学位論文要旨



No 112207
著者(漢字) 柳,允善
著者(英字)
著者(カナ) リュウ,ユンソン
標題(和) 鉄道車輪・レールの連成振動系における接触力変動に関する研究
標題(洋)
報告番号 112207
報告番号 甲12207
学位授与日 1996.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3750号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大野,進一
 東京大学 教授 田中,正人
 東京大学 助教授 金子,成彦
 東京大学 助教授 鎌田,実
 東京大学 助教授 須田,義大
内容要旨

 本論文は,『鉄道車輪・レールの連成振動系における接触力変動に関する研究』と題し,8章から成っている.

 第1章は「序論」であり,研究の背景と目的,従来の研究,研究の展開,及び論文の構成について述べている.先ず,本研究の背景と目的について述べ,次いで,従来の研究として,繰り返し接触に関する研究,車輪とレールの固有振動解析に関する研究,車輪の作用力に関する研究,車輪とレールの連成振動に関する研究などを紹介した後,従来の研究と本研究との異なる点について整理して説明している.更に,本研究の流れを図式で示し,最後に本論文の構成について述べている.

 第2章は,「解析モデルと運動方程式」と題し,解析モデルの作成方針,解析モデルの設定,及び運動方程式について述べている.はじめに,本研究で新たに考慮する要因の必要性について説明している.解析モデルの作成方針では,車輪・レール系の連成振動の特徴が考慮されること,車輪の慣性力を考慮し,その影響について検討すること,レールの振動を考慮すること,支持条件の影響を検討すること,及び接触力変動が把握できることなどを解析モデルに反映する方針について記述している.解析モデルの設定では,2軸台車の車両がレール上を走行する際,2軸台車の前・後輪を移動質量・接触ばね系としてモデル化し,枕木に支持されるレールは支持部に支持される弾性支持梁とし,枕木は支持剛性と粘性減衰で構成される支持部としてモデル化している.また,車輪とレールの間は,接触剛性と粘性減衰で構成される接触部としてモデル化している.その上で,解析モデルにおける車輪とレールの運動方程式を導出し,境界条件等について記述している.

 第3章は,「モデルの有効性の検討」と題し,解析モデルにおけるレール長の検討,及び数値解析結果と実測結果との比較について述べている.先ず,第2章で作成された解析モデルについて,解析するレールの長さが振幅に与える影響と振動数に与える影響について記述している.また,数値解析結果と実測結果との比較を行い,枕木の振動とレールの振動との関係に関する比較から解析モデルの妥当性の検討を行っている.最後に,解析モデルにおけるレールの長さを決める指針を提案し,本研究の解析モデルが妥当であると結論している.

 第4章は,「固有振動解析」と題し,固有振動方程式,及び固有振動の特性について説明している.先ず,系の運動方程式から導出された固有振動方程式について述べ,その固有振動方程式の解を求める方法について新たな方法を提案し,その解を求めている.また,固有振動の特性に関しては,系で考慮している接触ばねの影響について記述し,二つの車輪の場合において固有振動解析を行って,その特性について記述している.

 第5章は,「走行中の連成振動系の特性]と題し,一つの車輪とレールとの連成振動の特性,車輪・レール系の連成振動の特性,二つの車輪とレールとの連成振動の特性,及び2軸台車の前・後輪の相互作用について述べている.はじめに,一つの車輪とレールとの連成振動特性に関して,先ず,レールの振動について検討した後,車輪の振動について検討している.また,車輪とレールの間の接触力変動についても検討している.車輪・レール系の連成振動の特性では,解析結果から得られた連成振動の特徴と実測結果から得られた連成振動の特徴との比較を通して,車輪・レール系の連成振動の特性について記述している.二つの車輪とレールの連成振動の特性では,一つの車輪の場合と同じく,レールの振動,前・後輪の振動,及び接触力変動について記述している.2軸台車の前・後輪の相互作用では,2軸台車がレール上を走行する際,レールの振動,前・後輪の振動,及び前・後輪での接触力変動について記述し,2軸台車の前・後輪の振動の相互作用において後輪が受ける前輪の振動の影響について記述している.

 第6章は,「相対接触位置指数」と題し,相対接触位置指数の定義,及び接触力変動の特徴について説明している.はじめに,相対接触位置指数を提案する背景について述べ,相対接触位置指数と接触力変動との関係について記述している.相対接触位置指数については,2軸台車の前・後輪で軸距と枕木間隔から定義される相対接触位置指数の物理的な意義について記述している.接触力変動の特徴としては,2軸台車の前・後輪で発生する接触力変動が受ける走行速度の影響や枕木の剛性と粘性減衰の影響における,相対接触位置指数と前・後輪の最大接触力変動の比との関係を記述している.最後に,相対接触位置指数と前・後輪の最大接触力変動の比との関係から明らかになった,後輪の挙動について記述している.

 第7章は,「接触力変動の考察」と題し,定常状態での振動応答,及び走行中の振動応答について述べている.先ず,相対接触位置指数と前・後輪の最大接触力変動の比との関係から推察される前・後輪の相互作用について,定常状態での振動応答を基に検討している.すなわち,解析モデルにおいて車輪が走行するという動的な効果を無視し,前輪の位置で正弦加振する際の系の定常状態の振動の特性を求めている.次いで,走行中の振動応答では,車輪が走行することに伴う動的な効果を考慮し,系の過渡応答において,定常状態での振動の特性との比較検討について述べている.最後に,系の定常状態の振動応答に基づき,後輪の動吸振器的な役割が走行中の過渡応答でも推察されるとしている.

 第8章は,「結論」であり,各章で得られた結果を基に,本研究の結論をまとめて述べている.

審査要旨

 本論文は,『鉄道車輪・レールの連成振動系における接触力変動に関する研究』と題し,8章から成っている.

 第1章は「序論」であり,研究の背景と目的,従来の研究,研究の展開,及び論文の構成について述べている.先ず,本研究の背景と目的について述べ,次いで,従来の研究として,繰り返し接触に関する研究,車輪とレールの固有振動解析に関する研究,車輪の作用力に関する研究,車輪とレールの連成振動に関する研究などを紹介した後,従来の研究と本研究との異なる点について整理して説明している.更に,本研究の流れを図式で示し,最後に本論文の構成について述べている.

 第2章は,「解析モデルと運動方程式」と題し,解析モデルの作成方針,解析モデルの設定,及び運動方程式について述べている.はじめに,本研究で新たに考慮する要因の必要性について説明している.解析モデルの作成方針では,車輪・レール系の連成振動の特徴が考慮されること,車輪の慣性力を考慮し,その影響について検討すること,レールの振動を考慮すること,支持条件の影響を検討すること,及び接触力変動が把握できることなどを解析モデルに反映する方針について記述している.解析モデルの設定では,2軸台車の車両がレール上を走行する際,2軸台車の前・後輪を移動質量・接触ばね系としてモデル化し,枕木に支持されるレールは支持部に支持される弾性支持梁とし,枕木は支持剛性と粘性減衰で構成される支持部としてモデル化している.また,車輪とレールの間は,接触剛性と粘性減衰で構成される接触部としてモデル化している.その上で,解析モデルにおける車輪とレールの運動方程式を導出し,境界条件等について記述している.

 第3章は,「モデルの有効性の検討」と題し,解析モデルにおけるレール長の検討,及び数値解析結果と実測結果との比較について述べている.先ず,第2章で作成された解析モデルについて,解析するレールの長さが振幅に与える影響と振動数に与える影響について記述している.また,数値解析結果と実測結果との比較を行い,枕木の振動とレールの振動との関係に関する比較から解析モデルの妥当性の検討を行っている.最後に,解析モデルにおけるレールの長さを決める指針を提案し,本研究の解析モデルが妥当であると結論している.

 第4章は,「固有振動解析」と題し,固有振動方程式,及び固有振動の特性について説明している.先ず,系の運動方程式から導出された固有振動方程式について述べ,その固有振動方程式の解を求める方法について新たな方法を提案し,その解を求めている.また,固有振動の特性に関しては,系で考慮している接触ばねの影響について記述し,二つの車輪の場合において固有振動解析を行って,その特性について記述している.

 第5章は,「走行中の連成振動系の特性」と題し,一つの車輪とレールとの連成振動の特性,車輪・レール系の連成振動の特性,二つの車輪とレールとの連成振動の特性,及び2軸台車の前・後輪の相互作用について述べている.はじめに,一つの車輪とレールとの連成振動特性に関して,先ず,レールの振動について検討した後,車輪の振動について検討している.また,車輪とレールの間の接触力変動についても検討している.車輪・レール系の連成振動の特性では,解析結果から得られた連成振動の特徴と実測結果から得られた連成振動の特徴との比較を通して,車輪・レール系の連成振動の特性について記述している.二つの車輪とレールの連成振動の特性では,一つの車輪の場合と同じく,レールの振動,前・後輪の振動,及び接触力変動について記述している.2軸台車の前・後輪の相互作用では,2軸台車がレール上を走行する際,レールの振動,前・後輪の振動,及び前・後輪での接触力変動について記述し,2軸台車の前・後輪の振動の相互作用において後輪が受ける前輪の振動の影響について記述している.

 第6章は,「相対接触位置指数」と題し,相対接触位置指数の定義,及び接触力変動の特徴について説明している.はじめに,相対接触位置指数を提案する背景について述べ,相対接触位置指数と接触力変動との関係について記述している.相対接触位置指数については,2軸台車の前・後輪で軸距と枕木間隔から定義される相対接触位置指数の物理的な意義について記述している.接触力変動の特徴としては,2軸台車の前・後輪で発生する接触力変動が受ける走行速度の影響や枕木の剛性と粘性減衰の影響における,相対接触位置指数と前・後輪の最大接触力変動の比との関係を記述している.最後に,相対接触位置指数と前・後輪の最大接触力変動の比との関係から明らかになった,後輪の挙動について記述している.

 第7章は,「接触力変動の考察」と題し,定常状態での振動応答,及び走行中の振動応答について述べている.先ず,相対接触位置指数と前・後輪の最大接触力変動の比との関係から推察される前・後輪の相互作用について,定常状態での振動応答を基に検討している.すなわち,解析モデルにおいて車輪が走行するという動的な効果を無視し,前輪の位置で正弦加振する際の系の定常状態の振動の特性を求めている.次いで,走行中の振動応答では,車輪が走行することに伴う動的な効果を考慮し,系の過渡応答において,定常状態での振動の特性との比較検討について述べている.最後に,系の定常状態の振動応答に基づき,後輪の動吸振器的な役割が走行中の過渡応答でも推察されるとしている.

 第8章は,「結論」であり,各章で得られた結果を基に,本研究の結論をまとめて述べている.

 以上のように本論文は,鉄道車輪とレールの間に生じる接触力変動について,車輪とレールの接触部を接触剛性と粘性減衰でモデル化し,接触力変動に対する前・後輪の相互作用について主として数値計算によって検討したものである.その結論として,前・後輪の軸距と枕木間隔から定まる相対接触位置指数により,鉄道車輪・レールの連成振動系に対して,後輪が励振的にも制振的にも作用することを示している.従って本論文は,鉄道レールに発生する波状摩耗の原因と考えられる車輪・レール間の接触力変動に関して,工学上及び工業上有用な新たな知見を得ており,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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