軽水炉や高速増殖炉のコスト低減は大きい課題でありその可能性のある新概念炉を検討する意義は大きい。本研究は超臨界圧水を冷却材とした原子炉の冷却材喪失事故の解析と確率論的安全評価を行ったものである。論文は6章より成っている。 第1章では本研究の目的と背景が述べられている。 第2章では超臨界圧軽水冷却炉の冷却材喪失事故(LOCA)解析コード、SCRELAの開発について述べている。超臨界圧軽水冷却炉のLOCA挙動は既存軽水炉と異なった特徴がある。まず、LOCA時のブローダウン過程は超臨界圧力から始まる。これは既存のLOCA解析コードでは扱うことができない。また、LOCA発生時には冷却材ループが隔離弁によって遮断されるが、この原子炉は直接サイクルではあるが、再循環ループを持たない貫流型であるため、既存の軽水炉で生じるような両端破断にはならず片端破断になる。 SCRELAはブローダウン解析モジュールと再冠水解析モジュールより構成されている。ブローダウン解析モジュールの熱水力解析には平衡均質流(HEM)モデルを採用している。計算で最も重要な臨界流モデルについては、亜臨界圧下の二相流領域ではMoodyモデルを、超臨界圧下では擬臨界温度以上の場合には亜臨界圧下の過熱蒸気領域での相関式を、擬臨界温度以下の場合には亜臨界圧下の液相領域での相関式を使用している。 再冠水解析モジュールの熱水力解析には平衡均質流相対速度モデルを使用し、二相流領域での運動量保存式に気液相対速度の相関式を用いている。再冠水過程ではクエンチ点付近で急激な熱伝達係数の変化が数値不安定を引き起こすので、これを防止するためクエンチ点付近の計算ノードを通常の1/100の大きさまで細かく分割して計算している。これらの工夫によりSCRELAはワークステーション上で安定な計算を実行でき、設計研究に用いるのに適当なコードとなっている。 検証のために日本原子力研究所でPWR用に開発されたREFLA-TRACコードの計算と比較している。超臨界圧からのブローダウンでも2秒程度で亜臨界圧となるので、それ以降の両者の計算結果を比較し、よい一致を得て、SCRELAのLOCA解析の妥当性が検証されたとしている。 第3章ではSCRELAを用いて熱中性子炉(SCLWR)のLOCA解析を行っている。ブローダウン過程初期には蓄熱の再分配と熱伝達の劣化によって被覆管温度は急激に上昇するが、それ以降は、あまり上昇しない。特にホットレグ破断より厳しい結果を与えるコールドレグ破断についても破断後約60秒後に最高温度約1000℃が炉心中央部に現われるが、これはステンレス鋼被覆管軽水炉の制限値1260℃より低いとしている。 第4章では高速増殖炉(SCFBR)のLOCA解析を行っている。まずSCLWRと同じECCSを仮定して解析しているが、その結果は安全制限値を満足しなかった。これはSCFBRは稠密燃料格子であるので、熱伝達の悪化が生じて再冠水が遅れるためであるとしている。そこで被覆管の温度上昇を抑制するために蓄圧注入系を新たに設計し、自動減圧系の動作遅延時間も調整している。改良された安全系に基づいてSCFBRのLOCA解析を行い、最高被覆温度は1230℃でステンレス鋼被覆管の制限値1260℃より低いことを示している。 第5章では、超臨界圧軽水冷却炉の安全系のバランスや特徴を検討するために、イベントツリーを用いる簡略化確率論的安全評価を行っている。安全系を検討して、改良型沸騰軽水炉の安全系と似た構成の安全系を採用している。米国と日本の確率論的安全評価研究結果を参考にして、初期事象確率やシステムの不作動確率を求め、初期事象として、四つのLOCA事象と外部電源喪失事故を選定して解析を行い、炉心損傷確率が日本の従来のBWRの評価と同じ程度となることを示している。 第6章は結論であり、本研究結果の要旨を取りまとめている。 以上のとおり、本論文における研究成果は超臨界圧軽水冷却炉の大破断LOCA時の安全性を決定論的な方法により確認するとともに、確率論的な方法によるプラントの安全性の評価を行いその成立性を示しており、システム量子工学研究に対する寄与は少なからぬものであると評価される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |