学位論文要旨



No 112244
著者(漢字) 李,力
著者(英字)
著者(カナ) リ,リキ
標題(和) 離散付値環上の3次曲面
標題(洋) CUBIC SURFACES OVER DISCRETE VALUATION RINGS
報告番号 112244
報告番号 甲12244
学位授与日 1996.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第64号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 堀川,穎二
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 助教授 寺杣,友秀
 東京大学 助教授 小木曽,啓示
内容要旨

 Rを離散付値環,KをRの商体,kをRの剰余体とする.この論文では,主に以下の問題を考える.

 問題:XKをK上の非特異3次曲面とする.R上のgenericファイバーがXKと同型である"よい"整型スキームXがあるか?

 もちろん,この問題は,二部分に分かれる.まずは,"よい"というのは,なんでしょうか.そして,"よい"Xが存在するか.

 A.Corti[1]は以下の定義を提案した.非特異3次曲面に対して,R上平坦な閉部分スキームが,下の条件を満たせば,XKのstandard integral modelと呼ばれる.

 a).XのgenericファイバーがXKと同型で,specialファイバーが被約かつ既約である.

 b).Xが孤立cDV特異点しか持たない.

 Standard integral modelを作るために,Corti[1]は,具体的にプログラムを提案した.非特異3次曲面にCortiのプログラムを応用して,このプログラムが終止すれば,下のような整型閉部分スキームを得ることができる.

 1).XのgenericファイバーがXKと同型である;

 2).XのspecialファイバーX0(XKの還元(reduction)ともいう)が被約かつ既約である;

 3).X0上に,重複度2以上の直線がない;

 4).X0上に,重複度3の点がない.

 Cortiは,Rが上の曲線上の局所環である場合(ここで幾何的な場合と呼ばれる)に,このようなXは,standard integral modelになることを証明した.Cortiは,彼の提案したプログラムが終止すると予想した.また幾何的な場合に,そのプログラムを終止させることができると証明した.したがって,幾何的な場合には,standard integral modelがある.

 前述の問題は,整数論との繋がりを持つ.たとえば,H.P.F.Swinnerton-Dyer[4]は非特異3次曲面XKの還元X0上の有理点の研究によって,XK上の有理点のuniversal equivalence relationを研究した.(Yu.I.Manin and M.A.Tsfasman[3]参照).

 この論文では,まず,幾何的でない一般の場合には,前述の1),2),3),4)を同時に満たすXが存在しない例を挙げる.

 Theorem.R,K,kを前述と同様にして,をRの極大イデアルの生成元とする.Kの標数が2,3でなく,また,任意のa∈k,a3≠2と仮定する.x1,x2,x3,x4の斉次座標として,XKを以下の方程式で定義される非特異3次曲面とする.

 

 このXKに対して,任意の前述の1)を満たす整型閉部分スキームのspecialファイバーX0の上に,重複度は3の直線がある.

 次に,K上の非特異3次曲面XK上の27本の直線がK上に定義される場合に,前述の問題を考える.

 Theorem.R,K,kを前述と同様にして,K上の非特異3次曲面XK上の27本の直線がK上に定義されると仮定する.u,v,w,tをの斉次座標とする.このXKに対して,以下の条件のうちの一つと前述の1)を満たす整型閉部分スキーム存在する.

 1°.XのspecialファイバーX0が以下のような方程式で定義される.

 

 a,,,,d∈k,fは既約.この場合は,X0が被約かつ既約で,たかだか重複度2の孤立特異点しか持たない.

 2°.XのspecialファイバーX0が以下のような方程式で定義される.

 

 a,b∈k,a≠0,b≠0.この場合は,X0が被約かつ既約で,重複度2の直線u=v=0を持つ.X0のすべての特異点が,直線u=v=0の上にあり,その重複度は2.

 最後に,二つの直線を持つ非特異3次曲面上の有理点のuniversal equivalence relation(Manin[2])を考える.

 Theorem.Kを無限体として,を二つの直線l1,l2を持つ非特異3次曲面とする.

 (1).l1∩l2だったら,S上のすべてのK-有理点が一つのuniverssl equivalence classに属する.

 (2).l1∩l2だったら,S上のK-有理点のuniversal equivalence clssが多くとも二つある.この場合に,universal equivalence classが一つしかないのと,下の条件とは同値.

 Nをl1とl2で生成される平面とする.あるK-有理点x∈N,yNとK上の直線が存在して,lとSのintersection cycleがx+x+yであるか又は,x,y∈l⊂S.

REFERENCES1.A.Corti,Del Pezzo surfaces over Dedekind schemes,Ann.of Math.?.2.Yu.I.Manin,Cubic Forms,2nd edition,North-Holland Publishing Company,1986.3.Yu.I.Manin and M.A.Tsfasman,Rational varieties,algebra,geometry and arithmetic,Russian Math.Surveys 41(1986),51-116.4.H.P.F.Swinnerton-Dyer,Universal equivalence for cubic surfaces over finite and local fields,Symposia Mathematica Bologna 24,Academic Press,1981,p.111-143.
審査要旨

 Rを離散附値環,Kをその商体,kをRの剰余体とする.論文提出者 李力 はR上の3次曲面Xの構造を研究した.

 まず,次のような問題を考えた:K上の滑らかな3次曲面XKを与えたとき,それのR上への平坦な拡張Xで「よい」ものがとれるか?

 CortiはRがC上の曲線の局所環になる場合を研究し,Xとして次のようないわゆる「スタンダード・モデル」が取れることを証明した:(1)k上のファイバーXkは既約かつ被約で,(2)Xは孤立cDV特異点のみを持つ.

 李はこの結果をRが一般の離散附値環の場合に拡張しようと試みた.その結果,kが代数閉体でない場合には,スタンダード・モデルが存在しない例を構成した.

 そこで,XK上の27本の直線がすべてK上に定義されるような特別の場合を考えた.この場合には,Xとして2種類の標準形のうちのいずれかがとれることを証明した.第一の標準形はスタンダード・モデルになるが,第二のほうは重複度2の直線を持つ.

 Xのよいモデルの研究はXKの有理点の研究と密接に関係する.それは,XによってXKの有理点とXkの有理点が関係するからである.李はXKの有理点の集合のuniversal equivalence ralationについて考察し,いくつかの準備的な結果を得た.

 よって、論文提出者李力は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク