本論文は特にマイクロセルのような小規模なセルにおけるFDD/DS-CDMAセルラーシステムについての検討を行った。小さなサイズのセルを用いるシステムにおいては、セル間トラヒックの不均一性が生じ、これに対する技術が重要な課題となる。本博士論文ではトラヒックの異なるセル間の容量を最適かし、バランスをとる手法についての研究を行った。具体的には、以下に述べるような方式を提案した。 MARPoR-Maximun Average Receiving Power Restriction SIR(Signal-to-Interference Ratio)に基づくパワーコントロールを行うシステム(以下SIR方式)のために、最大平均受信電力の制限を満たす呼受付制御法(CAC)を提案する。 セル間のトラヒックの不均一のバランスをとるためには、トラヒックの大きいセルにおける受信電力はその小さいセルにおける受信電力と比較して大きくなるように制御する必要がある。その結果、最大のシステム容量を得ることができる。SIR方式では、全てのリンクにおいて等しい品質を達成することにより、効果的にトラヒックのバランスをとることができる。しかし、SIR方式のシステムには負荷が高い場合にシステムが不安定になるという問題がある。よって、システムが不安定になる前に新たな呼の受付を禁止する必要がある。 提案する呼受付制御法(MARPoR)はSIR基づくパワーコントロールを行うCDMAシステムにおいて、システムが不安定になる前に呼の受付を禁止するものである。シミュレーションの結果、MARPoRを用いたシステムは従来のものと比較して効果的にセル間のトラヒックのバランスを取るということが明らかになった。特にトラヒックの高いセルにおいてMARPoRは良好な呼損率を示した。さらに、アップリンクにおけるMARPoRを用いたSIR方式は、基地局において受信電力レベルを計測することのみで行う事ができる。このため、MARPoRはネットワーク全体の情報を必要としない単純な制御によって達成される。 IMM-Integrated Macrocell/Microcell 同一のRF帯域をマイクロセル・マクロセルの2つの階層で使用し、帯域の有効活用を図る方式を新しく提案し、これをIntegrated Macrocell/Microcell(IMM)と名付ける。 CDMAセルラーシステムにおいては全ての端末が同時に同じ帯域を使用する。また、CDMAは特定の区域内で電力の競合を行うシステムであると考えられる。よって、セル中においては同一階層での電力制御に加えて、新たに異なる階層間で帯域の共有を行うことにより、トラヒックの変動を緩和する事を考える。 Integrated Macrocell/Microcell(IMM)は新しく提案する概念である、そこではCDMAはセル階層をを持ち、それらの帯域の共有を行う。IMMでは分散アンテナのマクロセルを用いる。このため、マイクロセル環境に大きな干渉電力を与えるのを避けることができる。まず、提案するように、マイクロセル・マクロセルの階層の統合を行った場合の一階層におけるトラヒックが別の階層の容量に及ぼす影響について考察した。 IMMと従来のようにマイクロセルとマクロセルの階層が完全に分離されているシステムを比較した結果、IMMマクロセルのサービス品質を従来のシステムより落とすこと無く、IMMマイクロセルにおけるサービス品質を大幅に向上することができることが明らかになった。IMMマイクロセルユーザの優れたサービス品質は、高負荷時のマイクロセルを用いた対応を可能にする。 DHE-Downward-hierarchy Handover Enforcing IMMを用いたシステムにおいてマクロセルからマイクロセルへ強制的に階層間ハンドオーバを行わせることにより呼損率を改善する方式を提案する。 マクロセルユーザとマイクロセルユーザの違いは主にハンドオーバ、またはユーザの速度によって定まるネットワーク制御である。即ちマクロセルのユーザは、同じ大きさのセルが与えられた場合にマイクロセルユーザより多くのハンドオーバが必要である。IMMのような帯域を共有するシステムでは負荷の小さいマイクロセルがハンドオーバ要求の多いユーザを収容することが可能になる。 IMMマクロセルユーザ、IMMマイクロセルユーザの呼損率を改善する方法をDownward-hierarchy Handover Enfoecing(DHE)と名付けて提案する。DHEは全体の負荷の小さい地域のマクロセルユーザをマイクロセルに移行することにより、負荷の高い地域のマイクロセルユーザ、マクロセルユーザの競合を低減する。負荷の小さい地域のマクロセルユーザをマイクロセルに移行することにより、そのマクロセルチャネルを解放する。これにより、負荷の高い地域のユーザ数を解放した分のクロセルのチャネルに収容することができる。 |