学位論文要旨



No 112197
著者(漢字) メネセス,ホルヘ
著者(英字) Meneses Jorge
著者(カナ) メネセス,ホルヘ
標題(和) 飽和砂の単調載荷時の非排水挙動に及ぼす微小繰返しせん断応力の影響
標題(洋) EFFECTS OF COMPLEMENTARY CYCLIC SHEAR STRESS ON THE UNDRAINED BEHAVIOR OF SATURATED SAND UNDER MONOTONIC LOADING
報告番号 112197
報告番号 甲12197
学位授与日 1996.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3740号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 助教授 堀,宗朗
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 目黒,公郎
内容要旨

 本研究は、地震時の砂の液状化において強振(主要動)後の微小振動が液状化した砂の非排水せん断強度や変形挙動に与える重要な影響の評価を試みたものである。地震時に強振によってひとたび液状化が発生すると、後続する地震動が変形している土に対して連続的な小さな繰返しせん断応力を作用させる。この後続の繰返しせん断応力と静的荷重とが同時に作用して土が流動している状態を室内実験で再現することを試みた。

 ひずみ制御による単調載荷と応力制御による繰返し載荷が同時に作用している条件での飽和豊浦砂の挙動を調べた。単調にせん断変形している砂に対する主要動後の振動の影響を定性的・定量的にとらえるために、2種類の実験を行った。まず最初に、砂の挙動を定性的に調べるために2方向単純せん断試験を実施した。円筒形の飽和した砂の供試体に対して、ひずみ制御による単調せん断と応力制御によるサイン波振動を互いに直行する向きに同時に加えた。次ぎに、砂の挙動や強度を定量的に調べるために中空ねじりせん断試験を行った。この場合には、中空円筒型の供試体に対して、ひずみ制御による単調ねじりせん断と応力制御によるサイン波繰返し軸応力を同時に加えた。

 2方向単純せん断試験機による実験では、初期有効拘束圧として、50kPa、100kPa、および250kPaの3種類の応力レベルを用い、サイン波の周波数はすべて1Hzとした。実験の結果、準定常状態における有効応力は初期有効鉛直圧の影響を受け、準定常状態線は一意に定まらなかった。従って、準定常状態線は砂の非排水挙動を評価する基準としては不適当であると判断された。それに対して、変相点での拘束圧比すなわち初期有効鉛直圧と変相状態における有効鉛直圧の比が砂の挙動を比較する上で適当なパラメータであると判断された。e-log VPT/VC平面上での変相点での応力比曲線は、砂の非排水単調せん断に及ぼす微小繰返し応力の影響を調べる上で適切な基準となる。

 間隙比や鉛直応力などの初期条件が同じ供試体に対して異なった応力比を持つ繰返し応力を作用させて、そのときの応力ひずみ関係・応力経路・変相点での有効拘束圧比を吟味することにより、微小繰返し応力の影響を調べた。単調せん断と同時に加えられる微小繰返し応力の応力比レベルが異なる場合には砂の応力状態や変形特性は異なったものとなり、変相点や準定常状態での非排水強度にも差異が現れた。強度減衰曲線によって、補周波応力の繰返し応力比レベルが大きくなるに従って変相点での有効鉛直応力が規則正しく減少することが示された。

 2方向単純せん断試験機には間隙水圧に関するコンプライアンスや供試体の応力状態の不明確さという欠点があったので、応力ひずみ状態が明確で主応力を独立に制御できる中空ねじりせん断試験機を用いて実験を続けることにした。上記のような中空ねじりせん断試験機の長所によって、2方向単純せん断試験機によって得られた砂のせん断特性の傾向を確認し、さらに正確な砂の非排水最小せん断強度を評価することが可能である。

 初期平均有効主応力103kPaの条件で飽和豊浦砂の全般的なせん断挙動を調べた。中空ねじりせん断試験機を用いて単調ねじり載荷と繰返し軸応力を同時に載荷した。繰返し軸応力の周波数と単調ねじりせん断速度の条件を表すパラメータとして、ねじり変形1%ひずみが生じる間に加えられる繰返し載荷数N1%を導入した。2方向単純せん断試験ではN1%=125のみを用いたが、中空ねじりせん断試験では4種類のN1%(25,62.5,125,250)の条件下での実験を実施した。

 2方向単純せん断の場合と同様にして、単調載荷せん断のみの中空ねじり試験から変相点における有効応力比線をe-log PT/C平面上に描いた。この有効応力比線は異なった微小繰返し応力レベルでの砂の挙動を比較するときの基準となるものである。初期拘束圧53、103、および247kPaで圧密した供試体に対してねじりせん断試験を行ったところ、2方向単純せん断試験の場合と同様に微小繰返し応力が砂の挙動に大きな影響を与えることが観察された。変相点での内部摩擦角には繰返し応力の影響はみられなかった。

 これら2種類の実験結果を検討したところ、砂の圧縮・膨張挙動と砂の密度・初期拘束圧の間には一意的な関係は存在しないことが明らかになった。すなわち、繰返し応力比CSRの大きさによって砂の挙動は大きく変化するのである。繰返し応力比CSRが大きくなるにつれて変相時の有効拘束圧比p’PTcc/p’cが小さくなることがe-p’PTcc/p’c平面上のプロットによって示された。ある一つの間隙比とN1%の組み合わせ条件下では、CSRとp’PTcc/p’cの関係は一意に定まる。

 砂の密度が同じであっても、微小繰返し応力の大きさと継続時間によって異なった最小非排水強度状態に達するものと考えられる。最小強度は非常に小さくなることもあるので、ゼロ強度状態となる条件を求めるために、間隙比・CSR・N1%の3つのパラメータを軸とする3次元空間に、state transformation surfaceと名付けられる曲面を描いた。砂の状態がこのにstate transformation surfaceに達すると砂の挙動は摩擦性物質から液体状のものへと変化する。砂が緩いほどより小さな繰返し応力比でもより大きな影響がみられ、砂の密度が大きくなるとその挙動に影響を与える繰返し応力比はより大きくなった。有効拘束圧が全く減少せずp’PTcc/p’c=1.0となる条件が本研究で用いた間隙比の範囲内で観測された。N1%とCSRの組み合わせ条件が砂の挙動に与える影響を調べ、ある一つの間隙比を持つ砂がある一つの効拘束圧比に達するすべてのN1%とCSRの組み合わせ条件を明らかにした。N1%が25より小さいときにはCSRは一定となり、この場合にはCSRのみが砂の挙動を支配していることがわかった。

 本研究で得られた実験結果に基づいて、砂の圧縮的挙動と膨張的挙動をわける境界条件を明らかにするために、境界値となる間隙比eclと初期状態比rclを提案した。これらの境界値は微小振動を定義するパラメータである繰返し応力比CSRとN1%によって定まるものである。単調載荷のみから求まる最小強度は微小繰返し応力が加わった場合の最小せん断強度の上限となるものであり、微小振動が無視できるような場合にのみ有効なものと考えられる。また、微小繰返し応力の影響も考慮した最小せん断強度の評価式を提案した。この評価式は流動する飽和砂のより現実に近い最小強度を予測できるものである。この微小振動が加わっている場合の強度を単調載荷のみによるせん断試験結果からも予測することができる方法を開発した。その中では、間隙比・CSR・N1%によって定まる強度低下率RDを導入している。そして、無限流動・有限流動・サイクリックモピリティー・非液状化を区別する境界条件を本研究における実験結果を用いて提案した。最後に、流動の発生を評価する手法を改善して定式化した。

審査要旨

 地震時に砂質地盤や砂質土構造物が非排水状態で流動し、大変形と構造物の機能喪失に至る現象がある。そして流動破壊と大変形の研究は近年開始されたばかりである。従来は、ピークせん断強度に基づいて地震時の滑り安定評価が行なわれてきた。しかし実際には、重力によって発生する荷重が大変形時の残留強度を上回るときに流動的な破壊が起こる。したがって、土の大変形挙動を正しく理解するための研究は、従来のピークせん断強度に基づく手法よりも、実際の被害形態に密着している。

 大変形挙動の中でも重要なテーマは準定常状態のせん断強度の評価である.これは、せん断応力がピーク強度を過ぎて応力低下をした時に到達する値、すなわちせん断応力の極小値である。準定常状態の強度が平時の応力より小さいと、土構造物は地震動が停止した後にも自重だけで大変形してしまう可能性がある。

 従来の準定常状態の研究は、おもに三軸圧縮試験によって行なわれてきた。そして多くの知見が得られたものの、測られた強度が大きく、実際の流動破壊を説明しづらいことがしばしばあった。その後に中空ねじり試験機などでより一般的な応力条件を作り出し、そこで準定常状態を調べることが行なわれた。そこで得られた強度は三軸圧縮試験の示した値よりは小さいものの、この強度がさまざまな因子によって大きな影響を受けることを、うかがわせた。

 従来の大変形実験は、単調載荷静的せん断の形で行なわれてきた。そこに地震時の繰り返しせん断応力の影響が欠如していることは明らかである。繰り返し応力の作用と過剰間隙水圧の発生は大変形のきっかけではあっても、準定常状態強度には影響しない、という考えがあり、大変形と繰り返しせん断応力とが同じ方向に起こる場合には、それはおおむね正しい。しかし地震動は東西と南北二成分を持つのが普通であり、斜面が東西に流動破壊するとき、南北方向に繰り返し応力が引き続き作用していることは、充分ありうることである。そしてそのときの土の大変形挙動は、まだよく知られていなかった。このたびの研究で取り扱ったのは、このような多方向震動のもとでの準定常状態強度である。

 本論文は九つの章から成る。そのうち第一章は、問題点の所在と研究の方針を記述している。

 第二章は既往の研究のまとめである。砂の大変形挙動に関する実験的研究を振り返り、準定常状態強度に影響する諸々の因子の働きをとりまとめている。

 第三章では実験に使用した装置を説明している。装置は多方向単純せん断装置と中空ねじりせん断装置の二種類あり、それぞれ二成分のせん断応力を砂に作用させることができる。多方向単純せん断装置は互いに直交するXとY二方向に載荷装置を備えており、X方向にひずみ制御で大変形に至る単調載荷試験を行ない、これと同時にY方向へ繰り返しせん断応力を作用させることが可能である。たがいに直交するX方向とY方向の載荷が、ひずみエネルギーを独立に蓄積させることは明らかである。原理の上でこの装置は、本研究のテーマである実現象をよく模擬している。しかし実験の遂行上、ロッキングその他の問題があり、高い精度を望むことができなかった。そこで精度を高めるために、中空ねじり試験を使用することになり、ねじり方向に単調載荷しつつ、軸差応力(鉛直と水平方向の直応力の差)を繰り返し作用させた。ねじりせん断応力は水平面に作用するのに対し、軸差応力の生むせん断応力はその最大値が45度傾いた面に作用する。これら二つの面は角度が90度をなすのではない。両者の間の角度は45度に過ぎず、実際の状況とは異なるように見える。しかしひずみエネルギーの見地から言えば二つのせん断応力は独立であり、現実と一致する。本論文ではこのような関係にある二つの応力をcomplementary shear stressと呼んでいる。実験には豊浦砂を使用した。

 第四章は多方向せん断試験の結果を説明している。まず初めにせん断応力を一成分だけ単調載荷し、従来から報告されてきたようなピーク応力後の軟化と準定常状態がこの装置でも作り出せることを確認した。次に、単調載荷と繰り返し載荷とを互いに直交する方向に重ね合わせる実験を行なった。繰り返しせん断応力の影響は、振幅と載荷周波数の二つで定まる。前者は振幅を初期の圧密応力で割った応力比で表現され、後者は単調載荷方向のひずみが1%増える間の載荷サイクル数N1%で代表される。間隙比0.85、圧密応力100kPaの場合を例に取ると、従来の単調載荷だけでは、ピーク強度後の軟化すらほとんど起こらない。ところが繰り返しせん断応力比SRを0.05、N1%を125にした実験では、準定常状態強度がゼロとなり、試料は強度を完全に喪失した。同様の実験が条件を少しずつ変えて数多く行なわれ、繰り返しせん断が砂の大変形挙動に与える影響について、展望を得た。

 第五章では中空ねじりせん断試験の結果を説明している。ここでも繰り返し載荷を単調載荷に重ね合わせることにより強度が大幅に低下、ときには強度が完全に失われることが示された。しかし強度を内部摩擦角で表わせば、繰り返し載荷の有無は摩擦角にあまり影響していない。また興味深いのは、繰り返し載荷を途中で停止すると砂の強度が回復し始めることである。

 前の章の中空ねじり試験結果を考察しているのが、第六章である。繰り返し応力比が大きいほど、そして載荷サイクル数N1%が大きいほど、大変形した砂は強度を喪失しやすい。強度喪失の原因についても議論し、繰り返しせん断応力は粒子構造を絶えず変化させて粒子接触を壊したり、粒子を間隙に落とし込んでダイレイタンシーに起因する有効応力とせん断強度の発現を妨げている可能性を示した。

 第七章はこれまでの成果をまとめ、繰り返しせん断応力による強度低下率を、応力比やN1%に関連づけている。

 第八章では実地震波記録を調べ、N1%の実際の値を推定している。しかし実際の斜面流動速度が知られていないので、この考察はごく限られたものである。

 第九章は全体の結論と今後の課題を述べている。

 以上を要するに、本研究は地震時の地盤流動現象を支配する大変形時のせん断強度に着目し、これまで過大評価しかできなかった強度推定を、現実的な値に修正したものである。これらは地盤の地震工学と被害軽減に貢献するところが大きい。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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