学位論文要旨



No 112202
著者(漢字) アラム モハメド ジョバイア ビン
著者(英字) Alam Md. Jobair bin
著者(カナ) アラム モハメド ジョバイア ビン
標題(和) 交通プロジェクトの経済分析のための時間評価に関する研究
標題(洋) A STUDY ON EVALUATION OF TIME FOR ECONOMIC ANALYSIS OF TRANSPORTATION PROJECTS
報告番号 112202
報告番号 甲12202
学位授与日 1996.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3745号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 教授 岡部,篤行
 東京大学 助教授 原田,昇
 東京大学 講師 室町,泰徳
内容要旨

 時間価値の評価は交通研究における古典的研究課題の1つである。時間は交通における重要な要素の1つである。交通システムの効率の評価と交通プロジェクトの経済的効用の分析において、時間価値の評価は不可欠である。伝統的に時間価値の推計は2つの異なるアプローチに拠ってきた。1つは行動モデルに立脚し、得られた時間価値は「行動価値」と呼ばれ、予測に用いられる。もう1つのアプローチは、時間価値は旅行時間の削減による資源の節約から求められ「資源価値」と呼ばれる。これは普通、交通プロジェクトの経済分析に用いられる。経済分析においては「行動価値」も時間価値の推奨値として用いられる。

 従来の行動モデルでは時間価値を選好関数における時間と費用の係数の比として与え、この時間価値は各個人に共通のものであると仮定している。しかし時間価値は交通条件や社会経済学的状況による異質性によって母集団内でばらつくことは広く認識されている。この認識にもかかわらず、時間価値のばらつきはその計算の困難さからモデルに明確に扱われたことはない。この問題を克服するため、市場の分割と社会経済学的変数の関数として表現するなどその変動時間とコストの係数を考慮する手法として、いくつかの間接的アプローチが開発された。この論文の目的は移動需要モデルにおける時間価値のランダムな変動を扱う方法論を開発し、時間関連変数が時間価値に与える効果を分析することである。

 時間価値の特性を理解するため、時間価値の平均と分散を結合して分析方法論を開発した。本方法の感度を検定するために様々な仮定の下でアプローチの単純化を行った。その後で本手法を集計・非集計データの分析に適用した。また、時間価値の個人内と個人間の変動を区別するための分析の枠組みを提案し、適用した。さらに、時間価値のランダムな構成要素に由来する選択肢間の相関を分析するための枠組みも開発した。

 旅行時間の信頼性の分析のための方法論を検討し、旅行時間節約の価値への影響を分析した。また、発展途上国における時間価値の分析のための枠組みを開発し、バングラデシュの魚輸送の事例に適用した。

審査要旨

 交通投資プロジェクトをはじめ交通計画・政策の評価にあたって、最も重要な評価項目のひとつが交通時間にかかわる効果である。その推定にあたって鍵となるパラメータが時間価値であり、これまで多くの理論的、実証的研究が行われてきたが、分析目的に応じた適切な時間価値の推定に関しては多くの課題が残されている。本論文は、交通行動における時間と費用とのトレードオフ関係から推定される「行動価値」に基づく時間価値が、分析対象により大きく変動することに着目して、時間価値の変動を推定するための理論的枠組みと方法を提案し、実証的データに適用して、その有効性を明らかにしようとするものである。具体的な研究目的は、次の3点の分析手法、モデル開発である。(1)時間価値の変動を分析するための理論的・実証的手法の開発 (2)時間価値の個人間変動と個人内変動を区別して分析する手法の開発 (3)交通所要時間の信頼性と合わせた時間価値の推定。

 論文は、既存研究のレビューの後、上記3つの研究目的に沿って、大きく3つの内容から構成されている。時間価値の変動を分析する理論的枠組みに関しては、集計レベルの分析として、従来の交通モデルとその理論を検討した上で、ミクロ経済学の消費者行動理論に基づく効用最大化の交通行動モデルで通常使われている一般化費用に時間価値の変動を、正規分布と仮定して組み入れた理論モデルを提案し、1990年の道路交通センサスデータおよび1990年の物流センサスのデータに適用して実証的検討を行った。

 この正規分布の仮定は、モデルの操作性の向上に有用であると共に、従来の一般化費用を用いた犠牲量モデルで散見される負の時間価値を分析に取り入れる着想である。実証分析の結果は、誤差項がないと仮定した単純化モデルでも、従来のモデルよりも大幅に適合性が改善されたこと、推定された時間価値は、他の推定値と整合的であること、から提案した方法の妥当性と有効性を示している。さらに、集計レベルで個人間変動を考慮する方法として、従来使われている何らかの外的基準による市場セグメンテーション法に対して、潜在的分類を試みるマスポイント法の適用を提案し、その有効性を実証的に示している。

 以上の集計レベルの分析では、集計選択モデルの誤差項と時間価値とは独立であると仮定したが、個人レベルの分析では、一般化費用モデルでは他の変数が取り入れられていないこと等から独立の仮定は不適切である。このため、非集計モデルの分析として時間価値の個人内変動の影響を区別して分析する理論モデルとその推定方法を提案し、首都高速道路における経路選択データに適用してその有効性を確かめている。

 最後に、時間と費用に加えて、所要時間の信頼性が交通選択に重要であることに着目して、信頼性を組み入れた非集計モデルを開発し、時間価値推定値との関係を分析している。実証分析は、バングラデシュの魚類荷主に対して独自に行った意向調査によるSPデータについて行っている。信頼性変数設定について、主観的な3段階評価と時間変動とを数量的に関連づけた指標を提案し、プロビット型非集計モデルを適用して、時間価値および時間信頼性の具体的評価値を推定してその有効性を示している。

 以上のように、本論文は時間価値の推定に関して、その変動を分析する理論的枠組みを提示し、それに基づく理論モデルを集計レベルおよび非集計レベルのそれぞれについて提案し、具体的な交通データに適用して、モデルの妥当性と有効性について実証的に明らかにしており、交通政策・計画の評価方法の改善に有用な知見を提供するものといえる。

 よって、本論分は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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