学位論文要旨



No 112214
著者(漢字) ジラッティティジャローン,アモンテープ
著者(英字) Jirattitichareon Amorntep
著者(カナ) ジラッティティジャローン,アモンテープ
標題(和) CDMAセルラシステムにおける不均一なトラヒック負荷分散の研究
標題(洋) A Study of Non-uniform Traffic Balancing Methods in CDMA Cellular Systems
報告番号 112214
報告番号 甲12214
学位授与日 1996.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3757号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 原島,博
 東京大学 教授 斎藤,忠夫
 東京大学 助教授 相田,仁
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨

 本論文は特にマイクロセルのような小規模なセルにおけるFDD/DS-CDMAセルラーシステムについての検討を行った。小さなサイズのセルを用いるシステムにおいては、セル間トラヒックの不均一性が生じ、これに対する技術が重要な課題となる。本博士論文ではトラヒックの異なるセル間の容量を最適かし、バランスをとる手法についての研究を行った。具体的には、以下に述べるような方式を提案した。

 MARPoR-Maximun Average Receiving Power Restriction

 SIR(Signal-to-Interference Ratio)に基づくパワーコントロールを行うシステム(以下SIR方式)のために、最大平均受信電力の制限を満たす呼受付制御法(CAC)を提案する。

 セル間のトラヒックの不均一のバランスをとるためには、トラヒックの大きいセルにおける受信電力はその小さいセルにおける受信電力と比較して大きくなるように制御する必要がある。その結果、最大のシステム容量を得ることができる。SIR方式では、全てのリンクにおいて等しい品質を達成することにより、効果的にトラヒックのバランスをとることができる。しかし、SIR方式のシステムには負荷が高い場合にシステムが不安定になるという問題がある。よって、システムが不安定になる前に新たな呼の受付を禁止する必要がある。

 提案する呼受付制御法(MARPoR)はSIR基づくパワーコントロールを行うCDMAシステムにおいて、システムが不安定になる前に呼の受付を禁止するものである。シミュレーションの結果、MARPoRを用いたシステムは従来のものと比較して効果的にセル間のトラヒックのバランスを取るということが明らかになった。特にトラヒックの高いセルにおいてMARPoRは良好な呼損率を示した。さらに、アップリンクにおけるMARPoRを用いたSIR方式は、基地局において受信電力レベルを計測することのみで行う事ができる。このため、MARPoRはネットワーク全体の情報を必要としない単純な制御によって達成される。

 IMM-Integrated Macrocell/Microcell

 同一のRF帯域をマイクロセル・マクロセルの2つの階層で使用し、帯域の有効活用を図る方式を新しく提案し、これをIntegrated Macrocell/Microcell(IMM)と名付ける。

 CDMAセルラーシステムにおいては全ての端末が同時に同じ帯域を使用する。また、CDMAは特定の区域内で電力の競合を行うシステムであると考えられる。よって、セル中においては同一階層での電力制御に加えて、新たに異なる階層間で帯域の共有を行うことにより、トラヒックの変動を緩和する事を考える。

 Integrated Macrocell/Microcell(IMM)は新しく提案する概念である、そこではCDMAはセル階層をを持ち、それらの帯域の共有を行う。IMMでは分散アンテナのマクロセルを用いる。このため、マイクロセル環境に大きな干渉電力を与えるのを避けることができる。まず、提案するように、マイクロセル・マクロセルの階層の統合を行った場合の一階層におけるトラヒックが別の階層の容量に及ぼす影響について考察した。

 IMMと従来のようにマイクロセルとマクロセルの階層が完全に分離されているシステムを比較した結果、IMMマクロセルのサービス品質を従来のシステムより落とすこと無く、IMMマイクロセルにおけるサービス品質を大幅に向上することができることが明らかになった。IMMマイクロセルユーザの優れたサービス品質は、高負荷時のマイクロセルを用いた対応を可能にする。

 DHE-Downward-hierarchy Handover Enforcing

 IMMを用いたシステムにおいてマクロセルからマイクロセルへ強制的に階層間ハンドオーバを行わせることにより呼損率を改善する方式を提案する。

 マクロセルユーザとマイクロセルユーザの違いは主にハンドオーバ、またはユーザの速度によって定まるネットワーク制御である。即ちマクロセルのユーザは、同じ大きさのセルが与えられた場合にマイクロセルユーザより多くのハンドオーバが必要である。IMMのような帯域を共有するシステムでは負荷の小さいマイクロセルがハンドオーバ要求の多いユーザを収容することが可能になる。

 IMMマクロセルユーザ、IMMマイクロセルユーザの呼損率を改善する方法をDownward-hierarchy Handover Enfoecing(DHE)と名付けて提案する。DHEは全体の負荷の小さい地域のマクロセルユーザをマイクロセルに移行することにより、負荷の高い地域のマイクロセルユーザ、マクロセルユーザの競合を低減する。負荷の小さい地域のマクロセルユーザをマイクロセルに移行することにより、そのマクロセルチャネルを解放する。これにより、負荷の高い地域のユーザ数を解放した分のクロセルのチャネルに収容することができる。

審査要旨

 本論文は、「A Study of Non-Uniform Traffic Balancing Methods in CDMA Cellular System(CDMAセルラシステムにおける不均一なトラヒック負荷分散の研究)」と題し、マイクロセルにおける、セル間トラヒックの不均一性を解決する方式について論じたもので、英文で書かれており、7章よりなる。

 第1章は、「Introduction(序論)」であり、小さなセルからなるFDD/DS-CDMA(Frequency Division Duplex/Direct Spread-Code Division Multiple Access)におけるセル間トラヒックの不均一による特性劣化を防止する方法を提案することを述べている。

 第2章は、「Literature Review(既存の研究の調査)」と題し、CDMAセルラシステムにおける不均一トラヒックの負荷分散の既存の研究を調査している。

 第3章は、「MARPoR:A CAC Criterion for SIR-Based Power control(MARPoR:SIRに基づく電力制御のためのCAC方式)」と題し、SIR(Signal-to-Interference Ratio)に基づく送信電力制御に関連して、新しい呼受付制御法(CAC)を提案し、解析を行っている。すなわち、トラヒックの多いセルにおいては受信電力が大きくなるように制御する必要がある。SIR電力制御法には、呼量が大きくなると、システムが不安定になるという短所がある。この短所をカバーする方法として、システムが不安定となる直前に新しい呼の受付を禁止するMARPoR(Maximum Average Receiving Power Restriction)と呼ぶ方式を提案し有効性の解析を行っている。

 第4章は、「Integrated Macrocell/Microcell(IMM):Design and SIR Capacity Performance(マクロセルとマイクロセルの統合:方式設計と干渉軽減による容量の増大)」と題し、同一のRF帯域をマイクロセル方式ならびにマクロセル方式の2つの階層で使用し、帯域の有効活用をはかる方式を提案し、解析を行っている。すなわち、提案方式では、マイクロセルとマクロセルは共有の分散アンテナを用い同一帯域で利用する。このため、各々に割り当てる容量を可変とすることが可能であり、マイクロセル階層でのトラヒックの局所的な偏りを許容可能な方式であることを示している。

 第5章は、「Integrated Macrocell/Microcell:Traffic Blocking(マクロセルとマイクロセルの統合:呼損率)」と題し、前章で提案した方式の有効性をシミュレーションにより示している。

 第6章は、「Downward-Hierarchy Handover Enforcing(DHE)in IMM(IMMに於ける下層階層へのハンドオーバ)」と題し、負荷の小さい地域のマクロセルユーザをマイクロセルに移行させ負荷分散を行う方式を提案し解析を行っている。これにより、マイクロセルユーザ数を増大させ、局所的に負荷の高い地域にも対応できることを示している。

 第7章は、「Conclusion and Future Direction(結言と今後の課題)」であり、成果と課題について述べている。

 以上これを要するに、FDD/DS-CDMAにおけるトラヒックの不均一性に注目し、効率良くチャンネルを割り当てる研究を行い、電力制御方式のためのMARPoRと呼ぶ呼受付制御方式、マクロセル、マイクロセル2階層構成をとるIMM方式、DHEと呼ぶハンドオーバー方式等の新しい提案を行いその有効性を示したものであり、電気通信工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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