審査要旨 | | 本論文は,Cooperation of Multiple Robots by CDCSMA-CD Communication Method and GSGM Movement Modelと題し,「複数のロボットによる協調動作」を,「それぞれのロボットの持つ情報を共有し,一つあるいは複数の作業を互いに補いながら行うこと」と定義し,この時重要となる互いのロボット間の情報の有効な扱い方と複数ロボットのための一般的な移動モデルについて考察し,ロボットの協調動作のためのCDCSMA-CD通信方式とGSGM移動モデルを提案している.CDCSMA-CD(Code Division Carrier Sensing Multiple Accesses with Collision Detection)は符号および搬送検波分割多重接続の略であり,GSGM(Group Shape Generating Model)はロボット集団形状形成モデルの略である. 第一章では,研究の背景と目的について述べられている. 第二章では,本論文の目的であるロボットの協調動作の定義について論じていて,それを実現するために必要な要件及び機器構成についての述べている.また,複数ロボット間のインターフェイス及び協調動作の長所短所について論じている. 第三章では,複数ロボット間の通信方式について考察し,ロボット協調動作のための通信方式として既存のTDMA,FDMA及びCDMAとして分類される各種多重通信方式が不適当であることを論じ,新しい通信方式CDCSMA-CD通信方式を提案している.この方式は,CSMA(Carrier Sensing Multiple Access)とCDMA(Code Division Multiple Access)の長所を複合した方式であるが,従来の通信方式と異なり,ロボットの協調動作のために設計された通信方式であり,ロボット間のpoint to point通信とbroadcast通信の両方に適用することができる.point to point通信においては,各ロボットは別々の符号系列を割り当てられており,送信者は受信者の符号系列をデータの上に重ねた後送信する.この符号系列に対応した受信者のみ正しいデータを受信することができ,その他のロボットはデータを得ることができない.さらに,複数のpoint to point通信を同時に行うことが可能である.broadcast通信においては,受信者すなわち他のすべてのロボットをいくつかの組に分割して送信する方法を用いることで,システムの効率をあげることができる.これは,受信側のロボットが常に受信可能な状態にあるわけではないため,受信可能なロボットの組にのみ送信することで,全てのロボットが受信可能になるまで送信側のロボットが待つ必要がないためである. 以上のような特徴を持つCDCSMA-CD通信のためのハードウェアプロトタイプを設計・製作し,評価のための実験を行っている.その結果,CDCSMA-CD通信の効率はロボットの協調動作のための多くの通信方式の中で最も高いことを示し,また通信におけるNear-Far問題に対する解決方法を提案している 第四章では,複数ロボットに協調動作をさせるための移動計画(Motion planning)について述べている.協調動作を行うためには,3つのプロセスすなわち,Task Planning,Task Assignment及びTask Accomplishmentが必要であることを述べ,また,ロボットの移動モデルは,Potential Field Model,Rule Based Model及びCommunication Based Modelに分類されることを述べている.そして,これらを概観した後,ロボットの協調動作に適した移動計画の方法としてGSGM(Group Shape Generating Model)を提案している. このモデルは,分散処理型のモデルで,上に述べた3つの動作モデルの結合したものとなっている.複数ロボットの複雑な協調動作は,すべてそのロボット集団の基本的な形状,例えば直線,曲線,円,多角形などを形成するための動作で構成される.本論文で提案しているGSGM移動モデルは,局所経路計画で良く用いられるポテンシャル場と仮想インピーダンスと定型行動モデルを組み合わせた移動モデルであり,ロボット集団の形状を一般的に生成できるため,複数ロボットによる協調動作のために非常に有効である.GSGMでは,各ロボットは自己の状態,他のロボットの状態また外部環境の情報を利用して,現在の自己加速度を決定する. 第五章では,以上で提案したロボット協調システムの評価を行っている.協調動作の例題として,荷物運搬,物体の再配置,移動対象物の追跡,部品の組立作業,未知環境の探索と地図の作製等の作業を複数のロボットで実現する課程をシミュレーションにより実現している.また,4自由度ロボット2台とアームロボット1台からなるロボット群を用いて簡単な実験を行い,その結果からも本論文で提案した協調ロボットシステムは有効であることを示している. 以上,本論文は,複数ロボットによる協調作業を実現する上で必要になる通信システム及び移動モデルについて新しい提案を行い,その有効性を示した意欲的な論文である. よって,本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められろ. |