セラミックスの脆性の克服を目的とし、脆さのめやすともなる破壊靭性を的確に評価可能とする試験方法の確立および高い靭性を有する粒子分散複合材料の設計指針を得るための研究を行い、以下の知見を得ている。 第1章は緒論であり、本研究の背景及び研究の目的と意義が述べられている。 第2章においては、セラミックスにおける新しい破壊靭性試験法の確立とJIS化について述べられている。従来提案されていた種々の試験法の問題点を克服し、標準化に値する体系化された試験法の確立を目的とし、脆性予き裂導入法をセラミックスに応用した新しい破壊靭性試験法としてSEPB法(Single Edge Precracked Beam法)を提案した。まず、予き裂導入時のき裂の進展・停止条件を破壊力学的およびFEM解析を用いて検討し、予き裂導入治具を完成させると共に、安定き裂進展を伴った場合のR曲線挙動について考察し、KICを的確に評価するためにはpop-inき裂を予き裂として導入する必要があることを示した。次いで、測定値に及ぼす予き裂面開閉口挙動の影響、予き裂形状の影響等の詳細な検討結果を踏まえて、標準化に値する試験方法として体系化したことを示した。そして本方法をJIS規格選定のための調査研究委員会に提案し、室温用破壊靭性試験法JIS-R1607として制定させることができたことを示した。 さらに、SEPB法を高温用に適用すべく以下の検討を行った。まず高温破壊靭性評価の問題点として特に応力負荷速度依存性に着目し、応力負荷速度依存性が発現される場合の測定値の有効/無効の判定条件を、曲げ破壊試験中に起こる安定き裂成長と、それに付随して生じるコンプライアンス変化に着目して検討し、破壊力学的に有効とみなせる測定値を得るための望ましい試験条件の提案を試みた。き裂面の酸化による融着を防ぐためには不活性雰囲気中での評価が必要であること、安定き裂成長長さaの許容範囲としてはa≦0.02a(aは予き裂長さ)を満足すること、さらにコンプライアンス変化の許容範囲として≦0.1a/W(Wは試験片幅)を満足する必用性を示した。これら安定き裂成長に関する制限を盛り込んだSEPB法が高温用規格JIS-R1617として採用されたことを示した。また、SEPB法は、韓国、ドイツの国家規格にも採用され、ISO国際規格化も推進中であることを示した。 第3章では,粒子分散セラミックスの強靭化挙動の理論解析と実験的検証について述べている。粒子分散セラミックスの強靭化挙動については、分散粒子の存在に伴う2種類の内部応力乱れの効果に着目し、1)熱膨張係数差に起因した熱残留応力の効果、及び、2)弾性係数差に起因した内部応力乱れの効果、を同時に考慮した新しいエネルギー解放率の複合則をEshelbyの等価介在物法を用いて理論的に導出し、得られた巨視的なエネルギー解放率の複合則から破壊靭性値KICが算出可能であることを明らかにした。また提案された理論式により、さまざまな物性をもつ材料同士の任意の体積分率からなる粒子分散複合材料のKICを推定することが可能であることを示した。 理論解析結果の妥当性を検証する目的で、充分に緻密化させたSiC-Al2O3系(母相中に微視的な圧縮残留応力が生じる)およびAl2O3-SiC系(母相中に引張残留応力が生じる)粒子分散材料の靭性評価を行い、両材料ともに体積分率と分散粒子径の増大に伴って靭性の向上が認められ、それらの実験結果は理論解析による推定値と比較的良く一致することを明らかにした。また、SiC-TiC複合材料の文献値と本研究による推定値の比較検討を行い、推定値が文献による実験値と良く一致することを示した。 上記の結果に基づき、粒子分散セラミック複合材料の設計においては、複合化した際の靭性に大きな影響を与える内部応力乱れが最も有効に作用するようにマトリックスと分散粒子の諸特性(靭性、ヤング率、熱膨張係数、分散粒子径)の組合せを最適化することが重要であることを示した。 第4章においては、本論文で得られた成果の総括を述べた。 以上、本研究では、セラミックスの破壊靭性に関し、まず、新しい破壊靭性試験法としてpop-in予き裂を用いたSEPB法を提案すると共に、測定値に及ぼす種々の影響因子の詳細な検討を通じて、標準化に値する試験方法として体系化し、室温用および高温用のJIS規格制定に貢献している。さらに粒子分散複合セラミックスの靭性に及ぼす組織因子について、巨視的なエネルギー解放率の複合則の分散粒子の存在による変化を解析し、高靭性粒子分散材料の設計指針を与える重要な知見を示しており、材料工学に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |