学位論文要旨



No 112208
著者(漢字) メンドーサ デルガド ビクト
著者(英字) Mendoza Delgado Victor
著者(カナ) メンドーサ デルガド ビクト
標題(和) 押出し加工の3次元数値解析
標題(洋) THREE-DIMENSIONAL EXTRUSION PROCESS SIMULATION BY FINITE ELEMENT METHOD
報告番号 112208
報告番号 甲12208
学位授与日 1996.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3751号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木内,學
 東京大学 助教授 谷,泰弘
 東京大学 助教授 中尾,政之
 東京大学 助教授 柳本,潤
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
内容要旨

 熱間押出し加工は、各種異形断面形状を有する長尺部材、特に軽金属部材の製造に広く用いられている。本加工技術は、圧延加工に代表される他の長尺部材の加工技術と比較して、1パスの加工により大きな加工度すなわち断面減少率を付与し、複雑な異形断面形状を成形することが可能であるという特徴を有している。押出し加工時の工程・工具設計においては、1)被加工材の加熱温度、2)押出し比および押出し速度、3)ダイス形状、が製品に求められる形状および機械的特性を満足し、さらに、押出し加工の際に発生する面圧が工具各部の強度より十分低いことが要請される。これらの要因のうち、ダイス形状すなわちダイス穴位置、ダイスベアリング長さ、ダイステーパ角、フローガイド形状は製品の形状および押出し加圧力に大きく影響するため、これが押出し加工時の工程・工具設計において最も重要な要因であるとされている。特に平ダイスはテーパ付きダイスに比較してダイスの製造加工が容易かつ安価であるため、軽金属材料の熱間押出し加工に広く用いられているが、コンテナ内塑性流動の不均一性および押出し加圧力がテーパダイスを用いる場合と比較して高いために、ダイス穴位置、ダイスベアリング長さに代表されるダイス設計技術の高度化が従来より特に強く要請されてきた。ところが、平ダイスによる熱間押出し加工の際に被加工材に生じる3次元塑性流動の精密な解明が従来不可能であったため、ダイス設計は経験的・実験的知見をもとにした試行錯誤により行われてきたのが実状であった。

 本論文では,異形材の押出し加工におけるダイス設計技術の高度化を目指し、異形材の押出し加工に適用し得る3次元FEM解析技術の開発およびこれを利用したダイス設計技術の高度化の方策について、系統的な研究を実施した結果をまとめている。具体的には、3次元剛塑性FEMによる、矩形材・アングル材・チャンネル材・T形材・H形材・L形材の押出し加工の系統的な解析を通し、ダイス穴位置・ダイスベアリング部長さの押出し加圧力・コンテナおよびダイスベアリング部塑性流動・押出し部材の曲がり等に及ぼす影響について明らかにするとともに、従来の経験的知見に基づくダイス設計指針の妥当性についても論じている。各章の内容は以下の通りである。

 第1章は序論であり、押出し加工の数値変形解析に関する研究事例についてまとめるとともに、押出し加工時のダイス設計への計算機援用法について述べている。

 第2章では、本研究において適用した異形材の押出し加工の3次元FEM解析手法について述べている。本研究においては、異形材の押出し加工時にダイスおよびコンテナ内部に発生する3次元塑性流動を、擬定常3次元剛塑性FEM解析により求めている。フラットダイスによる押出し加工のFEM解析は、軸対称・3次元を問わず従来全く行われていなかったが、本研究では、被加工材の流動応力式がひずみ速度依存性のみを持ち得るように近似することにより、フラットダイスによる押出し加工の擬定常3次元剛塑性FEM解析が可能であることを見いだし、さらにこの解析手法を適用することにより、ダイスベアリング部に発生する速度分布の精密な解明が可能であることを示した。

 第3章〜第5章では、各種異形材の押出し加工時に発生する押出し加圧力および塑性流動について、押出し部の断面形状ごとにまとめるとともに、従来の経験的なダイス設計指針の問題点および限界について論じている。

 第3章では、平ダイスによる異形材の押出し加工のうち最も基本的な、矩形材および正多角形部材の押出し加工について述べている。まず、第3章〜第5章において3次元塑性流動解析結果を定量的に論じるための指針について検討を加え、平ダイスによる押出し加工時のダイス形状を表すパラメータとしては、ダイス穴位置とダイスベアリング長さが最も重要であること、ダイス穴位置はビレット中心軸とダイス穴中心軸との離心量(Eccentricity)で定義し得ること、等の結論を得た。さらに、ダイスおよびコンテナ内塑性流動を評価する指標について検討を進め、ダイス内に発生する不均一な塑性流動は、ダイスベアリング部押出し方向各断面内での押出し方向速度の標準偏差により定量的に評価し得ること、コンテナ内塑性流動、特にコンテナ内部に発生するデッドメタル形状については、擬定常3次元剛塑性FEM解析の結果得られるひずみ速度分布より定量的に評価し得ることを示した。以上の結果を踏まえ、ダイス穴位置およびダイスベアリング部の長さを系統的に変化させた場合の数値シミュレーションを実施し、平ダイスによる矩形材および正多角形部材の押出し加工においてはビレット中心軸と押出し部中心軸が一致する場合が、押出し加圧力・ダイスベアリング部塑性流動のいずれについても最適であることを確認し、また、押出し部の曲がりを抑止するために必要な最適ベアリング長さが存在することを示した。

 第4章では、比較的単純な断面の押出し、すなわちアングル材、チャンネル材、C形材の押出しについて、ダイス穴位置およびダイスベアリング長さの、押出し加圧力およびダイス内塑性流動に及ぼす影響について検討を実施した。これらの異形材の押出し加工においては、ダイス穴位置が押出し加圧力およびダイス内塑性流動に大きく影響を及ぼし、それぞれを最適とするダイス穴位置が存在すること、本章にて解析対象とした断面については押出し加圧力とダイス内塑性流動についての最適ダイス穴位置はほぼ一致すること、また、最適ダイス穴位置は押出し部重心がビレット中心軸と一致した場合に近く、従来の経験的知見に基づくダイス設計法が妥当であることを示した。ダイスベアリング部の不均一な塑性流動に基づく押出し部の曲がりについては、これを抑止する最小ダイスベアリング長さが存在すること、最小ダイスベアリング長さはダイス穴位置と押出し部断面のアスペクト比に影響され、薄い部材を押し出す場合ほど最小ベアリング長さが長くなることを明らかにした。

 第5章では、複雑な断面を有する部材の押出し、すなわちL形材、T形材、H形材の押出しについて検討を実施した。これらの断面の押出しについての最適ダイス穴位置は、前章にて述べたアングル材、チャンネル材、C形材の押出しの場合とは異なり、押出し部重心がビレット中心軸と一致した位置とは異なるため従来の経験的知見に基づくダイス設計法が不適切であること、換言すれば、部材の断面形状が複雑になればなるほど経験的知見に基づくダイス設計法が適用できなくなり、3次元FEM解析による塑性流動解析の重要性がより増すことが明らかになった。

 第6章では、第3章〜第5章の結果を踏まえ、種々の押出し部断面形状を有する異形材の押出し加工の解析を容易に実施するための、ダイス・コンテナおよび被加工材についての有限要素モデルの作成方法を論じた。いうまでもなく、異形材の押出し加工のダイス設計における3次元FEM解析技術はこの分野の今後の高度化のキーテクノロジーであるが、これを実用化するためには、有限要素モデルの作成方法の自動化が必須である。また本章では、ダイス・コンテナ内部に発生する非定常塑性流動の解析手法について、新たな手法を提案している。

 第7章は総括であり、擬定常3次元剛塑性FEM解析を適用することにより得られた各種断面の押出し時の塑性流動およびダイス設計法について総括するとともに、より複雑な断面形状の押出しに対する本手法の適用について展望した。

 本研究において示してきた一連の異形材押出し加工についての3次元塑性流動は、擬定常3次元剛塑性FEM解析の適用により初めて解明することが可能となったものである。この手法の特徴は、数千の要素を適用したダイス・コンテナ内の精密な塑性流動の解析が、比較的短時間(1〜5時間)で実施できることにある。これより本手法は、各種の押出し加工の3次元塑性流動の定量的・系統的な解明を通し、今後の押出し加工技術の工程・工具設計の高度化に大きく寄与するものである。

審査要旨

 本論文は、金属塑性加工分野で近年ますます重要性が増しつつある異形材押出し加工における3次元FEM解析技術の開発およびこれを利用した押出し加工の工程・工具(ダイス等)設計技術の高度化の方策について総合的な研究を実施した結果をまとめたものである。具体的には、3次元剛塑性FEMによる矩形材・アングル材・チャンネル材・T形材・H形材・L形材の各押出し加工の系統的な解析を行い、ダイス穴位置・ダイスベアリング部長さ等が押出し加圧力・被加工材の塑性流動・製品の曲がり等に及ぼす影響について明らかにするとともに、従来の経験的知見に基づくダイス設計指針の妥当性ならびに見直しについて論じたものである。

 まず本論文では、平ダイスによる異形材の押出し加工のうち最も基本的な矩形材および正多角形部材の押出し加工について述べてある。すなわち、被加工材の3次元塑性流動解析結果を定量的に論じるための指針について、平ダイスによる押出し加工時のダイス形状を表すパラメータとしては、(1)ダイス穴位置とダイスベアリング長さが最も重要であること、(2)ダイス穴位置はビレット中心軸とダイス穴中心軸との離心量(Eccentricity)で定義し得ること、等の検討結果を示している。さらに、ダイスおよびコンテナ内における被加工材の塑性流動を評価する指標について、(3)ダイス内での被加工材の不均一な塑性流動は、ダイスベアリング部各断面内での押出し方向速度の標準偏差により定量的に評価し得ること、(4)コンテナ内での被加工材の塑性流動、特にコンテナ内部に発生するデッドメタル形状については、擬定常3次元剛塑性FEM解析の結果得られるひずみ速度分布により定量的に評価し得ること、等を示している。

 次に、本論文では、比較的単純な断面で構成されるアングル材、チャンネル材、C形材の押出し加工について、ダイス穴位置ならびにダイスベアリング長さが押出し加圧力および被加工材のダイス内、コンテナ内での塑性流動に及ぼす影響について検討した結果が示されている。これらの異形材の押出し加工においては、(1)ダイス穴位置が押出し加圧力ならびに被加工材のダイス内塑性流動に大きく影響を及ぼし、それぞれを最適とするダイス穴位置が存在すること、また、(2)最適ダイス穴位置は、押出し部重心がビレット中心軸と一致する位置近傍に存在することが示され、この解析結果は、従来の経験的知見に基づくダイス設計法と比較して妥当であること、(3)ダイスベアリング部での被加工材の不均一塑性流動に基づく押出し部の曲がりについては、これを抑止するに必要な最小ダイスベアリング長さが存在すること、(4)最小ダイスベアリング長さはダイス穴位置と押出し部断面のアスペクト比に影響され、薄い部材を押し出す場合ほど最小ベアリング長さが長くなること、等を明らかにしている。また、(5)比較的複雑な断面で構成されるL形材、T形材、H形材の押出しについての最適ダイス穴位置は、上記のアングル材、チャンネル材、C形材の押出しの場合とは違い、押出し部重心がビレット中心軸と一致した位置とは異なること、すなわち、押出し部材の断面形状が複雑になればなるほど経験的知見に基づくダイス設計法が不適切であり、3次元FEM解析による塑性流動解析の重要性がより増すこと、等が示されている。

 以上、異形材押出し加工における被加工材の3次元塑性流動の解明を中心とした一連の解析は、本研究によって提案された3次元剛塑性FEM法により初めて達成できたものであり、実際の異形材押出し加工技術に関する諸問題の解決ならびに工程・工具設計に関し系統的かつ総合的な考察を可能とし、この分野の学問的・工業技術的発展に大きく寄与するものであると評価できる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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