によって土粒子のかみ合わせ構造が撹乱されない。周波数についても、繰り返しせん断試験はゆっくりと準静的に行われ、共振法試験は高周波で実施される。その間を埋める手法が存在しないとともに、共振法試験には発生できるひずみレベルに上限がある。原位置の波動伝播計測も、周波数は高いながら、ひずみレベルや加速度(慣性力)は微小であることが指摘された。

 第三章は、研究に使用した装置および土試料について説明している。本研究では模型地盤を格納するために新たにせん断土糟を製作した。これは11層に積み重ねられた鋼性のわくからできており、層と層との間には精密なベアリングをはめ込んで、層同士がなめらかに滑ることを可能にしている。また、わくの両端の壁は回転でき、内部の土が現実の地盤に近いかたちでせん断変形できるようにした。これにより振動実験時に模型地盤がロッキング振動することを防止している。実験に使った土は、豊浦砂の他に砂礫がある。

 当初の計画では、せん断土糟の外側でわくの変位を計測し、変位の高さ方向の差から土のひずみを推定することになっていた。この方法はわくと土とが同じ変位をすることを前提にしているが、検証の結果、これは正しくないことがわかった。そこで地盤内部で振動加速度(水平方向)を計測し、これを時間について二度積分して変位を得た。さらに、地盤内のいくつかの深さで測った加速度を線形補間して加速度分布を決め、地表から加速度を深さ方向へ積分することによって(正確には積分値に土の密度をかけることによって)、せん断応力の値を決定した。この方法は時々刻々の応力とひずみを推定することができ、応力ひずみループを描くことも可能である。

 第四章以降は実験結果の報告およびその考察である。第四章では、模型地盤の下端を横向きに打撃してS波を発生させ、これが上へ伝わる様子を加速度計で順次観測した。S波の走時からS波速度Vsとせん断定数Gを決定する方法であり、原地盤の調査でよく用いられているのと同じ原理である。発生するひずみはごく小さい。計測した加速度時刻歴の相互相関関数を計算し、二カ所の深さで得られた記録の間で相関が最大になる時刻差を、S波の伝播時間とした。また、打撃に続く自由減衰振動から、地盤全体の平均的な減衰比を推定した。有効応力の微小な地表付近でも、Vsはなお40m毎秒程度はあること、せん断ひずみが0.01%のオーダーでなら減衰比は10%前後であることが、報告された。

 第五章では地盤を一定加速度と周波数で加振し、応力ひずみループを描いた。ループの形から、ひずみ振幅、せん断定数、減衰比が決定できる。この作業の途上で手法の限界も認識された。すなわち伝播するS波の波長が加速度計の間隔の6倍より短くなると、測定された応力ひずみが真のものからかけ離れてしまうのである。以後のデータ解析では、この点に特に注意を払った。測定結果から、せん断定数や減衰比がひずみ振幅に依存して変化すること、せん断定数は有効応力に影響されやすいこと、これら物性は深さとともに連続して変化することが、示された。測定されたせん断定数の特徴は、同様の低拘束圧の下で従来の要素試験が報告したせん断定数より、大幅に小さいことである。また測定値を詳しく整理してみたところ、中ひずみ域では周波数とともにせん断定数が増える傾向があること、しかし慣性力の大きい時(加振加速度の大きいとき)にはひずみも大きく、かつ周波数依存性が無くなること、がわかった。これらをまとめ、せん断定数には周波数とともに増える性質(粘性のような性質)と慣性力の撹乱によって小さくなる性質の両方がある、と結論した。また減衰比の測定値も従来の要素試験結果よりかなり大きいが、これには周波数依存性(粘性)と慣性力の撹乱の両方の影響が重複している、と推定した。

 第六章では、水で飽和した砂地盤の動的変形特性を議論している。地盤は液状化するので応力ひずみ曲線の形は時間とともに変化し、有効応力がごく小さくなったときにはS波波長も短くなり、測定結果は信頼できなくなる。信頼できる範囲のデータによれば、液状化に近づいたときの砂では、ダイレイタンシーによって有効応力が一サイクル中でも激しく変動し、それとともにせん断剛性にも変化が激しく、応力ひずみループは反り返ったような特徴ある形を示した。

 第七章では原地盤に設置された地震計の鉛直アレー記録を利用して、第六章と同様の研究を行なった。それによると、過去の地震で液状化して大変形した地点では、反り返ったような応力ひずみ曲線が再現された。1995年の兵庫県南部地震のときの記録では、ひずみ振幅がこれより小さく、応力ひずみループの反り返りははっきりしていない。しかし、震動初期に比べて液状化した後期で土が軟弱化していることは、明らかに観察された。

 第八章では地盤の地震応答を計算する手法を提案した。この方法はまだ原理的なものを示すに過ぎず、実用の段階には達していない。第五章で示されたように、土の動的性質は深さ(有効応力及び地質的年齢)とともに連続して変化する、と見るべきである。そこでこの手法では、せん断定数と減衰比が深さ方向に連続して変化する、と考えて波動伝播方程式を作った。従来の解析は、連続変化を充分意識しておらず、実務では往々にして、有限要素の境界で物性が急変する地盤モデルの例もあった。物性の急変はS波の反射を起こし、本来地表まで達すべき震動エネルギーを途中で地下へ戻してしまう。その結果、地震応答の計算値が過小になる結果を招いていた。今回の計算ではこの点が是正され、応答の計算値が従来より大きくなった。減衰比=0のときには振動の厳密解がある。今回開発した手法の精度を確認するため、厳密解と今回の計算値を比較したところ、両者は完全に一致した。

 第九章は全体の結論を整理し、また今後の研究課題を要約している。

 以上を要するに本研究は、精密なせん断土糟を製作することによって、土の動的性質を振動している状態で測定したもので、過去の実験研究に例を見ないものである。その結果として、せん断定数や減衰比に対する周波数や慣性力の影響について、知見が得られた。また液状化地盤の挙動についても詳細な情報が報告された。そして実験結果を利用して地盤の地震応答解析法のあるべき姿を提示することにも成功している。これらは地盤の地震工学に貢献するところが大きく、よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク