ナノろ過プロセスは、逆浸透法に比べ低圧力での溶質分離が可能となることから、水処理において注目を集めている。本研究は、最小0.03MPa(約0.3気圧に相当)という超低圧領域でのナノろ過法の水処理への適用が可能であることを実証し、各種陰イオンの輸送現象を明らかにするものである。 本研究で用いたナノろ過膜は、日東電工製NTR-7410,NTR-7250,NTR-7197,NTR-729HF,NTR-759HR,ES-10である。これらの膜によるアニオンの分離が、どのようなメカニズムで行われているかを特定するため、水和半径のことなるイオンの透過性を調べる方法を提案した。その結果、今回用いた膜のうちいくつかの膜については、イオンの水和半径が明らかに膜による分離に影響していたので、輸送現象を、水和現象に起因する部分と荷電現象に起因する部分とにわけて考える必要があった。その他の膜については、ナノろ過膜を単なる荷電膜と考えてよいと考えられた。 次に、ナノろ過の基本的物性値を得る目的で、輸送方程式として、Extended Nernst-Planck式を用いることにより、膜の有効荷電密度と膜の開孔比を膜厚で割った値(Ak/△x)とを求めた。Ak/△xは、膜が同じであれば一定値を得た。中性の溶質を用いた透過実験を行い、各膜の細孔径を細孔モデルから計算した。今回用いた膜の細孔径は、0.5nm〜2nmの範囲であった。中性溶質の透過実験から求めたAk/△xとExtended Nernst-Planck式から求めたAk/△xは、概ねよく一致していた。膜の有効荷電密度は、低濃度領域では、溶液濃度と線形の関係にあることがわかった。 リン酸イオンの輸送現象についてpHによるリン酸イオンの平衡状態の変化を加味したモデルを提案し、いくつかの膜で検証した。 次に各種の陰イオンが混合した系でのナノろ過プロセスの低圧運転(0.03MPa〜0.49MPa)時の設計パラメーターを得ることを目標として、混合系でナノろ過実験を行った。図-1に示すように、ES-10膜を用いた場合、0.2MPaの低圧の操作条件でも3x10-6m/sの比較的高いフラックスが得られ、全ての陰イオンについて90%以上の阻止率が得られた。陰イオンの阻止率は、すべての負荷電膜で、硝酸イオン<塩素イオン<リン酸イオン,硫酸イオンの順であったが、陽荷電膜では陰イオンの阻止率はほぼ同一であった。 図-1 ES-10膜での阻止率の操作圧力依存性 Extended Nernst-Planck式による各種陰イオンの阻止率の予測では、塩素イオンと硫酸イオンとの関係に代表される1価-2価のイオンの選択性を説明することはできたが、硝酸イオンと塩素イオンに代表される1価-1価のイオンの選択性を説明することはできなかった。この説明のため、膜界面での自由エネルギー変化が存在するとして、膜界面での自由エネルギー変化を加味したドナン平衡式を用いて、膜の内部の濃度を決定し、Extended Nernst-Planck式を用いるモデルを新たに提案した。数値計算によって、本研究で用いた膜での硝酸イオンの塩素イオンに対する分離係数を計算した。 操作条件の膜分離性能への影響を調べたところ、温度変化による阻止率の変化は、拡散係数、粘性係数の変化だけからは説明できず、膜の何らかの構造変化が認められること、クロスフロー流速の阻止率への影響はほとんどないことを明らかにした。また、pHを7以下にすると陰イオンの阻止率は低下した。 硝酸の阻止率が他の有機物あるいは無機物の共存からどのような影響を受けるかを解析した。多価の陰イオンの共存が最も阻止率に影響が大きく、大きく硝酸の阻止率が低下した。しかし、膜にフミン質やリグニンは、あまり吸着しなかったため、フミン質やリグニンの共存は大きな影響を与えなかった。このことから、地下水の処理にナノろ過膜を適用する場合に、フミン質やリグニンなどの共存は問題とはならないことがわかった。 |