本研究は、地震時の砂の液状化において強振(主要動)後の微小振動が液状化した砂の非排水せん断強度や変形挙動に与える重要な影響の評価を試みたものである。地震時に強振によってひとたび液状化が発生すると、後続する地震動が変形している土に対して連続的な小さな繰返しせん断応力を作用させる。この後続の繰返しせん断応力と静的荷重とが同時に作用して土が流動している状態を室内実験で再現することを試みた。 ひずみ制御による単調載荷と応力制御による繰返し載荷が同時に作用している条件での飽和豊浦砂の挙動を調べた。単調にせん断変形している砂に対する主要動後の振動の影響を定性的・定量的にとらえるために、2種類の実験を行った。まず最初に、砂の挙動を定性的に調べるために2方向単純せん断試験を実施した。円筒形の飽和した砂の供試体に対して、ひずみ制御による単調せん断と応力制御によるサイン波振動を互いに直行する向きに同時に加えた。次ぎに、砂の挙動や強度を定量的に調べるために中空ねじりせん断試験を行った。この場合には、中空円筒型の供試体に対して、ひずみ制御による単調ねじりせん断と応力制御によるサイン波繰返し軸応力を同時に加えた。 2方向単純せん断試験機による実験では、初期有効拘束圧として、50kPa、100kPa、および250kPaの3種類の応力レベルを用い、サイン波の周波数はすべて1Hzとした。実験の結果、準定常状態における有効応力は初期有効鉛直圧の影響を受け、準定常状態線は一意に定まらなかった。従って、準定常状態線は砂の非排水挙動を評価する基準としては不適当であると判断された。それに対して、変相点での拘束圧比すなわち初期有効鉛直圧と変相状態における有効鉛直圧の比が砂の挙動を比較する上で適当なパラメータであると判断された。e-log ’VPT/’VC平面上での変相点での応力比曲線は、砂の非排水単調せん断に及ぼす微小繰返し応力の影響を調べる上で適切な基準となる。 間隙比や鉛直応力などの初期条件が同じ供試体に対して異なった応力比を持つ繰返し応力を作用させて、そのときの応力ひずみ関係・応力経路・変相点での有効拘束圧比を吟味することにより、微小繰返し応力の影響を調べた。単調せん断と同時に加えられる微小繰返し応力の応力比レベルが異なる場合には砂の応力状態や変形特性は異なったものとなり、変相点や準定常状態での非排水強度にも差異が現れた。強度減衰曲線によって、補周波応力の繰返し応力比レベルが大きくなるに従って変相点での有効鉛直応力が規則正しく減少することが示された。 2方向単純せん断試験機には間隙水圧に関するコンプライアンスや供試体の応力状態の不明確さという欠点があったので、応力ひずみ状態が明確で主応力を独立に制御できる中空ねじりせん断試験機を用いて実験を続けることにした。上記のような中空ねじりせん断試験機の長所によって、2方向単純せん断試験機によって得られた砂のせん断特性の傾向を確認し、さらに正確な砂の非排水最小せん断強度を評価することが可能である。 初期平均有効主応力103kPaの条件で飽和豊浦砂の全般的なせん断挙動を調べた。中空ねじりせん断試験機を用いて単調ねじり載荷と繰返し軸応力を同時に載荷した。繰返し軸応力の周波数と単調ねじりせん断速度の条件を表すパラメータとして、ねじり変形1%ひずみが生じる間に加えられる繰返し載荷数N1%を導入した。2方向単純せん断試験ではN1%=125のみを用いたが、中空ねじりせん断試験では4種類のN1%(25,62.5,125,250)の条件下での実験を実施した。 2方向単純せん断の場合と同様にして、単調載荷せん断のみの中空ねじり試験から変相点における有効応力比線をe-log ’PT/’C平面上に描いた。この有効応力比線は異なった微小繰返し応力レベルでの砂の挙動を比較するときの基準となるものである。初期拘束圧53、103、および247kPaで圧密した供試体に対してねじりせん断試験を行ったところ、2方向単純せん断試験の場合と同様に微小繰返し応力が砂の挙動に大きな影響を与えることが観察された。変相点での内部摩擦角には繰返し応力の影響はみられなかった。 これら2種類の実験結果を検討したところ、砂の圧縮・膨張挙動と砂の密度・初期拘束圧の間には一意的な関係は存在しないことが明らかになった。すなわち、繰返し応力比CSRの大きさによって砂の挙動は大きく変化するのである。繰返し応力比CSRが大きくなるにつれて変相時の有効拘束圧比p’PTcc/p’cが小さくなることがe-p’PTcc/p’c平面上のプロットによって示された。ある一つの間隙比とN1%の組み合わせ条件下では、CSRとp’PTcc/p’cの関係は一意に定まる。 砂の密度が同じであっても、微小繰返し応力の大きさと継続時間によって異なった最小非排水強度状態に達するものと考えられる。最小強度は非常に小さくなることもあるので、ゼロ強度状態となる条件を求めるために、間隙比・CSR・N1%の3つのパラメータを軸とする3次元空間に、state transformation surfaceと名付けられる曲面を描いた。砂の状態がこのにstate transformation surfaceに達すると砂の挙動は摩擦性物質から液体状のものへと変化する。砂が緩いほどより小さな繰返し応力比でもより大きな影響がみられ、砂の密度が大きくなるとその挙動に影響を与える繰返し応力比はより大きくなった。有効拘束圧が全く減少せずp’PTcc/p’c=1.0となる条件が本研究で用いた間隙比の範囲内で観測された。N1%とCSRの組み合わせ条件が砂の挙動に与える影響を調べ、ある一つの間隙比を持つ砂がある一つの効拘束圧比に達するすべてのN1%とCSRの組み合わせ条件を明らかにした。N1%が25より小さいときにはCSRは一定となり、この場合にはCSRのみが砂の挙動を支配していることがわかった。 本研究で得られた実験結果に基づいて、砂の圧縮的挙動と膨張的挙動をわける境界条件を明らかにするために、境界値となる間隙比eclと初期状態比rclを提案した。これらの境界値は微小振動を定義するパラメータである繰返し応力比CSRとN1%によって定まるものである。単調載荷のみから求まる最小強度は微小繰返し応力が加わった場合の最小せん断強度の上限となるものであり、微小振動が無視できるような場合にのみ有効なものと考えられる。また、微小繰返し応力の影響も考慮した最小せん断強度の評価式を提案した。この評価式は流動する飽和砂のより現実に近い最小強度を予測できるものである。この微小振動が加わっている場合の強度を単調載荷のみによるせん断試験結果からも予測することができる方法を開発した。その中では、間隙比・CSR・N1%によって定まる強度低下率RDを導入している。そして、無限流動・有限流動・サイクリックモピリティー・非液状化を区別する境界条件を本研究における実験結果を用いて提案した。最後に、流動の発生を評価する手法を改善して定式化した。 |